迫る脅威と休日
ロンドン市街から少し離れた古びた空き家。
そこに片腕の男が窓から入る。
「首尾はどうだ?」
失われた方の腕が本来あるはずの付け根を忌々しそうに擦る。
「おかげで、順調と言ったところだ。かなりの数の人間を提供してもらったからな。お陰で、十分すぎるくらいだ。」
ザドキエルが話しかけた男は、大量の人間の死体が積みあがった部屋の隅から答える。
「つくづく、不快な魔術だな。」
ザドキエルが早くこの場から立ち去りたいと言わんばかりに毒を吐く。
男は不気味な笑い声をあげながら言った。
「だが、その魔術を求めたのは貴様だろう。大天使、ザドキエル…。」
名前を呼ばれたザドキエルは、鼻を突く死臭の匂いから目を逸らす。
男は、尚も言葉を続ける。
「貴様は自身の腕を切り落とした女に復讐をし、俺は自身から次期当主の座を奪った男の命を奪いその座に戻る。WINWINの関係だ、仲良くやろうじゃないか。」
先程から浮かべる不気味な笑みを一層強めると、男は再び作業に戻った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「どこかに遊びに行きたい!」
ウィザード家に来て2日が経ち、すっかりと生活にも慣れた俺はルルから借りたゲーム機で遊んでいるとサタンの声が響く。
暇だから来い、とサタンから言われてルルとルミナとリヤドと共にサタンの部屋に集合していた。
「行きたければ、行けばいいじゃん。別に俺は特に外に行く予定とかないけど。」
俺は画面を見ながら適当にサタンに返事をした。
「私はせっかく集まったから、5人でどこかに行きたいのだ!」
せっかく集まった、と言うがお前が来いと言ったから来ただけだぞと言いたい。
「まあ、私は構いませんが。夜にはまた集まりがありますからそんなに長くは遊びには行けないと思いますよ。」
俺の隣で一緒にゲームをしているルルがサタンの方を振り向いて言う。
どうやら、また夜に昨日のような集まりがあるらしい。
良家のお嬢様ともなると大変だなと思った。
「そうなんだよな。今いるメンバーでまた出ないといけないから行くとしたら近くになるんだよな。」
サタンの残念そうな声が聞こえる。
「ん?俺もその夜のに出ないといけないのか?面倒だからパスしたいんだけど。と言うか、さっさと帰れるなら日本に帰りたい。」
予想外の予定に俺は全力で拒否の姿勢を示した。
サタンは椅子に座ったまま、腕組みをしながら俺に言ってきた。
「いや、そもそも目的がお前を見ることだろうから出るのは確定だぞ。魔術関係者からしたら、何で日本の一介の高校生に闇能力の魔術が現れたってことでな。」
「またよく知らない人間と大勢会うの疲れるから部屋の中で引きこもっていたいんだけど。お前らが日本に出発するまでの日にちまで。と言うか、もう俺だけ先に帰っていいだろ。」
転移魔術は通常に動かせれるようになっているらしいので、俺だけ先に帰るのは可能なはずだ。
「諦めろ。こればかりは、うちの面子というモノもある。」
「面子の為だけにこちらの気持ち無視なのか…。」
俺は呆れながら言った。
「わ、私はどこかに行くのは構いませんが…。ちなみにどこに行きたいのですか?」
今まで黙っていたルミナがサタンに尋ねる。
サタンは少し考えると、
「ちょうど、昼前だからな。昼ご飯を食べに行って、どこか遊べそうなところに行こうかなと考えていた。」
「もし、その予定なら今から出発した方がよろしいかと。あまり遅い時間ですと、混んで並ぶことになりそうですが。」
リヤドが混雑するのを危惧してサタンに言う。
サタンはそれを聞くと、俺を見てきた。
昼食くらい頼めばこの家で出て来るだろ、とも思ったが拒否権なんてないだろうと思い立ち上がった。
「いいよ、お供しますよ。俺もちょうどおなか減ってきたところだし。ちなみに何食べに行くの?」
「まだ、特に考えていない。何なら、初めてイギリスに来たのだから剣が決めていいぞ。」
「俺が決めていいのか。じゃあ、フィッシュアンドチップスを食べてみたい。」
俺は、一度本場のを食べてみたいと思ってサタンに言った。
「フィッシュアンドチップスですか。別に日本でも食べれそうな気もしますが…。」
せっかく、イギリスに来たのに日本で食べれそうなモノを食べたいのかと言わんばかりにルミナが小声でボソッと言った。
「イギリス料理、って言うとそれくらいしか思いつかないからさ。」
俺は立ち上がると、ウルを膝に乗せて毛並みを撫でているルミナに言った。
すると、先程まで一緒にゲームをしていたルルが携帯の画面を俺達に見せてきた。
「近場で美味しいお店ですと、ここですかね。近くにカラオケとかもありますので、時間潰しにも最適かと。」
ルルの言葉にサタンは、じゃあそこにするかと言った。
バスを使い、数10分ほどだろうか。俺達は飲食店などが並ぶ通りに立っていた。
「ここの角を右に曲がってすぐの場所ですかね。」
道案内をするルルを先頭にして俺達は歩く。
まだ、12時前だからだろうかどの店もそこまで人の往来は激しくなさそうだった。
俺達は外に置かれている陽ざしを防ぐパラソルが刺さっているテーブルの1つに座った。
店員が水を人数分配ると、ルルがフィッシュアンドチップスを5人前とそれぞれ飲みたいジュースを頼んだ。
「よくこうやって、4人で遊びに行ったりするの?」
俺はサタンに尋ねた。
サタンは水を一口飲むと、
「まあ、そうだな。基本的に学校も小学校からずっと同じだったから私達だけで帰る時とかはどこかに遊びに寄って家に帰ったりとかはよくあるな。」
「意外と庶民的な感じなんだな、お前らって。」
「別に王族でも何でもないしな。」
サタンが何を言っているんだ、とばかりに言う。
自分で良家のお嬢様だの言っていたのはどこのどいつだと思った。
まあ、良家のお嬢様なだけで俺みたいな一般人が想像するような束縛的なモノはないのかもしれない。
「そう言えば、この後はカラオケに行くのですか?」
サタンの隣に座っていたルミナが聞いた。
「一応、その予定だな。」
「俺、英語の歌とか歌えないんだけど。」
俺はカラオケに行く雰囲気の話にツッコんだ。
「別に日本の歌なんていくらでも歌えるぞ。私達3人は。主にアニメ関連になるが。」
サタンはそう言うと、リヤドの方を見た。
「まあ、コイツは歌えないだろうけど。」
「そもそも、リヤドとカラオケ行ったところでこの男が歌っているところをほとんど見たことないのですが。」
ルルが即座に言う。
まあ、確かに自分から歌いそうなタイプではないよな。
そんな話をしていると、注文していた料理を持った店員が来た。
店員は俺達に料理の乗った皿を配ると、軽くお辞儀をして店の中へと戻っていった。
「じゃあ、とりあえずこの後はカラオケに行くことにするか。おっ、久しぶりに食べると美味いものだな。」
サタンはそう言うと、器用にナイフとフォークを使って料理を食べ始めた。
俺もそれに習うように慣れないナイフとフォークで料理を切り分けて食べ始めた。
料理を食べ終えて、支払いを済ませてきたルルとリヤドが戻ってくると俺達は席を立った。
「さて、食後がてら歌ってカロリー消費するか。」
サタンは大きく伸びをすると、言った。
「ルミナさんは日本の歌とか歌えるの?」
俺は、サタンとルルが並んで歩いていく後ろを付いていくルミナと並ぶと尋ねた。
「まあ、サタン様とルル様が日本のアニメをよく見ていましたので隣で見ていたおかげで有名なのは大体覚えました。」
サタンとルルもそうだが、このルミナもどうやら日本の知識は偏ってそうだ。
「まだ、2人のことをさん付けと君付けで呼んでいるのか。」
サタンが俺達の方を振り向いて言ってきた。
まだ、と言うか会ったばかりで2日程度しか経っていないのだ。
最初からそれなりに砕けた感じでコミュニケーションを取ってきたお前と違うのだから当然だろ。
「私はどんな呼び方でも構いませんが。」
ルミナが俺に言ってきた。後ろを歩くリヤドを見ると、同じように軽く頷いた。
俺は少し考えると、
「じゃあ、ルミナちゃんとリヤドって呼び方にするか。」
その言葉にサタンは満足そうな顔をした。
「その方がいいぞ。どうせ、昨日も言ったが長い付き合いになるだろうからな。」
そう言うと、目的の場所に着いた。
俺達は店内に入ると、受け付けを済ませ指定された部屋へと向かった。
「よーし!何から歌おうかな。」
お腹が膨れて上機嫌のサタンがいの一番に機械を取り、捜査を始めた。
そして、俺達が席に座った瞬間だった。
店の外から激しい音がすると、建物が大きく揺れるのを感じた。
そして、外からは人の悲鳴声が聞こえてきた。




