ウィザード家でのパーティー
慣れないタキシードのサイズが合っているかどうかを確かめる。
普段、着たことがないから違和感が凄い。
逆に、リヤドは普段から着ることに慣れているのかその長身とイケメンも相まって絵になっていた。
ルミナの自宅から帰った俺は、掃除が終わった自室に戻るとベットの上に寝転び携帯で動画を見たりしながら夜まで暇を潰していた。
そして、時間が近づくとゼノヴィアが着る服の寸法を合わせるからとこの部屋に連れて行かれた。
「サイズはどうでしょうか?」
ゼノヴィアが俺に尋ねる。
「まあ、大丈夫かな。何かパリパリしていて着心地が悪いんだよな。」
俺は普段の制服よりもパリッとした質感があるタキシードに気持ち悪さを感じていた。
「慣れてください。そう言うものです。」
メイド服を着こなしているゼノヴィアが言う。
「リヤドはこの手のパーティーにはよく出てるの?」
俺はソファーの上で座っているリヤドを見ると話しかけた。
リヤドはチラッと俺の方を見ると、
「まあ、そうですね。こう言ったパーティー自体は珍しいモノではないですからね。月に数回くらいは出てます。」
流石は紳士の国、イギリスだな。そんな頻繁にパーティーとか面倒すぎて年に数回くらいでいいかなと俺は思った。
そんな会話をしていると、部屋の外から聞き慣れた声が聞こえてきた。
そして、ドアがバタンと勢いよく開かれる。
「準備は終わったか?」
無駄にデカいサタンの声が響く。
「この通り、寸法の方も終わらせましたので。いつでも。」
ゼノヴィアがサタンに俺とリヤドの方を見ると、言った。
サタンの後ろからはルルとルミナの姿が見えていた。
3人ともドレスに着替えていた。
「おー。」
俺は3人のドレス姿に見入ると、思わず声を上げた。
3人ともそれぞれ、実に似合っていた。
「何か凄くイヤらしい視線を感じるのですが。」
ルミナが冷たい視線で言うと、全く盛り上がっていない胸元を隠した。
ルミナのドレスは黒を基調としたものだった。対して、ルルのドレスは白を基調としたものだった。
ルルに関しては、普段の服装も白を基調としたのが多いので白と言う色自体が好きなのかもしれない。
そして、サタンはと言うと真っ赤なまさに本人の派手な性格を体現しているかのようなドレスだった。
「派手だな、やっぱりお前のドレスは。」
サタンに俺は言った。
加えて、サタンとルルに関しては大きな胸元が強調されていて何と言うか色っぽい。
俺はそんなことを考えながらルミナの方を見た。
「何でしょうか?何か言いたいことがあるのなら聞きますよ。」
ルミナは俺が再度向けた視線に気づくと、睨みつけるように俺に言った。
「いや、人の成長はそれぞれなんだなって。」
俺は貧相なルミナの胸を見ると鼻で笑うように言った。
「この男!今からでもいいので、私の刀の錆にしてやりましょう!」
顔を真っ赤にしたルミナが俺に詰め寄る。
「はいはい、喧嘩しないでください。」
やれやれと言わんばかりにルルが俺達の間に入る。
「まあ、実際ルミナの胸は貧相だからな。しょうがないな。」
「サタン様まで!」
ルミナはサタンにまで言われたのか、目に涙を浮かべて怒っていた。
「そろそろ、開始の時間ですが会場に行きますか?」
眼前で行われている光景に何も思っていなさそうなリヤドがサタンに言う。
サタンはその言葉に頷いた。
「じゃあ、行くか。まあ、剣もそんな身構えなくていいぞ。全員、ウィザード家とその部下の家の者ばかりだから。軽く、顔合わせみたいなものだと思っていい。」
「まあ、よく分からないから美味いモノを食べれたら俺はそれでいいよ。」
「好きなだけ食うと良い。酒は一応、私達は未成年だから飲む飲まないは自己責任だがな。」
「いや、未成年だから飲まねえよ。何、危ないこと言ってるんだよ。」
俺はいつも通り、サタンと軽口を言い合いながら部屋の外へと出た。
そして、サタンを先頭に廊下を歩くと会場と思わしき部屋へと着いた。
「よし、じゃあ入るぞ。」
サタンはそう言うと、ドアを開いた。
そこには大勢の人がいた。昨日、会ったサタンの家族や午前中に会ったばかりのクレアの姿もあった。
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サタンの父のキールの直属の部下の人と話をしたりした後、どっと疲れが込みあがってきた。
俺は、バイキング形式の料理を皿にいくらか盛ると会場の隅のテーブルに置いた。
流石に初対面の人と話をしすぎて、疲れたみたいだ。別にコミュ障とかではないがこう言った大勢の人がいる場が得意なわけではない。
パーティーは中盤に差し掛かり、男女でペアになってダンスが行われていた。
正直、そう言った経験がない俺には踊るような相手もいないし今のうちに料理を食べようと思っていた。
周りを見ると、サタンの姿が見えないなと思った。
最初の方は家族達と談笑している姿は見ていたのだが。
そんなことを考えながら料理を口に運んでいると、料理をいくつか盛った皿を片手に持った人間が現れた。
「あれ?ルミナさんじゃん。」
俺は同じ机に来た疲れ果てた人物の名を呼んだ。
呼ばれたルミナはと言うと、まさかこの机に人がいるとは思っていなかったのか驚いた表情をしていた。
「何で、ここに剣殿が。ここのテーブルはパーティーで疲れた際の私の特等席だったのに…。」
特等席って何なんだ、と俺は思った。
いや、それなら家族とかいる場所に行けばいいじゃないかとも思った。
周りを見渡すと、少し離れた場所に妹のクレアの姿も見えた。
「こういう場は苦手なの?」
俺が尋ねると、ルルは答えにくそうな顔をした。
「まあ、そうですね。正直、大勢の人がいる場と言うか何というか…。」
歯切れの悪そうな声で言うと、ルミナはテーブルに置いていた皿を持ち上げた。
「剣殿には関係ないことですから。パーティーを楽しんでくださいね。私はこれで。」
そう言うと、コソコソと会場から逃げるように出て行った。
サタンから人見知りが激しいとは聞いていたが相当な人見知りだな。
俺は、喉が渇いてグラスに入れていたジュースを一口飲むと料理を食べ始めた。
イギリス料理は美味しくない、みたいなイメージがあったが全然美味しかった。
「もしかしたら、暇ですか?」
後ろから突然声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはルルが立っていた。
「まあ、暇って言われたら暇かな?何て言うか単純に疲れちゃってさ。」
サタンの父のキールの直属の部下の3人にリヤドを交えて話していたのだが、中々にキャラが濃い人達だった。
「もし、よろしければ一緒に踊りませんか?」
ルルは俺に向かって唐突に言った。
「いや、まあ別に踊るのは全然いいけど…。こう言った社交ダンスって言うの?そう言うの踊った経験ないから出来る気しないけど大丈夫そう?」
「大丈夫ですよ。私の方もゆっくり踊りますので、合わせていただければ。私の方も剣さんの踊りのペースに合わせますので。それに、私も一緒に踊る相手なんていませんので。剣さんさえよろしければ、是非。」
そう言うと、ルルは俺の前に右手を差し出してきた。
俺はその手を見ると、少しだけ恥ずかしそうに言った。
「普通、こういうのって男側がするような気もするんだけど…。」
「私の方から誘ったんですから、別におかしくありませんよ。」
ルルはそう言うと、俺の左手を軽く掴むと軽やかな足取りでダンスが行われている会場の中央へと俺を引っ張っていった。
俺は流れに身を任せるようにして、ルルの動きに合わせるので精一杯だった。
ルルは、慣れているのかステップを踏みながら俺をリードしてくれる。時節見せる笑顔がとても印象的だった。
5分ほど、一緒に踊っただろうか。俺は額に軽く汗が流れているのを感じた。
ルルはそれを察したのか、踊りを続けながらテーブルがいくつか置かれているエリアへと連れて行ってくれた。
「ありがとうございました。お上手でしたよ。」
ルルは笑顔で俺にお世辞を言った。
正直、動きに合わせるだけでヘトヘトだった。
俺はルルに笑って応えた。
何か言葉を発しようと軽く呼吸を整えていると、ルルがポケットから出したハンカチで俺の額の汗を拭いてくれた。
「とても楽しかったですよ。もしよかったら、また相手をさせてくださいね。」
ルルはそう言うと、満足気に姉のロミがいる方へと歩いて行った。
俺はそんなルルの後ろ姿を見た後、さてどうしようかと悩む。
リヤドの方を見ると、数名の男女の集団と話していて入る気は起きない。
少し、夜風にでも当たりたいなと思った。
俺は、会場を後にすると廊下に出た。
廊下を少し歩くと、そこには窓から外を眺めているサタンの姿があった。
「何してるの、お前?」
俺はサタンに思わず声をかけた。
さっきから会場にいないなと思っていたが、外にいたのは予想外だった。
「うん?何だ、剣か。まあ、疲れたからな。少し、外の景色を眺めていた。」
「お前ってたまに感傷的なところあるよな。」
俺はそう言うと、サタンの隣で窓の外を眺めた。
夜空が綺麗だった。
「ここ数日、色々あったからな。何と言うか、人生の中で一番濃い1週間だった気がする。」
「そのセリフ、どちらかと言うと俺が言いたいんだが。」
俺は呆れたようにサタンに言った。
サタンはと言うと、何が可笑しいのか笑っていた。
「そうだな。お前の方がもっと色々あっただろうからな。」
そう言うと、サタンは夜空を見上げた。俺もその視線に誘導されるかのように一緒に見上げた。
「なあ、剣。これから、多分もっと色々なことが起きると思う。」
「出来るなら、そうなって欲しくないんだけど。もうすでに人生の中で起きるはずがないような目に巻き込まれまくってるんだから。」
俺はサタンの言葉に素早くツッコむ。
サタンは俺のそんな言葉を無視して、続けた。
「お前が望まなくてもすでに歯車は回り始めているんだよ。その中心にお前がいるような気が私はするんだ。」
そんな歯車があるのなら、今すぐにでも破壊したいのだが。
俺はため息をついた。
「長い付き合いになるんだ、そんなため息をつくな。改めて、よろしくな。」
サタンがニヤリと笑みを浮かべると言う。
そして、右手を俺の顔の前に差し出してきた。
「出来ればそうはなって欲しくないんだけどな。」
俺は苦笑いを浮かべて、サタンの右手を握り握手を交わした。




