ツンデレな剣士の自宅へ
朝の陽ざしが目に入る。
カーテンを誰かが開けたようだった。
「おはようございます。もう朝の9時ですよ。」
メイド服を着た女性がカーテンを完全に開けると、くるまっていた布団を思い切り剥がした。
声の感じ的に昨日、車を運転していた女性だろう。
名前は何て言ったっけ?ゼノヴィアとかサタンが言っていた気がする。
「いや、時差ボケと学校にも行く必要ないからもう少し寝させて欲しいです。」
俺は布団から出たくない、と言わんばかりにゼノヴィアに背中を向けてミノムシのようにくるまった。
「残念ながら、シーツの替えと洗濯がございますので起きていただきます。」
そう言うと、ゼノヴィアはベットの上でミノムシと化した俺を転がしてベットから落とした。
「いった!流石に扱いが雑すぎない?」
俺は地面に落とされると、ベットの角を掴み立ち上がった。
まだ、昨日の疲れが残っているのか頭がクラクラする感覚がある。
ゼノヴィアはそんな俺を一瞥すると、昨日着ていた俺の服を渡してきた。
「昨日着ておられた衣服は洗濯と乾燥は致しましたのでさっさと着替えてください。それとも、今日はその寝巻のまま夜のパーティーにご出席を?」
冷たい声で俺に言う。
「分かったよ、起きますよ。」
俺はゼノヴィアに言うと、着替えることにした。
着替え終わり、掃除をするからと部屋を追い出された俺はサタンの実家の廊下を歩いていた。
とりあえず、サタンかルルに会って夜までの暇をつぶせる予定を作っておきたい。
俺がそんなことを考えながら、食堂へと向かった。
朝ごはんを用意してあるから、食堂にいるシェフに言って食べて来いとゼノヴィアから言われたからである。
俺は眠そうな目を擦りながら、食堂の中へと入った。
「あら?剣さん、おはようございます。今日は随分と遅い起床ですね。」
フリルの付いたドレスのような服を着た銀髪の少女のルルがすでにいくつか用意されていた席の1つに座っていた。
すでに朝ご飯は食べ終えていたのか、食後の紅茶を優雅に啜っていた。
「時差ボケと学校ないのダブルだから寝れる時間まで寝ようと思ったら、ゼノヴィアさんだっけ?あの人に掃除するから出てけって部屋を追い出されたんだよ。」
俺は、頭をかきながらルルに言った。
そのままの流れで、厨房にいたシェフの1人に朝ごはんを頼んだ。
ルルからは昨日の時点で日本語で話しても言語が通じる魔術はかけてもらったので意思疎通はバッチリのようだ。
俺は、トレイに並べられた朝食を受け取るとルルの座っている席に相席した。
「今日は何か予定はあるんですか?」
紅茶を啜りながらルルが尋ねてきた。
俺は、食パンにバターを塗りながら答えた。
「いいや、全く。夜まで暇だから、それこそリヤド君とルミナさん?の家にサタンとルルちゃんと一緒に行こうかなってくらいかな。」
そう言うと、俺は食パンを一口齧った。
「そう言えば、お姉さまが昨日そんなこと言ってましたね。ただ、一緒に同行したいんですけど2人とも挨拶回りが入ってしまって多分同行出来なさそうなんですよ。お姉さまの方もすでに準備済ませてお父様達と出ていますので私の方も遅れて行かないといけなくて。」
ルルは申し訳なさそうに言った。
俺はそれを聞くと、掃除が終わり次第自室に引きこもろうかと考えていた。
そんなことを考えながら朝ごはんを食べていると、足元に何か小動物の気配を感じた。
俺が足元を見ると、そこには白い綺麗な毛並みをした犬が1匹いた。
俺が存在に気づくと、その犬はルルの足元を忙しく駆け回っていた。
ルルは、地面からその犬を抱き上げると俺の前に見せてきた。
「紹介しますね。私の飼っているペットのウルです。」
ウルと呼ばれた犬は、ワンワンと鳴きながらこっちを見てきた。
ルルはウルの頭を少し撫でると、俺に言った。
「そう言えば、無理な頼みになるかもしれないのですけどこの子も日本に一緒に連れて行ってもよろしいでしょうか?普段の世話や散歩は私が1人でしますので、飼える場所だけ提供していただければいいんですが…。」
俺は少し小柄な犬を見ると、ルルに言った。
「うーん、母親次第だろうけど大丈夫なんじゃないかな?まあ、俺からも言っておくけど上手い事うちの母親と交渉してよ。」
俺がそう言うと、ルルは少しばかり曇らせていた顔を輝かせた。
そして、よかったですねと小声で言うとウルの頭を嬉しそうに撫でた。
ウルは撫でられると嬉しそうにルルに甘え始めた。
「一応、剣さんのご両親や弟さんの前では見せないようにしますけどこの子も普通の犬じゃないんですよね…。」
「まあ、そんなことは予想してたけど。何が普通じゃなかったりするの?あんまり、ヤバそうなら流石に飼うのはためらうけど…。」
「あっ、そこは大丈夫です。普段は力を抑えさせているので。ただ、この子はベオウルフと呼ばれる魔犬でしてね。簡単に言いますと…。」
ルルはそう言うと、ウルを地面に置いた。
すると、ウルの体から淡い光が浮かぶと動物園にいるライオンくらいの大きさに変化した。
「うん、まあ家の中で突然その大きさにならないなら大丈夫かな…。」
急に抑えている本来の姿に変わらないなら、見た目は完全にただの小型犬だろうし。
「ありがとうございます!一応、私の命令がないと姿は変わらない制約にしているので私がいない時間帯に急に姿が変わるとかはないので安心してください。」
ルルはそう言うと、カップに入っていた残りの紅茶を飲みほした。
そして、思い出したかのように携帯を出すと俺に画面を見せてきた。
「私とお姉さまは今日は夜まで剣さんとご一緒出来ないので、こちらがルミナさんの家の住所になりますので、もし良ければ行ってみては如何ですか?リヤドとは話をしたみたいですけど、ルミナさんとはあまり話されてなさそうなので。」
「話されてなさそう、って言うかあの子が俺のことを目の敵みたいにしてくるんだよなー。」
「まあ、身内以外の人間にはリヤド以上に警戒心が強い方なので。悪い人じゃないんです。ちょっと人見知りでコミュニケーションの取り方が下手なだけなんです。」
「コミュ障です、って遠回しに言ってるようなもんだよね。それ。」
俺は呆れながらルルに言った。
ルルはその言葉に少し笑うと、席から立ち上がった。
「では、私は夕方まで予定を済ませてきますので。また、夜のパーティーで。」
そう言うと、小さく頭を下げてウルを連れて食堂から出て行った。
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朝ごはんを食べて暇になった俺は、ルルに紹介されたルミナの家に行ってみようかと思った。
携帯のナビアプリに住所を打ち込んだ。ここから、歩いて5分以内で着く場所のようだ。
「食後の散歩がてら行ってみるか。」
俺は独り言を呟くと、屋敷の門をくぐり抜け、大通りに出た。
朝の通勤ラッシュを過ぎたからか、そもそも休日だからかそこまで車の往来も人の往来も激しくない。
俺は人通りの少ない大通りを歩くと、サタン達の家ほどじゃないが自身の住んでいる家よりはデカい一軒家を見つけた。
「ここか。門は開いているみたいだし、門番みたいなのもいないし、インターフォンもないからそのまま入ればいいのかな。」
俺は軽く辺りを確認すると、失礼します、と聞こえるか聞こえないレベルの小さな声で門をくぐった。
玄関に立ち、インターフォンを見つけボタンに指で触ろうとした時。
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
玄関の裏から女性の声が聞こえてきた。
俺は何だろうと思い、裏に回った。
すると、そこには木刀を構えていたルミナが素振りをしていた。
俺はその姿を物陰から見ていると、
「誰ですか?そこにいるのは。」
一瞬で気づかれたようだ。ルミナがこちらの方向をじろりと見てきた。
俺は隠れるのをやめて、ルミナの前で出て行った。
「あっ、どうも。」
俺は軽く会釈をすると、ルミナに手を振った。
ルミナは俺の姿を見ると、顔をしかめた。
「あなたでしたか?物陰から見るなんていい趣味をしていますね。」
「別に隠れてたわけじゃないんだけどな。ルルちゃんからここの家の住所教えてもらったからお邪魔しようとしたら声が聞こえてきたから何だろうと思っただけだよ。」
「なら、堂々と来てください。紛らわしい。」
ルミナは俺を睨むと、木の枝にかけていたタオルを掴み額に浮かんでいた汗を拭った。
「ちなみに何をしているの?」
俺は汗でびしょびしょになっているルミナに尋ねた。
この寒い時期に朝からご苦労なことだ。
「ただの鍛錬です。毎日の日課みたいなものです。今日は休日ですので、朝にしていただけの話です。」
「鍛錬?」
俺が聞き返すと、ルミナは汗を拭き終えたタオルを再び木の枝に戻した。
「私はサタン様とルル様の付き人を目指しているのです。少しでもあの人達の実力に追いつく必要があるだけです。」
そう言うと、再び木刀を構えた。そして、目を閉じて精神統一のようなモノをしていた。
突然、目を開くと風を切る音と共に両手で構えていた木刀を思いっきり上下へと振り下ろした。
「そう言えば、武術が得意なんだっけ?」
「よく覚えていますね。そうですね、と言うか私の場合は魔力がないのでそれしか出来ないだけの話ですが。」
俺は木刀を振り下ろす動作を続けるルミナを見ながら言った。
そんな時だった。
「あっ、珍しい!お客さんが来ている!ねえ、お姉ちゃん!誰それ?」
突然、上から甲高い声が聞こえてきた。
上を見上げると、ルミナによく似ている赤い髪をポニーテールに結んだ少女が窓から顔を出していた。
そして、その少女は窓から飛び降りてきた。
「とうっ!!!」
掛け声とともに豪快に飛び降りてきた少女は地面に華麗に着地してみせた。
2階からでそれなりの高さのある場所からの着地にも関わらず、少女は平気そうな顔をしていた。それに、着地の直前に地面から比喩表現ではなく少しばかり電撃のようなモノが少女の周辺を駆け巡っていたような気がする。
「クレア!品がないですよ!」
ルミナが少女を見ると呆れるように言った。
どうやら、少女の名前はクレアと言うらしい。
クレアと呼ばれた少女は俺の足元に来ると、ジィっと興味深そうに見てきた。
背丈的に小学生の高学年くらいだろうか。
「紹介します。私の妹のクレアです。クレア、この方が昨日言っていたサタン様とルル様と共に日本から来た剣殿です。」
クレアの紹介を簡単に済ませたルミナが俺のことをクレアに教えた。
「初めまして!クレア・ランスフォードと言います。そこで木刀を振るっている人の妹です。」
そう言うと軽く頭を下げた。
「こんにちは、クレアちゃん。ルミナさんの知り合いで剣って言います。」
俺はクレアに軽く自己紹介をした。
「別にあなたと知り合いになったつもりはまだないのですが…。」
ルミナは後ろから俺に言ってきた。
「お姉ちゃんは人見知りが激しいからね。ちゃんと仲良くしないとダメだよ。」
年の離れた妹に言われたのか、ルミナはバツの悪そうな顔をする。
「余計なお世話です。剣さんも、特に用がないのでしたら、もう帰ってください。私は午後からすることがあるので。」
そう言うと、シッシッという風に俺とクレアを追い払おうとした。




