最強の少女の両親との面会
飛行機に乗ること数10時間。俺は人生で初めて異国の地に降り立った。
ロンドンの地はすっかり夜で真っ暗になっているのが、飛行機の窓の外からも分かった。
俺は長旅で凝り固まった肩を叩くと、首を数回ポキポキと回した。
「疲れた…。」
俺は慣れない長旅にポツリと呟いた。
空港に到着したと思って降り立つと、そこは建物も何もない滑空場だった。
隣には眠そうに目をしゃぱしゃぱさせているサタンがいた。
「ふあぁ~。おはよう。よく眠れた。」
大きく伸びをしたサタンが言ってきた。
「おはよう、ってもう夜なんだけど。お前、今日の夜寝れるのかよ。」
「知らない。まあ、寝れなかったらルルの部屋辺りに遊びに行くとしよう。」
「私が寝れなくなるのでやめてください。」
俺とサタンの会話にルルが口を挟む。
「そう言えば、ルルちゃんは眠そうじゃないね。」
特に疲れた様子も眠そうな様子もないルルに俺が聞いた。
ルルは少しだけ自慢気に答えた。
「元々、夜更かしは得意ですからね。1日、最大3時間くらい寝れば基本的に次の日に支障は出ないんです。」
ふふん、とばかりに胸を張って答えた。
同い年の女性と比べても明らかに大きな胸がここぞとばかりに際立つ。
女性経験があまりない俺には相変わらず刺激的な光景だ。
俺は少し目を逸らした。
「そう言えば、この後の予定はどうなっているの?」
どこに泊まるのかも分からないで来た俺は尋ねた。
「ここはウィザード家のプライベート用の滑空場だからな。このまま、少し歩いた場所で待っている車に乗って私達の実家に行くだけだぞ。基本的に数日の生活はこちらで部屋は用意してやるから何も心配するな。」
「私としてはこの男をサタン様とルル様の近くに置いておくのは凄く不満なのですが。」
サタンの言葉に後ろを付いてきたルミナが即座に言う。
「コイツの両親とかがいる実家でコッソリ部屋に遊びに行くなんて真似しないよ。やるなら、堂々とノックしてから入る。」
俺は失礼なことを言うぺったんこ娘に言ってやった。
「私はコッソリと遊びに来ていただいても全然構いませんよ。」
ルルがそんなことを言う。
「じゃあ、今日是非遊びに行かせていただきます。」
俺は突然、恥ずかしげもなく誘惑をしてくるルルに言った。
ルルはと言うと、クスクスと笑っていた。
まるでどうせ口だけだろと言った風だった。
「させません!させませんよ!実家の方に戻る予定でしたが、これは私もウィザード家の方に行った方が…。リヤド殿はどうされますか?」
真剣な表情で悩むルミナがリヤドに同意を求めた。
リヤドはと言うと、特に興味もなさそうにルミナへ答えた。
「自分はザスティン家の方でするべきことがありますので、ウィザード家に着き次第、戻る予定ですが。」
「うー、それじゃあ私も帰るしかないじゃないですか…。」
口をぷぅと膨らませるとルミナが不満げに言う。
「別に来たいのなら来ればいいが、お前もランスフォード家の方でするこがあるんじゃないのか?」
サタンが振り向いて、ルミナに言う。
「いや、まあ数日後に向かう日本に向けての書類作成とかまだ残っていますから。やらなきゃいけないこと、と言えばありますけど。この数日で終わらせればいいかなって。」
「そんなことしていると、間に合わなくなっても知りませんよ。」
サタンの隣を歩くルルから言葉が飛ぶ。
俺達は、滑空場から少し離れた場所までたどり着くと、すでに待っていたのか黒い高級車が俺達の前に止まった。
「お待ちしておりました。」
中からは俺より少しばかり年上の女性が出てきた。
腰まで伸ばした栗色の髪の碧眼のその女性はメイド服を着ていた。
「おっ、もう待っていたか。早いな、ゼノヴィア。」
サタンは久しぶりとばかりに手を振った。
ゼノヴィアと呼ばれた女性はサタンに軽く会釈をした。
「私とルルの幼い頃の教育係をしていたメイドのゼノヴィアだ。」
サタンが紹介すると、ゼノヴィアは俺にも頭を下げてきた。
そして、近づいてくると手を差し出した。
「初めまして。サタン様とルル様のメイドをしているゼノヴィアと言います。基本的にこの数日間の剣殿の生活に関するお世話は私が担当しますので困ったことがあれば何でも。」
「あっ、それはどうも。お願いします。」
俺はゼノヴィアから出された手を握り返すと握手を交わした。
ゼノヴィアは俺から手を離すと、車の助手席を開けた。
「どうぞ。では、今から皆さんをお連れいたします。」
ゼノヴィアが言うと、サタンが助手席に座り俺達4人は後部座席に座った。
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大体、車に揺られること30分くらいだろうか。
俺達はロンドンの市街から少し離れた場所に着いた。
大きな裁判所や警察署が立ち並んでいる場所だった。
その一角にまさに豪邸と呼ぶにふさわしい大きな建物が建っていた。
「着いたぞ!これが私達の実家だ。魔導特務機関秘密警察、ウィザード家の家だ。」
サタンが車から降りると、俺に紹介した。
「デカすぎないか?」
俺は日本でも中々見ない大きな建築物に驚きの声を上げた。
「まあ、ここで日々の公務も全部行われているからな。お父さまの直属の部下と家族も住んだりしているからかなり敷地面積はデカいだろうな。」
サタンはそう言うと、自動で開いた門をくぐった。
俺とルルはその後を付いて行った、。
「あれ?2人は来ないの?」
俺は門の前で立っている、ルミナとリヤドに尋ねた。
「私達はこのまま少し離れた場所にある自分達の家に戻りますので。不本意ですが!」
苦々しそうな顔をしながら言うルミナ。
リヤドは相変わらず、表情を変えずに立っている。
「じゃあ、おやすみ。明日、暇そうならお前達の家にこの男を連れて行ってやろう。」
サタンはそう言うと、2人に向かって手を振った。
どうやら、ゼノヴィアがそのまま2人を各々の家に送っていくようだ。
俺達は車を見送ると、建物の入り口に向かって歩き出した。
「ちなみにお前のお父さんって怖い人だったりするの?」
俺は今から会うサタンとルルの両親について尋ねた。
「まあ、厳しい人ではある。だが、別にそこまで怖がる必要もないがな。お兄さまはお父様に似て厳格な人だがお母さまとお姉さまに関してはかなり緩い人達だから。」
そう言うと、玄関のドアを開けてサタンが建物の中に入った。
俺とルルもその後について入った。
「お邪魔します…。」
俺は小声で言った。
「そんな怖がらなくても。何もしませんよ。」
ルルが俺の姿を見ると、笑った。
その直後だった。階段を駆け下りてきた1人の女性が現れた。
「サタン!大丈夫だった!怖いことはなかった!?」
金髪のサタンと同じくらい腰まで伸ばしている長い髪をしたサタンとよく似た顔立ちをした女性がサタンに抱き着いた。
「はい!お母さま!この通り、無事ですよ!」
サタンの方も再会が嬉しいのか満面の笑みで熱い抱擁を交わす。
正直、2人とも流暢な英語で話しているので何を喋っているのかさっぱりだった。
女性は俺の隣に立っているルルを見つけると、サタンに抱き着いたままルルに話しかけた。
「ルルも大丈夫だった?何だか色々あったってのはあの人から聞いてはいるけど。」
ルルは女性を安心させるように明るい笑顔でこちらもまた英語で答えた。
「はい、大丈夫でしたよ。ここにいる剣さんのおかげですけど。」
そう言うと、ルルが俺の方を見上げてきた。
俺はいまだに誰なのか分からない女性に軽く会釈をした。
女性は俺に近づくと、突然手を握ってきた。
「初めまして!私の名前は、ミラ・ウィザード。2人の母よ。日本では、娘たちをありがとうね!」
「あっ、お母さま。英語じゃ伝わらない。」
サタンが気づいたように女性に言う。
それを聞くと、あらとばかりに女性が我に返った。
「改めて、私達のお母さまだ。名前はミラ。一応、お母さまも軽くだが日本語は喋れる。そう言えば、お母さま。お父様達は?」
サタンが英語がさっぱりな俺に日本語で紹介をしてくれた。
「私ならここにいる。日本では中々に大変だったようだな。」
日本語で低い男性の声が2階から聞こえてきた。
そこには、金色の髪に少しばかり白髪が混じっている長身の男性が立っていた。隣には同じく、金髪の男性によく似た若い男性もいた。
「はい。無事、任務を終えて帰って参りました。お父様。そしてお兄さま。」
サタンが頭を下げて珍しく丁寧な口調で言った。
「お父さまのキール。そして、お兄さまのフェデリコです。」
ルルが小声で俺の耳元に囁いて教えてくれた。
俺が2人の男性を見上げようとした時だった。
背後から誰かの気配を感じると、ルルと共にがっつりと肩を掴まれた。
「あっ、この子が例の少年?」
サタンと金色の髪以外はそっくりな女性がいた。
女性は先程のミラと違い、日本語で俺達に話しかけてきた。
「あら?ロミお姉さまも。元気そうで何よりです。」
ルルが後ろを振り向くと嬉しそうに言った。
「何々?この子とどこまで行ったのさ?2人とも?」
急に掴まれると、そんなことをルルに聞いてきた。
何と言うか、母親もそうだがサタンにそっくりだなと思った。いや、まあ母娘だから当然だろうが。
「別に何もありませんよ。ただの仲間以外の何でもありませんよ。」
サタンが心外とばかりにロミに言った。
「私も、ただの友人の男性なだけですよ。」
ルルも続けるように楽しそうにロミに言った。
「なーんだ、つまんない。」
それを聞くと、ロミは俺とルルから手を離した。
「もう、ロミったら。剣君だっけ?若干、引いてるわよ。」
ミラがあらあらとばかりに言う。
1階にフェデリコと共に降りてきたキールが俺の前に立っていた。
「一応、私達もサタンとルルほどじゃないが日本語は話せる。なので、日常会話は差し支えない。ただ、日本語を話せない者もここにはいるのでな。ルルか誰かに翻訳の魔術をかけてもらうといい。」
そう言うと、俺に親しげに微笑んできた。しかし、目の奥は俺のことを目踏みしているのか全く笑っていないのが逆に不気味だった。
「我々は君を歓迎しよう。これから、私の娘達と少々我々の手伝いをしてもらうわけだからな。今日はもう遅い。しっかりと寝てもらってくれ。明日の夜には軽いパーティーを開くとしよう。」
キールはそう言うと、俺の手を握り握手をしてきた。




