無口な青年と
サタンとルル、ルミナの3人は久しぶりに3人が揃ったからと言うことで空港内のショッピング施設で買い物をするから、と言って男子組と女子組の2ペアに分かれることになった。
「えーと、リヤド君。どこか行きたいとことかある?」
俺は隣に立っているリヤドに尋ねた。
リヤドは表情を変えずに俺に答えた。
「僕は特に。剣殿が行きたいところがあればそこに行きますが。」
「俺もここ来たの初めてだからどこに行けばいいとか分かんないんだよな。」
そう言うと、俺は携帯を出して。ネットを使ってどこかいい場所はないものかと探し始めた。
本当に会話が弾まない。そして、何を考えているか全然読めない。
「何か甘いモノ食べたいからそこに行きません?」
どうしても、感情が読めないせいで敬語交じりになってしまう。
リヤドは軽く頷いた。
どうやら、そこに行くなら付いていくぞということなのだろう。
俺は歩き始めると、リヤドも隣に並んで一緒に歩いた。
歩きながら俺はリヤドと何か話すことはないかなと考えていた。
「そう言えば、サタンとはどういう関係なの?」
「ただの、主従の関係でしかありませんよ。」
「いや、まあそれは聞いたけどさ。どういう形でサタン達と出会ったのかなって。単純に家の関係で知り合ったって感じなの?」
リヤドは俺の疑問に少しばかり答えようか悩んでいる感じだった。
「まあ、別に話してもよいのですが…。」
そう言うと、軽く一度目を閉じた。
俺は、目的の店に到着するとメニューを眺めた。
「いや、言いたくない話なら言わなくていいんだけどさ。ルルちゃんもそうだったけど、過去に一癖も二癖もありそうなの多くない?サタンの友達って。」
魔力がないルミナ然り、あいつは変わった人を引き寄せる何かでもあるのだろうか。
ただ、それだと俺が変わり者になりそうだからそれはそれで何か嫌だ。
「さあ、どうでしょうね。ただ、偶然に僕もルミナ殿もルル様もサタン様と出会っただけだと思いますがね。多少の物珍しさはあるかもしれませんが。」
そう言うと、俺の隣に並んだ。
そこまで背が高くない俺と並ぶと、リヤドのスラッとした背の高さが際立つ気がする。
「どれ頼む?俺はこのチョコの入ったのにしようと思うけど。」
俺はクレープを提供してくれる店でチョコがたっぷりと入っているクレープを選ぼうとした。
「では、僕も同じので。」
リヤドは表情を変えずに俺に言った。
本当に鉄仮面、と言う表現が的確に合いそうな男だなと逆に感心をし始めている。
「じゃあ、これを2つで。」
俺は、店員にそう言うとサタンから渡されたお金を支払った。隣ではリヤドも同じように自身の財布からお金を出していた。
俺は商品を受け取ると、どこか食べるのに適していそうなベンチを探した。
ちょうど、飛行機が飛んでいるのがよく見える窓の近くのベンチを見つけた。
「あそこにしよう。」
俺が見つけたベンチを指さすと、リヤドが頷いた。
もう少しでいいから感情表現を見せて欲しいものだ。
リヤドと2人でベンチに座ると、俺はクレープに嚙り付いた。
「元々、僕はザスティン家の生まれではないのですよ。」
座って、無言で2人でクレープを食べているとリヤドが独り言のように言っていた。
「日本で言うなら、捨て子と言うのでしょうね。僕は生まれた親の顔を知らないし、親族と呼べる人間もいない。」
そして、リヤドは離陸している飛行機を眺めた。
一呼吸をつくと、話を続けた。
「物心が付いた時には盗みも殺しも何でもしていた。生きる為だから、と言い訳をしてね。」
当時の記憶を懐かしく思い出してるかのようにリヤドは言った。
気づくと、リヤドの言葉から先程までの丁寧な口調が消えかかっているように感じた。
「その時にサタンと出会って助けられたとか?」
「サタン様に初めて会ったのはウィザード家に捕らえられた時の話だ。5歳くらいの時にかな。自身に宿っている魔力が覚醒したのが原因でね。1年後には魔力を持った家無しの少年が暴れていると噂が立ち、ウィザード家の警備隊の者に捕まった時に出会ったのが初めだ。」
俺はチビチビとクレープを齧りながらリヤドの話に耳を傾けていた。
「まあ、その時は部屋の外からルル様とルミナ殿と眺めていただけだったがな。その後、監視対象としてウィザード家の預かりとなった。」
「何か、壮絶な人生を歩んでるんだな。あと、口調変わってるけどそれが素だったりする?」
俺はドラマみたいな人生を歩んでいる男を見ると言った。
リヤドはふん、と鼻で軽く笑った。
「そうだな、多分これが素なんだろうな。」
そう言うと、遠い目で窓の外を眺めていた。
「当時は稽古に乗じてよく暴れ回っていたものだ。脱走もよくしていたな。」
ルルが言っていた尖っていた、と言うのは恐らくこれのことなんだろうなと俺は納得した。
「そのたびに、連れ戻されて檻のある部屋に閉じ込められていた。その時に、面白がって僕のとこに来ていたのがサタン様だ。」
「あいつは、あれか。動物園の猛獣でも見に行ってる気持ちだったのか?」
俺は思わず、当時の様子を想像するとリヤドに呆れるように言った。
リヤドもその言葉を聞くと、懐かしそうに笑っていた。
「かもな。ルル様とルミナ殿が無理やり連れてかれて、ルミナ殿に至っては僕を怖がってサタン様の背中に隠れてばかりだったな。」
容易に想像が出来そうな光景だった。
と言うか、行くなら1人で行けよと俺は心の中でサタンにツッコんでいた。
「そんな時かな。僕が稽古場で暴れてた時に、サタン様が私と稽古をしないかと言ってきた。そして、私が勝てば部下になれと言ってきたな。」
「あいつなら言いそうなことだな。」
「当時の僕はくだらない、と一蹴して相手にもしなかったがな。それからも会うたびに同じことを言ってくるようになった。」
悪ガキの弟を更生させようとする姉みたいなことしてるな、と俺は思った。
「で、いつ勝負したんだよ?今の流れだとしたんだろ?」
俺はリヤドに尋ねた。
リヤドは首を横に振った。
「いや、結局一度もしなかったよ。今もね。」
「じゃあ、何であいつの部下になったんだよ?」
俺が再び尋ねると、リヤドは一口残っていたクレープを口に放り込んだ。
そして、包み紙をクシャクシャと丸くすると手のひらで転がし始めた。
「そうだな、あまりの鬱陶しさから再び家を逃げたした時の話だ。当時、逃げ出すと大体1週間くらいは逃げていたからな。その度に、飯にありつくためにスラム街とかにいるガラの悪そうなのを見つけては片っ端から気絶させて、金目の物を奪っていた。」
「やっていることが世紀末みたいなんだけど。もう、素直にウィザード家でただ飯食らってた方がいいだろ。それなら。」
俺は呆れたようにリヤドに言った。
リヤドは小馬鹿にするように鼻で笑ってみせた。
こういうとこの所作はサタンにそっくりだなと思った。
「そうだな、普通の人間はそう考えるのかもしれないな。でも、当時の僕には集団の中で生きると言うことそのものが嫌だったんだよ。」
リヤドはそう言うと、丸めてくしゃくしゃにした包み紙に目を落とした。
「ただ、運の悪いことにね。偶然、手を出した相手がギャングの親玉でね。集団に囲まれて、なすすべもなく捕まえられた。ここで、死ぬんだろうなと覚悟したさ。まあ、死ななかったから今こうして生きているんだけどね。」
「その時に助けてくれたのがサタンって訳?」
俺がリヤドの顔を見ながら言うと、リヤドは小さく頷いた。
「そうだね。ルル様とルミナ殿と3人で乗り込んできて僕を助けに来てたね。まあ、正直ルル様がウィザード家に一報を入れてなかったら4人仲良く死んでいただろうがね。」
「あの女、猪突猛進すぎるだろ。」
俺は当時の回想を一通り話し終えたリヤドに対して正直な感想を述べた。
リヤドはその言葉に当時のことを懐かしそうに笑っていた。
「そうだね、当時の自分も同じこと思っていたよ。だから、助けてもらった後もしつこい勧誘を断り続けていたさ。何なら会わないようにすらしていた。」
ここでサタンに恩を感じて部下になりましたって流れかと思っていたがどうやらまだあるようだった。
そんなことを考えていると、俺達の背後から声が聞こえてきた。
「随分とまた懐かしい話をしているな。どうした?愚痴でも聞いて欲しかったのか?」
俺が振り向くとそこにはブランド物っぽい感じのサングラスを頭に乗せ、両手に何やら袋を抱えていたサタンが立っていた。
「さあ、どうでしょう。知りたそうだったので話してあげただけですよ。」
サタンの方に遅れて振り向いたリヤドがサタンに答えた。
「基本的に無口で私達以外とはまともに話さないお前がな。どんな心変わりなのか知りたいな。」
意地悪そうに言うサタン。リヤドは普段のサタンの物言いに慣れているのか、笑みを崩さないままで言った。
「心変わりですか、どうでしょう。まあ、一時の気の迷いみたいなものでしょうかね。」
俺はこの話で一番大事な部分を聞けてないな、と思い出したがそれ以降はリヤドが元の口調と無口に戻ったせいで聞けなかった。




