実家に帰省
いつもより少し投稿時間、遅れました。
「早くしてください!剣さんがもう待ちくたびれてますよ!」
自宅の一室からルルの声が響く。
俺はリビングのソファーの上で寝転んでいると、あまりの暇だからか大きなあくびをした。
「落ち着け、ルル。まだ、バスの時間まで5分ある。忘れ物がないか確認しておきたいのだ。」
「どうせ、数日だけ実家戻るだけに忘れ物も何もないです!財布と最低限の日用品だけ持って行けば後はあっちで衣服でも何でもあるんですから。」
「むぅ、うるさいなー。少し前までは何でも全肯定してくれる可愛い妹だったのに。どこの馬鹿の影響なんだか。」
サタンの声が聞こえると、即座にルルの声が被さる。
何をしているのかと言えば、2人が数日間実家に帰省するための準備だ。
正確に言えば、すでに準備を終えてバス停に余裕を持って並んでいたいルルがサタンを急かしているという光景。
あの異変以降、数日が経ったが最初に会った時と比べるとルルもだいぶサタンに言うようになったなと感じた。
まあ、丁寧な口調自体は変わらないが。癖みたいなモノなのだろう。
「早くしろよ。いくら、家からバス停まで近いからって何にそんな時間かけているんだよ。」
俺は、ソファーから立ち上がると2人のいる部屋のドアをノックした。
流石に予定のバスに乗る時間まで5分を切っている。
「よし!これで大丈夫だ!」
サタンの声が聞こえると、勢いよくドアが開かれた。
腰まで伸ばした長い艶のある黒髪が若干乱れていた。そして、隣には準備の遅さにうんざりした顔を浮かべている銀髪のショートヘアの小柄な少女が立っていた。
「遅すぎるだろ。何にそんな時間かけてるんだよ。」
俺は少しばかり息が乱れているサタンに言った。
「実家に帰省するのだぞ。お土産とか持って行かないと。」
そう言うと、パンパンになっているリュックを軽く叩いた。
「これから先、何度もこことあっちを往復するんですからその度に土産の品を持って行くつもりですか?」
玄関へ歩く途中に呆れたようにルルがサタンに言う。
俺はと言えば、両親には駅まで見送っていくと伝えてある。
そして、駅に着いたところで人気のない場所で以前ルルから渡された魔道具を使い、分身の方を家に帰らせる。
正直、事情を説明したところで信じてもらえるわけないし数日間学校を休む羽目になるのでこれが最善策だろう。
「あと、3分じゃねえか。その重さのリュックで走れるのかよ。」
俺は無駄に膨らんでいるリュックを背負っているサタンに言った。
サタンは靴を履くと、いの一番に玄関から飛び出した。
「ふん、甘いな!普段から鍛えている私がこの程度の荷物を担いで走って疲れるとでも?」
「まず、当日に慌てて準備するとか言う愚行をしなければ走る必要もないんだけどな。」
ルルと一緒に玄関から出た俺はすでに走り出しているサタンの背中に向かって言った。
「私はちゃんと前日に準備していましたから、お姉さまと一緒にしないでくださいね。」
隣で小走りで走るルルが俺に言ってきた。
無駄に荷物の多そうなサタンと違い、必要最低限の荷物しか持っていないからか身軽そうだった。
「逆に何を持って行ってるの?ルルちゃんは。」
俺の質問にバスに飛び乗ったルルはカバンの中に手を入れた。
すでにバスが到着していて。後1歩遅かったら乗り遅れていたかもしれない。
「もちろん、これですよ。」
そう言うと、空いている席に3人で座るとルルが俺にタブレット型のゲーム機を見せてきた。
それはそれで荷物として少なすぎないか、と俺は思った。
しかし、俺のそんな思いを察知したのかルルはゲーム機をカバンにしまうと言った。
「先程、お姉さまにも言いましたけどただの帰省ですからね。旅行に行くのと違って、衣服もそれこそお金もあっちにあるのですから前日に大量にお土産を買った誰かさんと違って身軽なんですよ。」
そう言うと、ルルはチラッと俺の隣にいるサタンを見た。
昨日、近くの店で和菓子だの日本食だのを大量に買い込んでいたサタンの同行をしていたからだろうか。
付き合わせた側のサタンがバツの悪そうな顔でプイっとルルからの視線を避けた。
「そう言えば、駅には何人くらい来てるんだ?」
俺は、ふと思い出したかのようにサタンに尋ねた。
どうやら、サタンの友人と言うか部下が数人来ると言うのは聞いていた。
まず、駅でその人達と合流して隣県にある空港まで向う。そこから、サタン達の実家のプライベートジェットで帰省すると言う流れらしい。
プライベートジェットを持っている家とかどのくらいお金持ちなんだよ、と思った。
ルルはともかくとして、サタンも普段の言動はあれだが一応良家のお嬢様だからか、俺の疑問に何を言っているんだと言った風の顔を昨日はしていた。
「結局、1人だけで来ているみたいですよ。」
ルルが携帯を見ながら、サタンに言った。
サタンはそれを聞くと、
「何だ、あいつまたコミュ障を発揮したのか。」
「逆に、あの人が異国の地で大勢の人がいる電車に乗って来れるとでも?空港で待機中みたいですよ。」
「あいつはこっちの学校でやっていけるのか。」
「さあ、知らないですよ。まあ、一応私と同じクラスにはさせるみたいなので最低限のフォローはしますが。」
どうやら、話の感じ的に2人でイギリスから来ていて1人は人混みを嫌って空港の方で待っているらしい。
俺は2人の会話を小耳に挟むと、そう推測した。
そして、1つ気になる言葉が聞こえたのでサタンに再度質問した。
「ん?そう言えば、学校って言ったけどお前らどこの学校に転校するの?」
サタンは俺の言葉を聞くと、何を今更と言った表情を見せた。
「あれ言わなかったか?私はお前の高校に転校することになったぞ。多分、クラスも同じはずだ。で、ルルと今日来る2人は3人とも同い年だからお前の通っている高校の中等部の方に編入することになった。」
サタンがサラッと重要なことを口にした。
言わなかったか、も何も初耳である。なぜコイツは大事なことを早くに言わないのだ。
「お姉さま、何も伝えてなかったんですか?てっきり伝えていたものかと思ってたから剣さんに何も言ってなかったんですけど…。」
ルルの方もまさか、サタンが言っていないことは想定外だったようだ。
「別に言わなくてもどうせ当日分かるだろうと思ってたから言い忘れていたかもしれないな。メンゴメンゴ。」
どこのギャルだよと言いたくなるような覚えたての日本語を使ったサタンが軽く頭を自身の手で叩くと申し訳なさそうな顔をして見せた。
この女、絶対に反省してないな。
「お前と同じクラスかよ。すでに嫌な予感がしているけど、さらに何か嫌な予感しかしない。」
俺はそう言うとため息をついた。
「相変わらず失礼なことを言う男だな。ルルも何か言ってやれ、この失礼な男に。」
サタンは少しムッとすると言い返してきた。
すると、ルルは少しばかり楽しそうに笑うと、
「まあまあ、いいじゃないですか。私は学校の間はほとんど一緒にいれないと思うのでお姉さまのことはお願いしますね。」
「何で私が子守りをされるみたいな言い方をされなきゃいけないのだ。」
サタンは心外だと言わんばかりの顔をした。
俺はその顔を見ると、ルルに言った。
「任せておけ、ルルちゃんの代わりに面倒はしっかりと見ておくから。」
「ふざけるな。貴様に面倒など見てもらう必要などないぞ。」
サタンはそう言うと、俺の足を小刻みに蹴ってきた。
「おいやめろ。地味に痛いんだよ、その攻撃。ほら、もう駅前のバス停に着いたぞ。」
俺はそう言うと、一発だけサタンの足を軽く蹴り返して立ち上がった。
サタンは不満げな顔をすると、ルルと俺の後について席から立ち上がった。
バスの運賃を支払うと、俺達3人はバスから降りた。
駅のターミナルの中にバス停があるので、そのまま俺は先頭を歩くとエスカレーターまで歩いて行った。
「乗る電車まで30分近く余裕ありますからね、チケット買うのも急ぐ必要なさそうですね。」
ルルが時間を確認するとサタンに言った。
サタンは物珍しい光景なのか辺りをキョロキョロしていた。
「あんまりキョロキョロしていると、はぐれるぞ。まあ、休日の朝早い時間だから人の通りは少ないけどさ。」
俺はサタンの方を振り向くと言った。
エスカレーターを登って駅の構内に入ると、改札口の前に1人の外国人っぽい青年が立っていた。
「あー、いたいた!おーい!」
サタンはその青年を見ると、小走りで向かった。俺とルルもその後を追った。
青年はその声に気づくと、軽く俺達に会釈をしてきた。
背は180くらいあるだろうか、金髪碧眼。まさに欧米人と呼ぶにふさわしい青年だった。そして、とてもイケメンだった。
サタンと並ぶと、何と言うかハリウッド映画に出てきそうなカップルのように見えた。
「紹介しよう、リヤド・ザスティン。私のお父様の部下の家の跡取り息子だ。年はルルと同じだから私や剣の1つ下かな。小さい頃から私とルルともう1人空港で待っている奴と合わせて4人で大体の行動は共にしてきたかな。まあ、口数は少ない男だから上手く仲良くしてやってくれ。」
数週間ぶりだからか、再会が嬉しいのかサタンは上機嫌だった。
俺は隣に立っているルルの耳元に顔を近づけた。
「あれか?サタンの彼氏的な人?」
ルルは俺の質問に何を言っているんだコイツは、みたいな視線を向けてきた。
いや、どう見てもそんな関係にしか見えないのだが。
「うちのお姉さまに彼氏なんて高尚なモノが出来るとでも?ただの上司と部下みたいな関係なだけですよ。お姉さまみたいなぶっ飛んでる人と付き合える人がいるならそれこそ、是非ともお会いしたいものです。」
俺の耳に顔を近づけたルルが小声で教えてくれた。
すると、俺達の背後に強烈な殺気を感じた。
俺とルルはゆっくりと後ろを振り向くと、腕組みをして青筋が浮かんでいるサタンが笑みを浮かべていた。
「誰には高尚なモノだって?」
サタンは俺とルルの頭を掴むと、掴んだ手に力を込めた。
俺達はほぼ同時にお互いを指で刺すと、サタンに言った。
「「この人が言いました!」」
その瞬間、脳に激痛が走った。




