目覚めたルルと最強の実力
ルルの猛攻を反射する魔力と無効化する魔力の2つを交互に使い分けながら防いでいく。
ただ、やはりまだ切り替えに慣れていないのか頻繁に魔力の薄い部分に攻撃を受け、俺の体はボロボロになっていた。
長距離走を永遠と走らされているような感覚だった。
無効化する魔力、これを使って蜘蛛の糸よりもか細い希望を引き寄せるつもりだった。
俺は要所要所で突っ込んでくるルルに自らの魔力を当て続けた。
「あー、何でこんな面倒なこと引き受けたんだろ。今から逃げようかな。」
俺はあまりにも体の節々の痛みに笑うしかなかった。体は丈夫な方の自信はある。
だが、殴り合いの喧嘩すらしたことないような平和ボケした高校1年生にこの痛みは堪える。
「絶対にこんなことする柄じゃないよな。」
俺はそんなことを呟きながら、頼むと言ってきたサタンの顔を思い出した。
絶対に帰ったら文句を言ってやる。俺はそう決意した。
そもそも、あの馬鹿は何でこんな来るのが遅いんだ。
「息も絶え絶えだな。そろそろ限界か。」
ラルフが余裕そうな笑みを浮かべてルルの背後から言ってきた。
そして、その後ろにはマリーと呼ばれていたルルを生んだと思われる母親が控えていた。
「随分とエリナにかけた私の魔術を解こうと必死のようだな。だが、知っているぞ。貴様らは、たかが数日出会ったばかりの関係だろ?ましてや、自分の娘に何をしようが赤の他人の貴様に関係はないだろうに。」
「実の娘か。そうだな、そうだよな。俺も同じことを考えてるところなんだわ。産みの父親と母親の元に戻っただけだって。言い訳して逃げてしまえば万事解決する話なんだよな。」
俺はそう言うと、消えかかっていた体に纏わせた魔力を再び全身を覆うように出した。
かなり、先刻と比べると薄い膜みたいになってしまっている。
やはり、サタンのように常時出し続けるなんてことは俺には不可能のようだ。
「だけど、何かムカつくんだよな。あんたらを見てると。自分の娘を少しも娘とすら見ていないその顔がさ。ただの道具か何かしか思ってない。だったら…。」
俺はそう言うと、一呼吸付いた。
脳裏には姉のことが好きだと語っていたルルの悲しげな顔が。そして、自分はこの場に行くべきではないとザドキエルの作った結界へと逃げて行ったサタンの顔を。
「姉の癖に自分の妹にすらまともに自分の思いすら言えないあの不器用な女の隣にいさせた方がマシだってな。」
俺はそこまで言うと、ルルの方を見てニヤリと笑った。
「で、いつまで狸寝入りしてるつもりだよ。とっくに起きているんだろ?」
俺がそう言うと、ラルフは余裕そうに組んでいた両腕がビクンと動いた。
そして、慌ててルルの後ろから距離を取ろうとした瞬間。細い光線のようなものがラルフの心臓を貫いた。
「バラしちゃだめですよ。後ろ向きで何となくの距離感で撃ったせいで致命傷は避けられたじゃないですか。それと1つ訂正しておきますね。私はサタンお姉さまに対してはちゃんとコミュニケーションを取っていますよ。」
それまで死んだ魚のような白い目をしていたルルの目に光が宿り、見慣れた綺麗な薄い青緑色に戻っていた。
「いつから、解いていた?今のこの瞬間まで私の術の中にあったはずだ。」
ラルフは地面に膝をつくと、口から血を滴らせながら荒い呼吸で聞いてきた。
俺は、マリーの方を見た。マリーに関しては何が起きたのか理解出来ていないようであった。
無理に接近して攻撃する必要はないか、と思った。
ルルはそんなラルフを冷たい目で見下すと、
「魔術自体は剣さんの懐に潜り込んで相打ちになった後からですね。ただ、またかけられるのは嫌ですから完全に耐性を付けるまではかかったフリをしていただけですよ。」
「あれ?じゃあ、割とその後の俺が受けた傷は無駄な説ある?」
俺ですら予想していないルルの言葉に思わず隣でツッコんだ。
「いえ、相手を騙すにはまず味方からと言いますからね。いいやられっぷりでしたよ。という訳で…。」
ルルはそう言うと、青緑色の光を出すと俺の体に当ててきた。
傷自体は治っていないが、幾分痛みも引き先程よりは十分に動けるようになっていた。
「さて、この2人をまずは何とかしましょうか。」
ルルはそう言うと、俺に笑いかけて手に持っていた杖を軽く手の中で回した。
「いいのかよ?自分の産みの親殺しても。」
「今更、この2人に何かしらの感情もありませんよ。それに剣さんも言ってたじゃないですか。」
そう言うと、ルルはラルフとマリーの2人を見た。
マリーはラルフに何かしらの治癒魔術をかけているようだった。
「あの2人にとって、私はただの世界を滅ぼすための道具でしかない。いや、恐らくあの男にとっては自分の妻さえも。」
ルルの言葉に突如、ラルフの顔が醜く歪んだ。
恐らく、悪魔のような笑みなんて例えがあるがまさにあれを言うのだろう。
ラルフはポケットに隠していた隠しナイフを取り出すと、マリーの喉元に突き刺した。
「何を…するの?」
喉元をナイフで刺されたマリーは地面に倒れ込むと、消え入りそうな声でラルフに言った。
ラルフは先程のルルに受けた胸の部分を抑えると、立ち上がった。
そして、最後の力とばかりに叫んだ。
「まだだ!私の悲願はこれからなのだ!」
ルルが何かしらの魔術を行使するよりも速く、マリーに突き刺したナイフを自らの心臓に突き刺した。
瞬間、どす黒い邪悪な色をした魔法陣がラルフとすでに息だえたマリーの周りに現れると巨大な光の柱が現れ2人の姿はその中へと消えた。
「少し遅かった!」
ルルが悔しそうにその光を見つめていた。
やがて、光が消えるとそこには異形な巨人のような姿になっていたラルフの姿があった。
いや、それはもうラルフと言っていいのかすら憚られる気さえする。
少し大きめのマンションぐらいはある大きさのそれにはいくつもの目と思しきものがついており、ギョロギョロとこちらを見ていた。
地面の周辺には腰から無数の触手のようなモノが生えていた。
そして、中央部分がにゅるりと開くとラルフの顔が現れた。
「エリナよ、ここまで来れば貴様も道連れだ。私の20年以上にわたる人生のすべてを賭けた計画。それを潰した罪は重いぞ。」
「20年…。20年ですか。それがエルフの真祖の血の適合出来る女性を見つけては子供を産ませ、失敗すれば殺し続けたあなたの期間ですか?」
ルルは巨大な化け物を睨みつけながら言った。
「ほう、よく知っているな。恐らく、私の研究に関わるモノは全て表舞台からは抹消しているはずだが?」
「私の専門分野は禁術ですよ。その程度のこと、調べるなんて朝飯前です。」
ルルはそう言うと、杖を構えた。
「禁術には禁術を。私はあなた達の道連れにはならない!」
そう言うと、ルルは俺の方を見た。
「わがままを言うようで申し訳ないのですが、少しばかり手伝ってもらえませんか?ほんの少しだけ。ほんの少しだけでいいので足止めを頼みたいのです。」
俺は真剣な顔をするルルを見た。
その直後、ラルフは自身の巨体を大きく揺らすと、地面に張っていた触手のようなモノを俺達に向けて放ってきた。
「足止めってどのくらい?」
俺は攻撃を避けるとルルに尋ねた。
ルルは襲ってきた触手を軽くいなすと、俺と共にラルフだった何かから距離を取った。
「基本的には私は術の詠唱に全神経を注ぎたいです。なので…。」
そう言うと、ルルは指で3の数字を出してきた。
「3分?」
「はい、お願い出来ますか?」
俺は少しだけ考えると今日何度目か分からないため息をついた。
「もう、ここまで来たらいくらでも手伝ってやるよ。こっちもやけくそだ!」
俺は自分を奮い立てる意味を込めて大声を出した。
ルルはそんな俺を見るとクスリと笑った。
「ありがとうございます。」
「ヤバくなったら助けてくれよ。」
俺はルルに言った。
ルルは頷くと、地面に座り込んだ。そして、自身の周りに防御魔術を展開した。
地面から魔法陣を出した。そして、何やら聞きなれない言葉を発し始めた。
恐らく、これが何とかするための魔術の詠唱なのだろう。
俺は、無数の目をギョロギョロさせている巨人を見た。
巨人は俺の方を見ると、触手を放ち攻撃をしてきた。
「とりあえず、ルルちゃんから距離は取るか。」
俺は呟くと、ルルから離れるように触手の攻撃から逃げ始めた。
複数が一斉に来るので基本的には無効化する方の魔力を展開するようにした。
正直、先程の切り替えをする必要はないと思っている。
時間さえ稼げればいいのだから。
何ならカウンターをする場合はある1個のシチュエーションだけでいい。
「エレナよ、何か企んでいるな。」
ルルの魔法の詠唱に気づいたのか、巨人の中央から顔を見せていたラルフがルルの防御魔法をに向けて触手を放った。
そのシチュエーションが来た。
俺はルルの目の前に立つと、片膝をついた状態で姿勢を低くして全ての触手の攻撃を受け止めた。
「くっ!小賢しい真似を!」
巨人に一定のダメージは入っているようだ。しかし、恐らくそれはあの巨体にとってあってないようなものだろう。
「深淵の闇よ。その深さを見よ。破滅の時、来たれり。地獄の門よ、開け。“堕天の鎖”。」
攻撃を受け続けて、魔力切れを起こしかけている俺の耳にルルの唱えている言葉が聞こえる。
ルルが放った言葉と同時に、巨人の地面の周りから円形が現れ、幾重もの鉄の鎖が飛び出してきた。
そして、その無数の鎖は巨人を包むように縛り上げる。
「おのれ!エレナ!貴様は己の父を封印するか!」
最後のあがきとばかりにラルフの声が響く。
地面に倒れかけた俺を支えると、ルルは巨人を見上げて言った。
「さようなら、私の父だったモノよ。あなたはこの世界に生きてはいけない存在なのです。大丈夫ですよ。あなたがこれから行く先に安住の地なんてありませんから。」
俺はラルフの慟哭のような叫びを聞きながら、意識が遠のくのを感じた。
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ザドキエルの作り出した空間内に閉じ込められたサタンは、剣を向かわせた方の戦いが決着したことを察した。
「これは想定外だな。急いで、ルル・ウィザードの回収に行かねば。」
ザドキエルの方を感じ取ったのだろう。どうやら、早めにここを片付けようと考えているようだ。
「回収ねー。そんなことをさせると思っているの?」
サタンは大剣を肩に担ぐと、ザドキエルに言った。
「ふむ、先程から攻撃を当てさせないだけでのらりくらりと時間稼ぎをしているようにしか見えないが?」
ザドキエルはそう言うと、サタンの背後に周った。
サタンはその気配を察知すると、ザドキエルが自身に触れるよりも一歩早く飛び上がった。
そして、大剣の刀身から白い光を帯びた斬撃を放った。
「そうだな、ただ…。その時間稼ぎももうする必要は無くなった。だから、一瞬で決着をつけてやろう。」
サタンはそう言うと、大剣を構えた。
ザドキエルも何かしらの攻撃が飛んでくると察したのか、防御の体勢を取ろうとした。
その一瞬だった。
ザドキエルの目の前に突然サタンが現れたかと思うと、その次には右手の感覚が肩からバッサリと無くなっていた。
肩の根元から切り落とされた右腕が宙を舞うと、ザドキエルは傷口を抑えながら地面に崩れ落ちた。
「がはっ!!!」
痛みに耐えるように荒い呼吸をするザドキエル。
サタンがそのザドキエルの前に立つと、冷酷な目で見下ろしていた。
「人間ごときが神の使いである大天使の我を見下ろすか…。」
ザドキエルが痛みに耐えながら、か細い声で忌々しそうに呟く。
そして、結界の維持が出来なくなったのだろうか。空間が天井から剥がれ落ちるように崩壊していった。
2人は元いたスーパーの駐車場に立っていた。
辺りはすっかり暗くなっていた。
「止めだな。」
サタンはそう言うと大剣を掲げた。
そして、一気に振り下ろしてザドキエルの首を落とそうとした。
「あら?随分と酷いやられ様ね。」
突如、声が聞こえてきた。
サタンがその声を無視するように大剣を振り下ろした。しかし、切った感触はなく地面に金属音を響かせただけだった。
サタンが向けた視線の先にはフードを着た人物がいた。そして、隣には地面に膝をついた状態の片腕がないザドキエルがいた。
フードを着た人物の右手には先程、サタンが切り落としたはずのザドキエルの腕と思しきモノがあった。
「あなたには、少しばかり荷が重すぎた相手かもしれなかったわね。」
声の感じ的に女性だろうか。フードを着ているせいで顔も体型もほとんど分からない。
「申し訳ない。流石に見誤っていた。一度引くぞ。」
汗を額に浮かべながら苦悶の表情を浮かべるザドキエルがフードを着た人物に言った。
その瞬間、サタンは2人の背後に周った。
今日一番の最速での動き。人類最速と呼ばれるサタンの全力。
しかし、フードを着た人物はそのサタンを見るとフード越しに不敵な笑みを浮かべた。
「遊んであげるのはまた今度にしてあげる。今日はこの人の回収が目的だから。」
そう言うと、サタンが真横に振った大剣が空を切った。
切った先には2人の姿はすでにいなかった。
「逃げられたッ…!」
サタンは悔しそうに言う。基本的にあのスピードに感づいて逃げれる人間など今までで見たことがなかった。
「あら?逃げられたみたいね。」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「見事にな。何者だ、あれは?」
「あれが私達が黒幕と呼んでいる奴よ。名前も顔も分からない。存在に気づいた時には私とサリエル以外の大天使はすっかり懐柔されていたんだから。」
「私の最速の動きに対応してきたぞ。それも余裕を持って。」
「だったわね。見てたわよ。」
見てたのなら、手を貸せと言いたいサタンは声の主へと顔を向けた。
そこには、数日前に死闘を繰り広げた女の姿があった。
天馬江瑠。剣の同級生にして大天使ガブリエルを名乗る少女。
「まあ、でもやっぱり大天使相手でも圧倒出来るのね。流石は光魔法の継承者なだけはあるわね。」
天馬は感心した声で言うと、サタンへと近づいた。
「そもそも、前回は日本での魔力に慣れてないのと貴様の作った魔力障害で不調だっただけだ。本調子ならあの程度の相手なら余裕だ。」
サタンは大剣を仕舞うために地面に転がっていた鞘を拾い上げた。そして、その鞘の中に刀身を仕舞うと大剣を目の前から消失させた。
「と言うか、本当なら空間に閉じ込められた時点でさっさと決着付けてあの2人の助けへと向かうことが出来たんじゃないの?」
天馬は意地悪気な顔をすると聞いてきた。
「私がすぐに助けに行ったら、あいつの成長の為にはならなないだろ。」
「あら?随分とスパルタなのね。」
サタンの返答に天馬は軽口で応える。
「別にスパルタじゃない。流石に命の危機なら即座に決着を付けて助けに行っていたさ。」
そして、空を見上げると言葉をつづけた。
「あいつには強くなってもらわないといけないからな。ルルが言うには、文献によると光と闇の魔力を持つものは惹かれ合う運命にあるらしい。だったら…。」
そう言うと、空を見上げていた視線を天馬の方へと向けた。
「私と並ぶくらい強くなってもらわないと困る。」
サタンはそう言うと、楽しそうに笑みを浮かべた。
天馬はサタンのそんな顔を見ると、
「でも、もう1つ理由があるんじゃないの?」
ニヤニヤしながらさらに尋ねてきた。
サタンは苦々しそうな顔を浮かべた。
「ふん!どうせ、例の胡散臭いあの男から聞いていたんだろ。」
サタンは天馬に言うと、山の頂上を見た。
禍々しく立ち昇っていた光の柱はすつかりと無くなっていた。
「そもそも、貴様は何をしていたのだ?同僚が起こした問題なんだから貴様らで処理するのが筋だろ。」
「ルル・ウィザードが誘拐された時点であんたらの落ち度よ。それに私だって何もしてたわけじゃない。ちゃんと、この一連の異変の後処理をしてあげたんだから。感謝しなさいな。一番、今回何もしていないのは佐藤君なんだし。文句ならあの人に言ってあげて頂戴な。」
ふふんとばかりに自慢気に言う天馬。
確かに、天馬の言う通り倒れていた人達は意識を取り戻して普段の日常に戻っている。
後は、恐らくまだあの山の頂上にいる剣とルルが戻ってくれば全て丸く収まるだろう、とサタンは思った。
そんな、サタンの考えを見通していたのか天馬が尋ねた。
「行かなくていいの?2人の元に。」
つくづく、この女とは気が合わないな、とサタンは思った。
こちらの言われたくないことを的確に聞いてくる。
「余計なお世話だ。私達にだって、色々と事情がある。」
「人間って面倒なこと考えるのね。素直にお互い言い合えばいいだけなのに。」
「言い合った結果、決別して殺し合いで解決しようとする大天使様の様にはなりたくないからな。」
それに、とサタンは小声で呟いた。
「あいつはそもそも、ウィザード家に自分自身がいていいのかどうか悩んでいる感じだったからな。私には分からないんだよ。そりゃあ、あいつのことを悪く言う人間はいる。だが、ウィザード家にはそんな奴は1人もいない。なら、あそこがあいつにとっての唯一の居場所だと思うのだがな。」
「なら、それを伝えてあげたらいいじゃないの?」
「そうだな、伝えたらいいのだろうな。」
そう言うと、サタンは悲しそうな顔をして天馬を見た。
「その伝え方が分からないんだよ。大丈夫だ、私達がいるから。と声をかけるのが正解なのかどうかもな。」
「不器用すぎでしょ。まだ、喧嘩別れで殺し合いする天使の方がマシに見えて来るわ。」
「もし、同じことを剣に話したら同じようなことを言われそうだな。」
サタンは呆れた顔をしている天馬に言った。そして、更に言葉を続けた。
「だから、剣に任せようと思った。もしかしたら、あいつなら私達姉妹をどうにかしてくれるんじゃないかってな。」
「随分と信頼してるじゃないの?」
天馬の言葉にサタンはクスリと笑ってみせた。
「そりゃあ、そうさ。何せ、この私に初めて借りを作ったなどと言った男なんだからな。」
楽しそうに言うと、再び空を見上げた。




