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ルルとの対峙

サタンが完全にザドキエルの仕掛けた結界の中に消えると、俺はとりあえず立ち上がった。

そして、禍々しい光の柱が伸びている山の頂上を見た。

そして、ある1つの懸念が俺の中に現れた。


「えっ、まさかと思うけど今からあの山の頂上まで登らなきゃいけないのか?」


自然と言葉が口から洩れてしまった。

残念ながら飛行能力とかサタンみたいな高速で移動する能力なんてモノは現状の俺には存在しない。

もしかしたら、これから先でそう言った能力が発動する可能性は無くはないかもしれない。

だが、現実問題として徒歩もしくは走ってあの山の頂上まで上がらないとルルを助けに行くことすら不可能である。


「…、山を登るのが面倒だから助けに行けませんでした。何て理由言ったらあいつに殺されるだろうな…。」


俺は途端に心の内から湧き上がる面倒臭さとその後の展開を考えてどうしようか迷っていた。


「随分とお困りのようだけど、手伝ってあげてもいいわよ?神野君。」


背後から聞きなれた声が聞こえた。正直、誰の声なのかすぐに分かった。


「手伝ってもらったら何かしらの見返り要求されそうで嫌なんだけど。」


俺は声の主の方向を振り向いた。

そこには、天馬ことガブリエルが立っていた。


「どこぞの詐欺師じゃないから私はそんなモノ要求しないわよ。それに、あの人は今天界の方に戻っていていないから。私の独断で勝手に動いてるだけよ。」


「何か企んでるのかよ。」


俺は疑いの目で天馬を見た。


「そうね、企んでいると言ったらそうなるわね。私としては厄介な闇能力を発動させた男とエルフの真祖の血を利用して悪だくみを考えている大天使の両方がお陀仏になってくれたらこれほど嬉しいことはないからね。」


「天使が仏教用語のお陀仏使うとか世も末だな。」


俺は日本の文化にすっかり毒されたなんちゃって大天使様を見ると言った。

当の大天使様はそんなこと気にしないとばかりに俺に近づくと肩に手を回し耳元で囁いてきた。


「それに、今ここで私と協力してルル・ウィザードを助ければ佐藤君にそこそこ大きめの借りを作れると思わない?」


「でも、お前は戦う気はないんだろ?」


「当り前じゃない。あくまで私の目的はザドキエルなんだし。そいつがサタンとタイマンで戦うならわざわざ参戦する気は起きないし。それに…。」


そう言うと、天馬はニヤリと含みのある笑みをこぼした。


「今回の件は、ルル・ウィザードが原因なんだからウィザード家の中で解決するのが義務じゃないかしら?私としてはこちらで手を下す必要がないから手伝ってあげるって言ってるのよ。」


もう、天使じゃなくて悪魔かなにかだろ。コイツは。


「じゃあ、俺が行く義務もないけどな。」


「でも、行かないとサタンが結界を破って出てきたら怒られるどころじゃ済まないと思うけど?」


的確に俺の逃げ道を潰していく天馬。俺は大きなため息を1つついた。

やるしかないんだろうな。しょうがないな。

俺は覚悟を決めた。


「いいよ、乗ってやる。その代わり、佐藤の奴に伝えておけよ。1つデカい借りは作った。覚えておけよ。」


「ええ、それでいいわよ。」


天馬はそう言うと、俺の背中に手を当てた。


「今から、あの頂上に向けてここから直で転送してあげる。後は、あなたが何とかしなさいな。」


「本当に手伝う気がないんだな、今回は。」


俺が呆れながら言った。


「そもそも、こんな大掛かりな魔術を仕掛けられてるのよ。明らかにここに倒れている人間達は魔力に当てられて体に異常をきたし始めている。あなた達がさっさと終わらせてくれるまでの時間稼ぎはしておいてあげるんだから、それで等価交換よ。」


天馬はそう言うと、俺の背中に当てていた手に力を込めた。そして、軽く叩くと俺の体がその場から消えるような感覚を覚えた。


次の瞬間、俺は山の頂上に出る一本道に立っていた。


「頂上じゃないじゃん。まあ、敵陣ど真ん中に放り出されるよりはマシか。そう考えると、ちゃんと考えて転送してくれているのか。」


俺は一応納得すると、光が放ってる方へと向かった。

出来る限り、物音を立てないようにコッソリと。

草陰に隠れて、様子を見るとそこには中年の太った男がいた。

何やら祭壇のようなモノが置かれていて、地面にはよく分からないが魔法陣が描かれていた。

そして、その祭壇の上にはルルが気を失った状態で寝かされていた。

俺は男が何やら話している独り言を聞こうとした。


「ようやく、10年以上の月日が経ったが計画の実行が出来る。」


そして、忌々しそうに言葉を続けた。


「本来ならば10年前に完成していたはず。それを、あの憎きウィザード家の者共に…。」


今、ウィザード家って聞こえたよな。と言うことは、あの男はサタンとルルの家に何かしらの恨みを持っている人達なのだろうか。


「こんなとこに隠れて何をされているのですか?」


男に気を取られて、周りを見てなさ過ぎた。

俺の背後には1人の女性が立っていた。

俺は慌てたように草むらから飛び出してしまった。すると、祭壇の近くにいた男も俺の存在に気付いたようだった。


「ネズミが1匹入っていたか。私の娘に何か用か?」


男は冷たい声で俺に話しかけてきた。

いや、それよりもこの男今誰に用があるって言ったか。私の娘って言わなかったか。


「知らずにここに来たのか?いや、なるほど。理解した。貴様が最近、サタン・ウィザードと行動を共にしているとザドキエル様が言っていた少年か。エリナを助けに来たのか?」


男は納得したように言った。どうやら、この男女はザドキエルと何かしらの関係があるらしい。

エリナって誰のことだろうか。知らない名前が出てきたことに一瞬困惑する。

だがそれよりも今は攻撃を受けないようにするのが先決だ。

俺は、攻撃を受けても大丈夫なように体の周りを魔力で覆った。

少なくとも、1,2発程度なら耐えられる。


「基礎的なことは出来るか。そして、魔力の性質的に反射が出来るんだったな。」


男はそう言うと、ルルに向かって自身の右手をかざした。

そして、ルルに向かって叫んだ。


「顕現せよ、エルフの真祖の血を引く我が娘よ。エリナ!今こそ、我がモノとなれ!」


凄い嫌な予感をビンビンに感じる。

背後にいたはずの女性はすでに男の隣にいた。

俺がそれに気づいた直後だった。体の周囲に複数個の魔法陣で覆われていた。

逃げようとした瞬間、一斉にその魔法陣から攻撃が放たれた。


「ふむ、流石に闇能力の魔力。使い手が素人でもあの攻撃を食らって生きているのか。」


男が地面に片膝をついて痛みに耐えている俺を見下ろしていた。

攻撃を食らったはずなのに、反射出来ていなかった。どちらかと言うと、受けたダメージを軽減したと言った方が正しいのだろうか。

正直、どうして反射出来なかったとかあれだけの攻撃を食らってこの程度の痛みで抑えられているのかとか色々考えたい。

だが、それよりも俺の目の前には最悪の出来事が起きていた。


「あれと1人で戦えってか。貸し1つどころじゃ足りねえよ。」


俺は絶望に満ちた声で呟いた。目の前にはルルが立っていた。

目は虚ろで明らかに理性を保てている風ではなかった。

何かしらの精神的な操作を受けているのだろうか。

そもそも、さっきからルルのことを娘と連呼しているこの男は何者なのだろうか。


「そう言えば、自己紹介をしていなかったな。私の名前はラルフ・カイザー。そして、こちらが妻のマリー。そのまま、このルル・ウィザード改めエリナ・カイザーの実の親だ。」


なるほど、サタンの言っていたルルを使ってテロを起こそうとした夫婦と言う奴らか。


「実の両親なのに随分と酷いことするんだな。完全にルルちゃんの目が逝っている状態じゃねえか。」


俺はラルフと名乗る中年の太った男に言った。


「私も手荒な真似はしたくないんのだがね。だが、我々の計画のためだ。10年以上もの歳月がかかったがようやく悲願が実現するのだ。やり方など、どうでもよい。」


そう言うと、ラルフはルルに近づき後頭部を触れた。


「我が娘よ、まず手始めにこの男を殺せ。」


「承知しました、お父さま。」


そう言うと、ルルは杖を構えた。そして、自身の背後にいくつもの魔法陣を作り出すと、一斉にその魔法陣から攻撃が放たれた。

それは炎を水を雷を土を風を纏った弾丸のようなモノだった。

俺は依然教えられたとおりに全身に魔力を纏わせた。そして、攻撃を全てカウンターで跳ね返そうとした。


「…跳ね返せない?」


俺は思わず言葉が漏れた。

前回の天馬との戦いでもルルとの練習でも跳ね返せていたはずが全くカウンター攻撃として発動していない。

代わりに受ける攻撃が全て消え去っていた。


「なるほど、跳ね返す魔力と無効化する魔力の2つがあるのか。ザドキエル様の言っていた通りだな。だが、少年よ。惜しいな。貴様には経験が足りない。ゆえに、使い分けがまるで出来ていない。」


ルルの後ろで様子を眺めていたラルフの声が聞こえる。

2つの魔力?使い分け?何を言っているのか全く理解出来ない。

ただ、この魔力で覆っている限りは相手の攻撃は防げるみたいだ。

なら、無理やりルルとの距離を詰める。

俺は作戦を決めると、攻撃を受けながらルルとの距離を詰めようと体勢を整えようとした。

しかし、それを見破っていたのだろう。逆にルルが俺の懐へと一気に距離を詰めてきた。

そして、懐に潜ったルルは杖の先から小さな球体の魔力を作り出した。


「“破滅の幻影(ファントムブレイク)”。」


ルルは技の名前を小さく呟くと、俺の胸元にその球体を静かに置いてきた。

俺は胸元に全魔力を集中させた。ただ、何となくだがこの魔力の感覚は先程まで使っていた無効化する魔力とは違った感じがした。

球体が破裂した。しかし、今回はその破裂がルルへと直撃した。


「死ぬかと思った…。」


俺はルルと距離を取ると汗を垂らしながら呟いた。

ルルは跳ね返された爆発の瞬間を左手で防いだのだろうか。火傷に似た跡が残っていた。

しかし、白いモヤと共にその傷が治っていく。


「流石にノーダメージにされるのは、それはそれで傷つくな。」


2つの魔力の使い分ける感覚を土壇場で掴めたとは言え、一番手っ取り早いのはやはり…。


「ルルちゃんにかけられた洗脳を解くことだな。」


俺はふぅと一息つくと今やるべきことを再確認した。

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