ルルという少女
サタンとルルが我が家に泊まり始めて2日目、俺はその日は部活の練習がなかったこともあり夕方くらいには家に帰って来た。
玄関の前に立ち、インターフォンを鳴らす。
「はーい、今出ます。」
年の割には幼げな声が聞こえる。
玄関のドアに掛かっている鍵を開ける音がすると、ドアが開いた。
そこには小柄なルルの姿があった。
「あら、剣さんでしたか。お帰りなさい。」
ルルが俺を見上げると、ニッコリと笑いかけてきた。
「ただいま。あれ?今は1人?」
「はい。お姉さまは剣さんのお母さまと一緒に買い物に出かけられましたよ。」
「何で実の子の俺よりもうちの母親に馴染んでいるんだ、あの女は。」
俺は出会って数日しか経っていないのにすでに母親と仲良くなっているサタンに呆れた。
ルルはそんな姿を見ながら、俺を家の中へと入るように促した。
「でもまあ、これから先何かとお世話になる方ですからね。ちゃんとコミュニケーションを取ることは大事だと思いますよ。」
「距離感の詰め方が速すぎるんだよ。」
家の中に入り、靴を脱いだ俺はルルに言った。
そう言えば、この子は一緒に行っていないんだなと思った。
「私は留守番ですよ。買い物程度でしたら、2人で行けば十分でしょうし。剣さんも今日は早く帰ってくるみたいなことをおっしゃっていましたし。」
俺の考えを読み取るかのようにルルが理由を説明してくれた。
エスパーみたいだな、と俺は思いながら洗面台で軽く手を洗い、うがいをした。
「今日は何をしてたの?」
特に話をするネタもない俺はルルに世間話程度の話を振った。
ルルは階段を上がり自室に向かおうとする俺の後ろをついてきた。
「今日は特にやることはなかったので暇つぶしに持ってきていたゲームをしてたくらいですよ。お姉さまは剣さんの部屋に入り浸って漫画を読まれていたようですが。」
あの女は勝手に人の部屋に入るのをやめて欲しい。
男の部屋なのによくもまあずかずかと入れるものだなと感心する。
色々と隠したいものとかあるのだ。と言うか、見つかってないか少し不安だ。
と言うより、この子はゲームをするのか少し意外だ。
「ゲームなんてするんだ、意外だね。」
「あら、そうですか?どういう印象を持っていたかは分からないですが、こう見えてもゲームは得意なんですよ。それなりに大きな大会で優勝とかしたこともあるんですよ。カードゲームとかもしますし。」
「何ていうか、良家のお嬢様だからそういう庶民的なモノじゃなくて昔の貴族みたいな趣味してるのかと思っていた。」
俺の偏見にルルは笑っていた。
そして、ポケットにしまっていたゲーム機を見せてきた。俺も中学生時代までやっていたモンスターを狩ると言ったある有名タイトルだった。
「おっ、懐かしいな。そのゲーム。中学生時代までしてたな。高校生になって受験とかも始まるからと言われて母親に気づいたら売られてたんだよな。」
俺は心底残念そうに言った。
「あら、それは可哀そうに。2人が帰って来るまで少し一緒にやりますか?」
ルルは俺の自室に入ると一緒にやらないか、と誘ってきた。
一緒にゲームをするのは大歓迎だ。しかし、その前に…。
「あのー、着替えるから一度部屋出て行ってもらってもいいかな?」
俺の言葉にルルはハッとすると、申し訳なさそうに謝った。
「そうでしたね、まだ制服でしたね。着替え終わるまで少し部屋から出ていますね。」
年頃の女の子らしく恥ずかしがると部屋から出ると、ドアを閉めた。
サタンもそうだが男の目とやらをあまり気にしない性格なのだろうか。
サタンに至っては風呂上りに薄着でウロウロと家の中を歩いており、羞恥心というモノはないのかと言いたい。
と言うか、薄着のせいで体のラインとか割とくっきり出ているからつい目が行ってしまう。視線に気づかれていないか心配である。
俺は素早く着替えると、洗濯物を取って部屋から出た。外には壁に背中を預けて天井を見上げているルルの姿があった。
「着替え終わったよ、じゃあ2人が帰って来るまで一緒にやるか。」
俺は何か考え事をしてそうなルルに言った。
ルルは俺が部屋から出たことに気づくと、壁からぴょんと飛び上がった。
「着替え、早いですね。ゲーム機は1個しかありませんから剣さんがしていいですよ。私は横からそれを眺めていますので。」
そう言うと、洗濯機の上に洗濯物を置いてきた俺にゲーム機を渡してきた。
俺はベッドの上に座ると、ルルが隣から覗き込むように座ってきた。
本人に直接言うとドン引かれそうだから言わないが、甘くていい匂いがしてくる。
俺は数年ぶりにゲーム機の電源を入れた。
セーブデータを見ると、3つあるセーブデータの内の2つがカンストしていた。
「滅茶苦茶、やり込んでるじゃん。」
俺は驚いた声を上げると、ルルを見た。
ルルはその言葉に少し嬉しそうにはにかむと自慢気な顔をした。
こういった仕草の所々はサタンの妹なんだなと思わせる。
顔の造形は全く似ていないが。
「先程も言いましたけど、私はこう見えてもゲームに関してはかなり上手いんですよ。多分、私の名前で検索すれば何かしらの大会で優勝してるので検索候補に出たりしますし。」
「サタン曰く、ルルちゃんは天才らしいけどゲーム方面に生かされてる感じなの?」
俺の疑問に操作中の画面を眺めているルルは答えた。
「うーん、どうでしょう。ゲームだけではないですけどね。基本的に頭を使う系の作業で苦労した経験とかないですし、学校のテストなんかも常に満点ですし。」
ガチの天才じゃないか。何か一緒に話していいレベルの人間なのか不安になってきた。
俺がそんなことを思っていると、畏怖とも取れる表情を察したのかルルが話をつづけた。
「別にそんな改まる必要もないですよ。と言うか、私の場合は生まれつきの“神の頭脳”のおかげって所もありますし。それを言えば、サタンお姉さまは運動面で言えば本気でスポーツに取り組めばすぐにオリンピックレベルの選手になれるようなそっち方面の才能に振り切った方なんですよ。」
「あれ?実はあの女、凄い人間だったりする?」
ルルのサタンの話で俺の中のサタン評価が少しだけ変わってきている気がする。
「お姉さまは頭脳の方は平均より上程度で身体能力の面で天才。逆に私は身体能力は並より少し上程度ですが頭脳は天才。こんな感じですかね。」
「サタンもそうだけどそういうことに対して全く謙遜とかしないで堂々と言うタイプなんだね、2人とも。」
俺が久しぶりのゲームを触りながら横で眺めてるルルに軽口のつもりで言った。
「実際、紛れもない事実ですからね。これで逆に謙遜して言う方が嫌味に取られると思いますよ?」
「変に才能あったり目立つと目を付けられて面倒なことに巻き込まれることがあるかもだからね。出来る限り、目立たないで生きたいだけだよ。」
「自己評価低いですよね、剣さんって。」
ルルが不思議そうに尋ねた。
逆に特に何か目立つような才能もない俺のどこに自己評価を高く出来る要素があるのだと逆に質問したい気持ちだ。
「ルルちゃんのお姉さんが唯我独尊すぎなんだよ。」
俺は呆れるように言った。
「そうですね、でもお姉さまは実力は本物ですからね。それにお姉さまは多分、何も考えていませんから。私は強い。それでいいだろって感じで。」
「だろうな。あいつ、自分を隠して生きるとか苦手そうな人間だもんな。」
「でも、楽しい人でしょ?少しだけ憧れるんですよ。ああやって、自由に生きていられる人が。」
ルルはそう言うと何が楽しいのか少しだけ笑っていた。
「ありのままね。逆に何か色々と隠してそうに見えるけどね。ルルちゃんって。」
俺は少しばかり嫌味混じりに言った。
「さあ、どうでしょう?」
ルルは俺の嫌味に少しばかり含みのある言い方をしてきた。
そして、ずいっと顔を近づけ、上目遣いで見てきた。
幼そうな顔立ちがどことなく妖艶な雰囲気に感じた。
正直、女性経験がほとんどない俺には中々に刺激が強い。
「逆に剣さんは私やお姉さまが何を隠していると思っているんですか?」
ルルが俺の反応を楽しむように逆に尋ねてきた。
「あれだよ、2人の関係とか。姉妹なのは事実だろうけど顔とかも全然似てないしさ。」
俺は顔が赤くなってる感触を感じながら、主導権を取られまいととりあえず瞬時に思い付いた言葉を言った。
「そんなに気になりますか?私達の顔があまり似てないことが。」
「別に凄く気になってるわけじゃないよ。言いたくないなら、言わなくていいよ。そもそも、何で俺にこんな能力が現れたとか、ウィザード家とやらが何をやっている家なのかとか色々聞きたいことは他にもあるし。」
上目遣いに見ながら体を密着させていたルルが離れてくれたおかげで、少しばかり冷静さを取り戻した俺はしどろもどろになりながら言い返した。
「あら?絶対に聞きたいってわけでもないんですね。それこそ、私じゃなくてもお姉さまに聞いてもいいのに。」
ルルが意地悪そうに笑う。
俺はその顔を苦々しそうに睨んだ。
「うるせえよ。少し意地になっただけだ。そこまで出会って日数も経ってない相手の過去とか詮索すると関係性悪化するかもだろ。俺、そういうの嫌いなの。」
もう近づかないでくれよ、と俺は手を振ってルルにジェスチャーをした。
ルルはそんな俺の反応を一通り楽しむと、
「別に私やお姉さま相手にそんな畏まらなくてもいいのに。その程度で嫌いになったりしませんよ。」
「余計なお世話だよ。」
ようやく落ち着いた俺は気づいたら全然触っていないゲームを再び操作し始めた。
そんな俺を見ながら、ルルが言ってきた。
「せっかくですし、昨日私が渡した魔道具を使ってみませんか?少しばかり魔術のお勉強をしましょうか。」




