魔術とは…
普段はささっと食べれる料理しか作らない母親がなぜか腕によりをかけて作った豪勢な夕飯を食べた俺は、サタンとルルの寝床となる部屋の準備をさせられていた。
「布団くらい自分達で用意できるだろ。」
俺は自分の寝る部屋なのに手伝いもせずに床で寝転がりながら携帯を触っている自称お嬢様に言った。
「別に手伝ってくれないか、と言っただけだぞ私は。それをルルに甘えられて鼻の下を伸ばしてしょうがないなとか言いながら手伝い始めたのはお前自身だろ。だからこうして私は任せてのんびりしてるわけだ。」
「いや、お前がメインでやるはずのことを俺が代わりにやってるんだが?ルルちゃんを見てみろ。ちゃんと自分の寝る布団を敷いているぞ。」
俺はそう言うと寝床周りを自分の使いやすいようにカスタマイズしているルルの方を見た。
この子の献身さを数割でもいいから姉のコイツに分けてやることは出来ないものかと思った。
「ごめんなさい、手伝ってもらって。でも、お陰でスムーズに終わりました。日本と違って普段、床で寝ることなんてほとんどないですし私達は。」
ルルは申し訳なさそうに俺に礼を言ってきた。
「いや、ルルちゃんには言ってないから。主にそこでサボっている奴に言ってるだけだからさ。」
「お前、ずっと思っているがルルに甘すぎないか?もしかしたら、お前ロリコンなのか?」
サタンは寝転がっていた体を起こすと俺に話しかけてきた。
別に俺はロリコンでも何でもない。ただ、可愛い年下の女の子に優しくしているだけである。
そんな失礼なことを言う同級生に俺は言い返した。
「ロリコンじゃねえよ。いらない誤解を与えないでくれ。ただ、可愛くて優しい女の子に甘いだけの心優しい少年なだけだ。」
「それを巷ではロリコンと言うんじゃないのか?まあ、ルルに変に手を出したら私が黙ってないからよく覚えておくように。」
「お前はお前で何かシスコンな気があるような気がしてならないな。」
サタンとそんな軽口を叩いていると、
「仲が良いんですね、、お二人とも。」
ルルがそんな俺達の光景を見て楽しそうに笑っていた。
「さっきも言ったが仲が良いわけではない。ただ、コイツが失礼なことばかり言うから言い返してるだけだ。」
サタンはルルに言うと、立ち上がり敷かれた布団の上に座った。
そして、ルルの方を見ると、
「さてと、そろそろ本題に入るか。ルル、コイツの家族に話を聞かれないようにしよう。」
サタンが改まった顔でルルに指示をした。
ルルの方も先程までの笑みを消して、真面目な顔になっていた。
「そうですね、剣さんは明日も学校がありますし早めに終わらせるとしましょうか。」
そう言うと、両手を重ねて床にその手を置いた。
「今、防音と偽の映像が流れる結界を張りました。これで、ご家族に話は聞かれないでしょうし、たとえ部屋に入ってきたとしても世間話をしているだけにしか見えないはずです。」
ルルは今この部屋に仕掛けた魔術についての説明を俺にしてくれた。
随分と便利な魔術なんだなと感心していると、
「ルルは“精霊魔法”と“神の頭脳”の二つが抱き合わせで生まれた人間だからな。魔術に関しては私なんか非にならない程の知識と使い手だ。私が単純な戦闘力の方面で人類最強であると同時にルルは魔術に関して現代における最強と呼ばれるほどの天才だ。」
「お姉さまは座学への関心が薄すぎるんですよ。あと、光魔法の能力頼りすぎでそれしか使わないですし。」
ルルはサタンからの紹介に呆れた顔をしながら返答をした。
「実際、それが一番の最適解だからな。あと、能力頼りは言いすぎだ。フィジカル面でも私はしっかりと鍛えてる。別に座学に関しては勉強が嫌いなだけで、体を動かしての実践の方が好きなだけだ。」
ルルはやれやれと言った表情をすると俺の方を向いた。
「まあ、先程の紹介の通りです。簡単に説明すると“精霊魔法”と言うのはその名の通り、精霊を使うことで火・水・雷・土・風の5つの属性を全て扱うことが出来る魔法の事です。ただ、基本的に5属性全部を使い分けるとなるとかなりの魔力と脳のリソースを取られちゃうのが欠点なんですよね。まあ、魔力に関してはこの世界には目に見えないだけで空気と同様に魔力も存在しているんです。私の場合は、それを精霊魔法の精霊の力を借りることで体内に取り込んで活用しています。」
授業で生徒に教える教師のようにすらすらと言葉を紡いでいくルル。
俺はほとんど理解出来ない状態でその話を聞いていた。
そんな俺の表情を察したのか、ルルはもう少しで終わりますから、と小声で言い、説明を続けた。
「で、もう1つの問題の脳のリソース。これを解決しているのが“神の頭脳”の方です。要は簡単に言ってしまえば神の叡智がそのまま与えられてると考えてくれればいいです。無限の記憶力とかが分かりやすい例ですかね。まあ、魔術に関して言えば魔術を使う際に効率よく魔力を回転させるというとこにこれを私は使っていますね。」
ルルはそう言うと、自分の脳を軽く人差し指で叩いた。
「魔力を使って魔術を行使する際に一番使う場所はどこだと思いますか?」
「えっと、今の話的に脳になるのかな?」
突然、質問をぶつけられて俺は直感で答えた。
正解だったのだろうか、ルルは満足そうに笑うと、
「そうです、正解です。基本的に脳を回すことで魔力を体全身に行き渡せているんです。加えて、本来通常の人間のするような肉体の動きも同時に行います。だから、魔術を使っての戦闘と言うのは相当脳に負担を与えているんです。」
そこまで説明をすると、ルルはサタンの方を見た。
「まあ、たまにお姉さまのようなほぼ無尽蔵のレベルの魔力量を生まれつき所持しているような化け物もいますが。こういうのは例外と呼ぶものですね。加えて、お姉さまの場合は魔導書でも伝説と呼ばれてるような光属性の能力を所持していますから。だから、人類最強なんて呼ばれているんです。私の場合は魔力量自体は多いわけではないのですが。精霊魔法による大気の魔力の循環と神の頭脳による効率のいい魔力操作でお姉さま程じゃないにしろ、現代魔術における最強の使い手なんて呼ばれたりしてますね。」
一通り説明を終えたのか、ルルはふぅと息をついた。
小難しい単語がたくさんありすぎて、ほとんど理解出来なかった。
ただ、唯一理解出来たことはある。
「えっと、要は2人とも生まれつきチート能力持ちで生まれましたみたいな感じで考えて大丈夫?」
話の流れ的に私達姉妹は生まれ持った能力が合わさって凄く強いんだぞ、と言うことしか正直分からなかった。
俺が尋ねると、ルルは微笑んだ。
「そういう認識で大丈夫です。まあ、日本に個人用の飛行機が着くまで4日ほどありますし、暇を見て私の方から軽い実戦的なことを踏まえながらおいおいと詳しい説明をしますよ。剣さんの持っている闇属性の能力についても見てみたいですし。」
「お前、その手の怪しげな魔術を研究するのは専門分野じゃないのか?」
ルルの説明に即座にサタンがツッコんだ。
ルルはそのツッコミにバツの悪そうな顔を浮かべた。
「その言い方やめてもらえませんか?何かヤバい人みたいに思われそうで嫌なんですが。」
「あながち間違いでもないだろ。剣の前でまともそうな振る舞いしてるが、割と頭のネジ飛んでる側の人間だろ。お前も」
長い説明に飽きたのか、布団の上でゴロゴロし出したサタンがルルに言った。
俺はそんなサタンの姿を見ると、
「てか、お前は何か教えてくれないのかよ。お前も強いんだろ、ルルちゃんの話的には。」
「私は感覚派タイプだからな。人に教えるとか、手加減して戦うとかそういうの苦手なの。その手の類はルルに任せておけばいいんだよ。そもそも、ルルの方も闇属性の能力についての知識が全くなさそうなことに私は驚いているんだが。」
ゴロンとうつ伏せになり、携帯で何かしらのアプリのゲームを始めたサタンがルルに尋ねた。
ルルはうーんと言って悩んだ表情をしていた。
「そうは言っても文献にも本当にちょろっとしか書かれてないんですよね。単純に使い手がいなさすぎて書かれていないのか、それとも…。」
「意図的に誰かが情報を隠蔽しているか、だな。使い手がいなさすぎて云々の話なら私の光属性の能力も文献にすら残っていないはずだ。何せ、伝説上1人しかいないはずだからな。その癖、しっかりと大まかな説明まで文献に残されているのだ。」
サタンがルルの詰まった声に明瞭に返した。
どうやら、ある程度の能力には使い方のような説明書みたいなのが存在するらしい。
「意図的、と言いましたけど何でそんなことする必要があるんですかね。」
ルルの純粋な疑問にサタンは首を横に振った。
「知らんよ、そんなこと。私は難しいことを考えるのが嫌いな人間なんだ。そういうのを考えるのはお前の仕事のはずだろ。」
サタンはルルを一瞥すると答えた。
ルルはその言葉に困ったような顔をして俺の方を見てきた。
「お姉さまは昔から面倒だったり難しめの選択する時は私に全部丸投げしてくるんですよね。正直、あまり頼られすぎてもミスをした時に私のせいにされそうで嫌なんですけど。」
「実際、選択を任せたら成功しているからな。成功体験とは大事なモノだろ?隣にわざわざ優秀な人間がいるのに頼らない理由などない。」
サタンはルルの言葉にさも当然だろと言わんばかりに返した。
ルルは困ってそうな顔をしつつもどこか嬉しそうにその言葉を聞いていた。
「仲いいんだな、姉妹の。」
俺は2人の関係を見て、素直な感想を述べた。
割とこのくらいの年齢の姉妹だと思春期的なので関係悪化とか聞くがそういうのはなさそうなんだなと思った。
「そうですね、仲はいいと思います。」
俺の素直な感想にルルは微笑みながら答えた。
俺はその顔を見ると、もう1つ軽い気持ちで質問をした。
「そう言えば、サタンがさっき怪しげな魔術とか言ってたけどそういうのもあったりするの?」
俺の疑問にルルは答えようか少しばかり迷っているようだった。
そして、首を少し傾げると、
「うーん、それは色々な魔術はありますよ。人の役に立つものもあればそれこそ人を殺すための魔術もある。でも、それって魔術だけじゃなくて科学でも同じだと思いますよ。」
そう言うとルルは、儚げに少しばかり笑った。
「そうですね、いつか剣さんにも色々な魔術を教える機会があるかもしれませんね。その時にはそう言ったモノも教えてあげてみるのもいいかもですね。」




