三日月勇者の称号〜護衛騎士の献身
三日月勇者の身代わりクエスト
(騎士団長視点)
『三日月を持つ者、剣に聖なる輝きを得て魔王を討ち滅ぼす』神官長が告げた神託を聞いて、私は嫌な予感がした。
案の定、額に三日月のアザがあるロイル殿下に、勇者の使命が与えられた。
普通に考えれば、あり得ない話だった。
まだ7歳になったばかりの幼い王子を、魔王討伐に向かわせるなど正気ではない。
しかし、国に忠誠を誓う騎士として国王の命に逆らう事など出来ず、せめて騎士団長である私が王子の剣の指南役になるという名目で、護衛を兼ねて騎士団を動かす事にした。
そして、王子と同じ色の髪と目を持つ腕の立つ冒険者を雇い入れ、国王の名で勇者の身代わりを依頼した。
勇者の身代わりを国王に提案した時「魔王を倒すのが神託を受けた王子であれば、それでいい」と言われ、何としてでもロイル殿下に勇者の称号を得て欲しいと思った。
生まれてすぐに母を亡くした悲運の第五王子。
それがロイル殿下だった。
ゆえに、何も望まれる事無く離宮でひっそりと過ごしていた。
そんな環境下でも腐る事なく、笑顔を絶やさず他者を労り慈しむ優しい心を持つロイル殿下の事を、仕える者は皆慕っていた。
魔王討伐の使命を果たし勇者となれば、王子を取り巻く状況は一変するだろう。
私は5年の月日をかけて、王子の成長を助け、見守った。
そして、ついに魔王と対峙する時が来た。
先行していた身代わりの冒険者に案内されて、魔王城の最上階に到着すると、すぐに違和感を感じた。
そこに現れた魔王らしき黒い塊からは、殺気や魔族特有の禍々しさが全く感じられなかったのだ。
周囲に漂う強力な魔力の圧は感じるが、それだけだった。
(これが魔王か?)
そう訝しんでいると、王子が聖剣を引き抜いた瞬間ものすごい突風が吹き荒れ、聖剣が吹き飛ばされた。
私達は即座に守りの陣形を取る。
(余計な事は考えるな、今はロイル殿下を守る事だけに集中するんだ)
と、自分に言い聞かせる。
すると、身代わりの冒険者と共に聖剣を手にした王子が魔王の前へと躍り出て、黒き塊に聖剣が突き刺さると、激しい閃光を放ち辺りは光に包まれた。
薄く目を開ければ、黒い塊は地に落ちて、聖剣を手にした王子の後ろを守る様にして立つ勇者の姿が見えた。
この時、ようやく最初に感じた違和感の正体が分かった。
しかし、私は彼らの意を汲み真実を伏せる事にした。
「三日月を持つ者が、剣に聖なる輝きを得て魔王を討ち滅ぼした!」
こうして、心優しき悲運の王子に、勇者の称号が与えられた。
騎士団長設定〜
第一騎士団の団長。
面倒見が良く、幼い王子が勇者と呼ばれ魔王討伐を命じられた事に疑問を持つ常識人。
王子の剣の指南役
冒険者達の茶番劇に気付いたが、利害の一致により真実を伏せる事にした。
心優しい王子に忠誠を誓い、勇者の名声と共に守っていく。
何かあったら、また三人に指名依頼しそう。