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第8話 断ち切りの祈り

 虫屋の店主の名前は、ハリスといった。カルト教団で、中堅どころの立ち位置らしい。


 このカルトは完全なるピラミッド組織のようで、勧誘や献金の量で順位が決まるらしい。ハリスは財産をほとんどむしり取られていたが、虫を売る事でどうにか生計を立てていたらしい。


 その話を聞くと、どこの世界のカルトも同じだと感じた。目に見える行いにフォーカスを当てている。一方、キリスト教は信仰が一番大事なので、行いの量では順序などは付けられない。


 そんな事を話しながら、村にある森に入っていった。この森には木苺のなる木や、川もあるらしい。


「なんか、マリアちゃんの話しを聞いてたら、罪悪感が芽生えてきたよ」

「罪悪感?」


 ハリスは何かとても話したい事があるようなので、川辺に座って話を聞く事にした。


 森の中の流れる小川は、綺麗なせせらぎの音を響かせていた。水も澄んでいて、魚も泳いでいた。


 釣竿があれば魚も釣れるかもしれないと考えたが、今はハリスの話を聞くのが先だ。


「ああ。俺はアリス様に気に入られたいから、献金や勧誘をやっていない村人を裁いて迫害もしていた。そうすれば龍神やアリス様にも気に入られると思ったんだ……。救われると思ったんだよ」

「そっか…」


 カルトは行いにフォーカスするから、こんな風に救いがどこにあるのかわからなくなるのだ。献金額で救いが決まるのは、結局お金持ちしか得しない事にもなる。本当の神様はそんな不公平な事はしない。


 空は晴れ、頭上で小鳥が呑気に鳴いていた。平和な光景だったが、ハリスの表情は重い。


「特に村人のエレンを虐めて追い出してしまった。エレンは、龍神やアリス様に反抗的だったから、自分は正しい事をしていると思い込んでいたよ」

「そっか。ねえ、福音は別にわからないと思うけど、私達の神様に謝ってみない? きっと許してくれると思うよ」

「許してくれるか?」

「まあ、一回試してみましょうよ」


 という事でハリスと一緒に悔い改めの祈りをやってみた。本当は神様に立ち返るまでが悔い改めだが、ハリスは罪悪感で苦しそうだった。少しは、その気持ちが癒されますようアリスも静かに祈る。


「ああ、本当に俺は神様にもエレンにも酷い事をしてきた気がするよ」

「大丈夫。神様は許してくれたわ。感じない?」

「そうだな。この祈りをしていると泣きたくなってくるよ」


 ハリスは、わんわんと男泣きをしていた。マリアは、彼のの肩をたたき宥めた。


「大丈夫。あとはカルトとあなたの断ち切りの祈りをしましょう」

「断ち切りの祈り?」


 マリアは断ち切りの祈りについて説明した。断ち切りの祈りとは、簡単にいえば悪き縁を切る事だ。


 婚外の交渉やカルト教祖と信者の関係でできてしまう。言葉を交わしていないのに相手の気持ちがわかったりもする。


「そういえばアリス様は、俺の考えている事がわかってよく当てていた」

「それは連結のせいね」

「で、でもそれだけだったら悪い気はしないんだが」

「うん、それだけだったらいいんだけど、相手の不幸、病気、先祖の呪い、悪い思考や癖なんかも入るのよ。性交渉した場合は、相手がムラムラするとこっちも性的に歯止めが効かなくなったりするわけ」


 脅かすつもりはないがハリスの顔は真っ青になっていた。


 マリアは元の世界でカルト脱退者の世話もよくしていたが、この連結を断ち切らなければ意味がない。結局、再び別のカルトに行ったり、神父を偶像視したり、教祖じみた事をしたりしていた。


 元いた世界では、元カルト信者がエッセイ本なども出し、警告を発していたが、厳密にいえばこの連結を断ち切らなければ、堂々巡りになる。


「そんな。もしや俺の財産がむしり取られたのも、その連結のせいか?」

「そうよ。相手と一体になるから、お金も全部相手のものになってしまうのよ」


 想像以上にカルトの闇は深く、現実を知ったハリスは再び泣いていた。この状況だと彼が一人で断ち切りの祈りをするのは、難しいだろう。


 マリアは変わりに断ち切りの祈りをやってやった。本当は本人が声に出してするべきだが、とりあえず応急処置はしておこう。後でゆっくりこの件については、話しておいた方が良いだろう。


「あれ? なんか少し心が軽くなってきたよ」

「それは良かったわ。本当にこの連結を切らないと、いくら頑張って聖書を黙読してもあんまり変われないの。聖書の音読は良いんだけどね」

「へー。マリアちゃんのところは聖書なんてあるのか」

「ええ」


 しばらく聖書の内容などについて説明していた。やっぱりこの村のカルトは、聖書のようなはっきりとした聖典はなく、かなり興味深々に話を聞いていた。


「そっか。神様はこんな俺でも許してくれていたのか。なんか、エレンに謝りたくなってきたよ。許してくれないかもしれないけど」

「だったらエレンさんに謝りの行きません? 大丈夫。エレンさんが拒否しても、神様は許してくれるわよ」

「そうか。だったら少しは気が軽いな。エレンに謝りに行きたいよ」

「わかった、そうしましょう」


 という事で、食糧探しは後回しにし、エレンに会いに行く事になった。


 エレンは村から追い出された後は、この森でキャンプ生活しているらしい。


 森のどこに住んでいるかは不明だが、川辺で生活している可能性は高そうだ。水と近い場所で暮らすのは、生活は便利だろう。


 マリアとハリスは、川辺を歩きながらエレンを探した。

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