表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

第7話 マトモな食べ物を探しましょう

 冗談じゃないわ。昆虫食なんて絶対ムリ!!!


 マリアはそう叫びそうになりながら、めちゃくちゃに走った。不思議な事にいくら走っても疲れず、汗もかかない。服も汚れない。


 どうやらマリアの肉体は、本当に都合の悪いものを排除したものらしい。それも不気味に感じるが、このゲーム世界から帰る方法が全くわからない。


 そういえば昆虫食は、元いた世界でも売っているのを見た事があるが、月子はカルトっぽいと言っていた事を思い出す。確かによっぽどの強い動機がなければ、あんなものは食べないだろう。メイソンが、虫を食べると徳が積まれるとか言っていたが、本当にカルトらしい。修道院では農作物がとれず、ひもじい食事が続いた事もあるが、さすがに昆虫を食べるという発想はなかった。


「っていうか、ここどこ?」


 気づくと、村の中心部に来てしまったらしい。美容院やカフェ、書店などの商業施設が見えた。パラパラと人も見えるが、村人達はボロを着ていた。なぜか美容師と書店は開店休業状態で、店頭にはほとんど何も置いていなかった。


 村人は縄文時代のような粗末な服で、身体の栄養状態も悪そうだった。肌も乾燥し、色艶も悪い。


「ぎゃっ!」


 カフェの店頭に置いてある看板には、メニューが書いてあったが、モンシロチョウのパスタ、コオロギのスープ、蟻のサラダ、セミのぬけがらと幼虫パフェなど昆虫食ばかりだった。名前にGのつく虫のフリッターって一体何……?


 この身体では都合がいい事に空腹感は感じないが、さすがに気分が悪い。


 その上、昆虫を売る店もある事に気づく。単なる虫を売っているわけではなく、死んで三日目に蘇った奇跡の昆虫として付加価値までつけている。


「あ、あの! この虫ってなんなんですか?」


 マリアは恐る恐る店主に聞いてみた。店頭には、カゴに入ったセミ、モンシロチョウもいて羽音が聞こえた。


 店主は比較的良い着物をきていた。メイソンが着ている服ともちょっと似ていた。神殿というか、カルト教団の関係者かもしれない。


「ああ、これは聖女様・アリス様が奇跡で復活なさった虫達だよ」

「アリス様?」


 はじめて聞いた名前だった。店主によると、神殿の聖女で、大変な人気があった模様。虫だけでなく、人間の体の癒しや預言もでき、崇められていた。


 ただ、数日前から疾走中で、聖女のポジションは空いてるそう。道理でマリアがその後釜として呼ばれたわけだ。まあ、マリア本人は虫を食べさせられると思うと、絶対神殿には帰りたくないが。アリスも昆虫食が嫌になったんだろう。色々と察した。


「アリス様がいなくなって心配ね。(私も昆虫食は食べたく無いから)とても気持ちがわかるわ」


 マリアは何気なく言ったつもりだった。


「そうなんだよぉ。アリス様……」


 店主はわんわん泣き始めた。とても40代ぐらいの男性の態度ではなかったが、マリアは思わず同情してしまう。


 少し迷ったが、福音を伝えた。この福音は、一言でいえば神様が死ぬほど人を愛しているという事だ。


「そんな、だったら俺が信じている龍神やアリス様は何なんだ?」

「悪魔よ」


 非常に言いにくいが、マリアははっきりと言った。こういった奇跡も悪魔は簡単にできる。公平で愛なる神様が、特定の個人にこんな奇跡を起こしたりししない。


 マリアは修道院にいた頃、町の病院や孤児院に行き奉仕した事もあったが、死にかけている人々でも神様は簡単に奇跡を見せてくる事はなかった。そもそもキリスト教の神様は非常にプライドが高い。そうそう簡単に奇跡で信じてもらいたく無いのだ。


 ちなみに終末には、こうした奇跡で信じさせる悪霊の惑わしが強くなり、教会で悪霊のリバイバルが起きると言われている。


「そんな、悪魔の力だったなんて……」

「とりあえず昆虫食はやめませんか? 健康の被害があったりしません?」


 店主は福音を簡単のは信じてはくれなかったが、昆虫食やこのカルト教には疑問を持ち始めたようだった。


「でも虫食ってお腹壊した人にアリス様が手当てするとすぐ良くなっていたんだ」

「それはきっとマッチポンプね。さっきも言ってけど、悪魔も奇跡を見せる事はできるから」

「そっか……」


 店主は明らかに肩を落としていた。ただ、カルトへの不信感は心に溜まっているようだった。もっと心酔している人の場合は、こう言った事を伝えても反抗してくるケースが多かったが。


「なんか、腹減ったなぁ。虫以外のものが食べたいよ」


 店主のお腹からが、情け無い音が響いていた。


「だったら食べ物を探しに行かない?」


 マリアは全くお腹もすかないし、喉も乾かなかったが、心理的には何かマトモなものを食べたかった。


 昆虫食のインパクトが強すぎて、普通の野菜や果物だけでも本当にマトモに思えてしまった。


「いいぜ。一緒に食べ物を探しに行こうじゃ無いか?」

「ええ。一緒に虫以外のマトモな食べ物を探しましょう!」


 こうして店主は店を閉じ、マリアと一緒にマトモな食べ物を探す事になった。


 今の状況なら何でもご馳走に思えそうだ。


 やっぱり、昆虫食なんてあり得ない!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ