第4話「メタ☆バース」スタートです
おかしなゴーグルだった。
つけた途端に意識が切れたと思ったら、目の前に映像が流れていた。映画館でスクリーンを見ているような状況に近い。
気づくと自分がいたリビングの視界が完全に消えている。どうやらこのゴーグルが映像を見せているようだった。
スクリーンには「メタ☆バース」という文字が現れた。奇妙に明るい音楽が流れ、元々音楽好きの麻里亜が、鼻歌をノリノリで歌っていた。
「主イエス様は麗しいお方〜」
うっかり讃美歌風の歌詞までつけてしまった。基本的に麻里亜は脳天気なお花畑タイプの性格だった。理系で知的な事を考える事が好きな月子とは全く似ていない。姉妹といえど性格は全く違っていた。
そんな映像が流れ終えると、猫型ロボットは現れた。某●●●●●というアニメキャラには似ていない。黒猫でツンとしたお顔だった。
「まあ、可愛い。猫ちゃん」
「私は仮想現実ゲーム『メタ☆バース』の案内人」
「へー」
ロボットだったが言葉は流暢だった。意思疎通も普通にできる。
「麻里亜さんには、ゲーム世界で遊べるアバターを選んでもらいましょう」
「これってゲームなの?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか。仮想現実世界のゲームで、アバターを使ってリアルな感覚でゲームできるんです」
「私、もうおばさんだから難しい事わかんないのよぉー」
「まあ、一言で言えば別人になってファンタジー世界で遊ぶゲームという事です」
「へー。興味ないわ。やめていい?」
と思ったがやめる方法がわからない。猫型ロボットは、淡々と色々なアバターという人形の写真を見せてきた。どれも美男美女ばかりだ。色んな国籍や時代の美男美女がいた。日本では縄文時代から現代までの美男美女の人形の絵があった。
「あら、この子可愛いじゃない」
中世ヨーロッパ風の美女に目がついた。金髪縦ロールで、いかにも少女漫画っぽいイラストというのも気になった。
「では、この子ですね。お名前はどうしますか? こちらで決める事も出来ます」
「へぇ。名前も自分で決められるの? でも麻里亜でいいわ。聖書のマリアから取られた名前で気に入ってるのよねぇ。でもマリア多すぎてどのマリアからとったかは謎なのよー」
「ではツキミィ・マリアという名前でよろしいですね」
「やだー、名前までヨーロッパ風になっちゃったの? っていうか、だとしたら苗字と名前逆よ」
麻里亜の冷静なツッコミは無視され、ロボットはこう言った。
「ではマリアさん。『メタ☆バース〜異世界カルト村編〜』を思う存分お楽しみください」
「は? カルト村ってどういう事?」
カルトと聞いてマリアの眉根がよる。修道院時代は、カルト被害者が駆け込んできてよく相談に乗ったものだ。カルトの手口はだいたい把握しているが、「魂の連結」というものはあり、単にカルト脱退しただけでは消えない問題もある。
「ちょ、どういう事?」
「ではでは」
そう言って猫型ロボットが消えた。同時に麻里亜の姿形も別人のように変わっていた。年齢不詳の浮世離れた不思議系おばちゃんから、中世ヨーロッパ風のうら若き乙女に変わっていた。重いドレスを着ているはずなのに、その重みを感じない。
リアルな身体の体感はあるのに、なぜか汗や疲労感のようなものが無い。ゴールをつけていた重みや感触も消失していた。
手の平を見ると、ツルツルで爪の色艶もいい。いくら30代に見える麻里亜でも、身体の細かいパーツは年相応だ。首元や声もそうだ。
「どういう事?」
発する声もうら若き可愛い少女のものだった。
それと同時に周りの背景も全く変わっていた。そこは現代日本ではあり得ないような光景だった。
自然あふれるどこかの森にいた。