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第3話 冒涜の書

 朝食の片付けが終わると、麻里亜は食卓でゆっくりとくつろいでいた。


 お湯を沸かし、コップに白湯を入れてチビチビと飲んでいた。


「美味しいわぁ」


 白湯を飲む麻里亜の表情は、溶けていた。日本に帰ってきて、月子にクリームやチョコレートたっぷりのコーヒーを奢って貰った事があった。確かに美味しかった。毎日でも飲みたい気分になったが、中毒性がありそうなのでやめた。やっぱり白湯のように低刺激のものがいい。修道院でもコーヒーは滅多な時じゃないと飲めない高級品だった。だからこそ良いのだろう。たまに飲むから美味しいというもの。


 今は便利なタワーマンション生活も慣れているが、それがちょっと怖かった。質素な修道院生活に戻れるだろうか。


 そうは言っても考えても仕方ない。白湯を飲み終えたら掃除をしよう。最近は修道院探しに出掛けていたので、全く掃除が出来ていなかった。月子も忙しいのか、リビングを散らかしていた。


 まずリビングの掃除に取り掛かろうとすると、テーブルの上に漫画が置いてある事に気づいた。おそらく月子の漫画だろう。


「『シスターはホッコリスローライフ始めました』って漫画だ。へぇ、世の中の人もこんなに私達に好意を持ってくれているなんて嬉しいわぁ」


 漫画の表紙には修道着姿のシスターと、十字架のロザリオを首にかけた神父がいた。どちらも美麗な絵で描かれ、麻里亜は胸がいっぱいになってしまう。


「嬉しいわ。そんなに私達を綺麗に描いてくれて。もしかして月ちゃんも私の事が好きなんじゃないの? だからこんな漫画読んでくれているのね。本当に嬉しいわ。Thanks、GOD!」


 麻里亜はフランスはもちろん、アメリカに住んでいた事もあったので、こんな風に英語の口癖があった。イエス様の事もジーザスと英語風に呼んでしまう時もある。


「本当嬉しい。ちょっと漫画を読んでみようかな」


 麻里亜は、漫画「シスターはホッコリスローライフはじめました」のページを開いてみた。


 物語は、なぜか日本人女性の描写から始まり、トラックに突っ込まれて死亡。そして目覚めたらヨーロッパ風世界の公爵令嬢になっていた。


「輪廻転生??? これって異世界転生って言うんだ……」


 そんな発想は聖書にはなく、クリスチャンには転生という概念はない。死んだら神様に地獄or天国か決められる。漫画の冒頭から麻里亜の頭は大混乱だった。


 しかもヒロインは悪役の汚名を着せられ修道院に追放されるのだが、前世の知識を活用して修道院で美食三昧生活を送っている。


「えー、修道院でステーキでるの!? 超羨ましい……」


 麻里亜がいた修道院では基本的に肉食は禁止だった。ベジタリアン的な思想ではなく、肉的な欲望を抑える為だった。断食に近い。ごくたまに食べる時もあるが、この漫画のように日常的にステーキやすき焼き、ハンバーガーはない。食事は蒸したイモや黒パン、チーズが多かった。それも一日一食で、滅多に甘いものも食べられない。もっとも菓子工房でクッキーやジャムを作っていたので、試食は仕事としてOKだった。


「は? この神父さんは悪魔なの!?」


 修道院の建物や生活リズムなどはよく取材されていると感じたが、最後の展開で度肝を抜かれた。神父は実はインキュバスという淫魔系悪魔で、ヒロインを溺愛し始めた。未婚のシスターを抱きしめ、キスをしていた。


 こんな性的不品行にヒロインは顔を赤らめて興奮している!? 


 しかも悪魔と一緒に神に復讐するとか言っているんですけど……。ヒロインは神に祈っても願いが叶わなかった(怒)等と言って神様に文句をつけている……。


「な、何この冒涜の書は!」


 この漫画の内容に怖がってしまったが、作者も月子も何も知らなかったのだろう。イエス様も十字架上で無知故の罪は赦していた。


「父なる神様、イエス様。作者は自分が何をしているかわからないのです。無知なのです。私達の神様はご利益宗教ではなく、使徒パウロが言うように弱い時にこそ強めてくれるのです。願いが叶わなくても良い時もあります。どうか神様、この漫画の作者を赦してあげてください。こんな冒涜の書がある事を放っておき、ごめんなさい。悔い改めます。アーメン」


 麻里亜は掃除するのもすっかり忘れて、長々と祈っていた。


 冒涜の書を見てしまったが、月子は自分の事を知ろうとしてくれたのに違いない。月子が帰ってきたら、この冒涜の書について深く話し合おうではないか。


 そんな時、ゴーグルのようなものが目に止まった。


「あら、月ちゃんはスキーでもやるのかしら?」


 何気なく麻里亜もゴーグルを装着してみた。すると、とんでもない事がおきた。

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