公園で子供たちと遊ぶのが大好きな令嬢は、正体を隠す王太子と出会い、やがて二人は王宮舞踏会で一緒に踊る
ミストラス王国の王都にある中央公園は広い面積を誇り、芝生や運動場は整備され、遊具も豊富にある。子供たちの遊び場として絶好のスポットであった。
今日も少年少女の元気のいい声が聞こえてくる。
その中に混じって遊ぶ一人の令嬢がいた。
「みんなー、今日はかくれんぼしましょう!」
彼女の名はアリッサ・ラファル。れっきとした子爵令嬢である。
年齢は16歳、貴族女性としてはまさに「打っておかねばならない熱い鉄」といった年頃なのであるが、彼女は隙を見てはこの公園に遊びに来る。
ふわりとしたやや癖のある長めの茶髪、ほのかに日焼けした健康的な白い肌、母譲りの美貌を持つアリッサ。自身も気に入っている水色のドレスを着て、子供たちとかくれんぼをしていた。
「はーい、見つけたー!」
「お姉ちゃん、見つけるのはやーい!」
「みんなが隠れるところなんてお見通しなのよ」
白い歯を見せて得意げに笑う。
アリッサは子供たちを楽しませることも上手かった。時には本気で遊び、時には手加減をして花を持たせ、場を盛り上げる。
運動神経も抜群だった。
公園内の鉄棒にぶら下がると――
「じゃあ、今から大車輪をやるから見ててね!」
ぐるんぐるんと全身を回転させる。
子供たちが尊敬の眼差しで見つめる。
何回転かすると鉄棒から手を離し、ふわりと着地してみせた。
歓声が上がった。
「みんなも鉄棒で遊びましょう。ただし怪我しないようにね!」
***
運動に関しては天性のものを持つアリッサであるが、こんな生活をしていては貴族令嬢としての勉強は疎かになる。
公園に行ったことを知られ、母ジョゼリンに叱責される。
「アリッサ! また公園に行って遊んでいたのね! みっともないし、はしたないわよ!」
「ごめんなさい、お母様……」
「いい? 今のあなたがやるべきことは貴族令嬢としてしっかり教養と礼儀作法を身につけて、よりよい殿方に見初められることなの。遊んでる場合じゃないのよ!」
「はい……」
「分かったら、夕食まで勉強なさい! いいわね!」
とぼとぼと歩くアリッサに、姉マリエッタが話しかけてくる。
顔立ちはアリッサに似ているが、おっとりとした性格をしている。
「アリッサ、お母様の気持ちも分かっておあげなさい。お母様は――」
「うん、分かってる。地方の下級貴族の生まれでだいぶ屈辱を受けて育ったんでしょ。だから私たちを同じ目にあわせたくないって……」
「そうよ。あなたの器量は私より上なんだから、きっとよい殿方に巡り合えるわ」
「そんなことないって……」
自室に戻ったアリッサは机に向かい、彼女にとってはつまらない教養の本を読みながらため息をつく。
「私はいいところに嫁ぐだとか、全然興味ないんだけどな……。もし結婚するとしたら、一緒に走り回ったりできる旦那様がいいなぁ……」
とはいえアリッサとて母の想いを無下にするほど親不孝ではない。この日は夜遅くまで勉学に励んだ。
***
ある日の昼下がり、アリッサは公園で子供たちとボール蹴りをして遊んでいた。
アリッサはボール操作も巧みであり、子供たちが受け取りやすいようなスピードで、絶妙な位置にパスを送る。
だが、一人の少年が蹴ったボールが明後日の方向に飛んでしまう。
「あっ!」
ボールが飛んでいく先には青年が立っていた。
ぶつかってしまうと思われたが、
「よっ」
青年はボールを頭で受けると、そのまま器用にリフティングを行い、地面へと下ろした。
運動神経抜群なアリッサが驚くような技術だった。
「すみません! 大丈夫でしたか!?」
「ああ、この通り。ちゃんと受け止めたから」
上質な刃物を思わせる銀色の髪を持つ青年だった。その笑みは柔らかく凛々しいが、どこかあどけなさも漂う。白のワイシャツに黒いスラックスを履いており、脚はすらっと長い。
「さっきから見てたけど、君すごい運動神経だね。足は速いし、ボールの扱いも上手いし……」
微笑みかけられ、あまり子供たち以外の異性に慣れていないアリッサは照れてしまう。
「お恥ずかしいところを……」
「恥ずかしいだなんてとんでもない。公園を駆け回ってる君の姿はとても生き生きしてて、輝いて見えたよ」
「ど、どうも……」
ますます恐縮してしまうアリッサ。
「ごめんごめん、別に口説こうとかそういう意図はないんだ。ただ、ちょっと君たちに混ざりたくなってしまった」
「私たちにですか?」
「うん、俺も一緒に遊んでいいかな?」
「それはもちろん! いいよね、みんな?」
子供たちも「いいよ!」と大賛成する。
「それじゃ一緒に遊びましょう。私はアリッサ・ラファルといいます。あなたは?」
「俺は……」青年は少し考える。「レイド。レイドって呼んでくれ。あと敬語なんか使わなくていいよ」
「分かったわ、レイド!」
レイドもまた身体能力は高く、アリッサが舌を巻くほどの運動神経を持っていた。
道化になるのも上手かった。
子供たちとレスリングの真似事をすると、
「うおおっ、強い! こりゃ敵わん!」
子供のタックルに倒され、花を持たせるということもやった。
鉄棒をさせるとアリッサ以上の大車輪を見せ、華麗な着地まで披露した。
「すごいレイド!」
「ハハ、ありがとう」
「でもちょっと悔しいな。私これでも、男の人にも運動では負けない自信があったから」
「男と女ってのはどうしても肉体的な部分だと差があるからね。しょうがないさ」
「ううん、きっと私が男でも、あるいはあなたが女でも、あなたの方が上だったと思う」
アリッサは得意分野で自分より上の男に出会ったことが心地よくもあった。
日没近くまで遊び、帰り際――
「また会える? レイド」
「君が望むなら、俺はまた来るよ」
「ホント! やった!」
そんな彼らを子供たちは「ヒューヒュー」と囃し立て、二人の顔を赤らめさせるのだった。
それからというもの、アリッサとレイドは公園でちょくちょく会うことになった。
「アリッサ、今日も一緒に遊ぼう」
「うん!」
公園内を駆け回り、転げ回り、笑い合い、アリッサは今まで以上に公園で遊ぶのが楽しみになっていた。
いつしかアリッサはレイドに恋をしていた。だが、アリッサはまだそのことに自分自身でも気づいていなかった。
***
ところがある日、ジョゼリンは娘に雷を落とした。
「アリッサ、いい加減になさい!」
いつにない怒声に、目をつぶるアリッサ。
「あなた、相変わらず公園で遊んでいるそうね。しかも、どこの馬の骨とも分からない変な男と一緒にいるそうじゃない!」
「そんな、レイドは変な男なんかじゃ……」
「じゃあ、どこの誰なの! 言ってごらんなさい!」
答えに窮するアリッサ。そういえばアリッサはレイドの素性を何一つ知らなかった。
「きっと貴族の婦女子を狙う軟派な男よ。そうに違いないわ!」
「レイドはそんな人じゃない!」
「お黙り! いい? 今後一切あなたの公園遊びを禁じます!」
「ええっ、そんな!」
「その代わり、あなたにはダンスのレッスンを命じます」
「ダンス……?」
「ええ、一ヶ月後に王宮で開かれる舞踏会。これにあなたとマリエッタには出席してもらいます。上手くいけば上級貴族の子息、いいえ王太子様に見初められるかもしれないわ」
ギラギラした目で夢のようなことをいう母に、アリッサは内心呆れる。
「さっそく明日からダンスのコーチに来てもらうから。怠けたら許しませんよ! もしまた公園で遊ぶなんてことがあったら、子供たちやその男まで徹底的に追及しますからね!」
「……はい」
こうまで言われては、従う他ない。彼らに迷惑はかけられない。
落ち込みとぼとぼと歩くアリッサに、マリエッタが声をかける。
「アリッサ、お母様のやり方はちょっとやりすぎだと思うけど……舞踏会が終わるまでの辛抱だから。今は我慢してレッスンを受けましょう」
「……」
「王太子の……ええと、レイドリウス様は王族の中でも特に乗馬やダンスといった運動方面の才能があるそうよ。もしかしたらあなたと気が合うかもね」
「……」
姉の優しい言葉も、アリッサの耳にはほとんど届かない。
母は監視の目を光らせるだろうし、アリッサは当分公園には行けなくなった。子供たちに会えなくなることが寂しかった。
そして――
「レイド……」
公園に行かなくなることでレイドとの縁が切れてしまうかもしれない。そのことが彼女の胸をぎゅっと締め付けた。
***
翌日の午前中からダンスレッスンは始まった。
「はぁ~い、今日から僕が君のレッスンを担当するからよろしくねぇ」
コーチはねっとりとした口調が特徴的な男だった。
「よろしくお願いします」
さっそくレッスンが始まる。
運動が得意なアリッサはダンスには自信があったのだが――
「ダメダメ! もっとステップは優雅にぃ」
「君のダンスはぁ、力強すぎるぅ」
「エレガントに踊らないと、殿方のハートは射止められないよぉ」
次々にダメ出しを受けてしまう。
どうしても日頃公園で遊んでいた時の癖が抜けず、自由に駆け回るようなダンスを踊りたくなってしまう。
ダンスにはもちろんそういった種類のものもあるが、舞踏会で求められるダンスとは方向性が異なる。
コーチの指示通り動こうとするが、なかなか上手くいかない日々が続いた。
ある日の夜、自室でアリッサは成果の出ないレッスンにため息をついていた。
「私はもっと自由に踊りたいんだけどなぁ……」
すると、窓を叩く音がした。
「!? ……ど、どなた?」
泥棒を警戒し、アリッサは身構える。
「俺だよ」
声の主はレイドだった。アリッサはすぐに窓を開ける。
「や」
レイドは屈託のない笑顔を浮かべている。
この笑顔にアリッサは思わず、涙を浮かべそうになる。
「レイド……!」
「このところ君が全然公園に姿を見せないからさ。子供たちも心配してて……だからどうしてるのか気になって、見に来ちゃったんだ」
「ごめんなさい……!」
「謝らなくていいよ。君が無事ならそれでよかった。だけど、なにか事情があるのかい?」
こう問われ、アリッサは全てを打ち明ける。
母親に公園に行くのを禁止されたこと、王太子も出席する舞踏会に出ること、そのためにダンスの特訓をしているが捗っていないことを。
「舞踏会か。君はあんな格式ばったものに出るより、公園で自由に遊んでいた方がずっと輝けると思うけどな」
「私もそう思うわ。お母様は夢見すぎなのよ。もしかしたら王太子様に選ばれるかもなんて」
「そんなこともないだろうけどね」
「え? どういうこと?」
「いや、なんでもない。とりあえず俺から子供たちには伝えとくよ。心配ないって。それと……」
「それと?」
「レッスンはコーチを怒らせない程度にこなしておきな。無理に自分のダンスを直す必要はない。君らしく踊るのが一番さ。君には君のダンスってものがあるんだから」
レイドにこう言われると、アリッサとしても心強かった。
「ありがとう……」
気配がした。ラファル家の警邏の者が見回りをしているのだ。
「おっと、そろそろ行かないと。じゃ、アリッサ、またね。また一緒に遊ぼう」
「うん、一緒に……!」
レイドは目を見張るべき俊敏さでその場から立ち去った。捕まる心配はないであろう。
アリッサとしてもレイドと会えたことで、心のもやもやが晴れた気分だった。
無理に自分を変える必要はない。コーチのアドバイスは受け入れつつ、自分の大切な部分だけは決して曲げないようにしようと固く心に誓った。
舞踏会を間近に控えたある日、アリッサはコーチからこんな評価をもらえた。
「ん~、まぁこれぐらい踊れるようになれば、舞踏会で恥をかくことはないでしょう!」
「ありがとうございます!」
アリッサは笑顔で応じる。彼女はコーチから教えられたテクニックは受け継ぎつつ、自分なりのダンスをしようと決めていた。
***
舞踏会当日。
母ジョゼリンに連れられ、アリッサは姉マリエッタとともに屋敷を出発する。
むろん、ドレスは出来うる限り最上級のもので着飾っている。
行きの馬車の中でもジョゼリンは口を酸っぱくする。
「いいこと? なんとしてもよい家柄の殿方と出会うのですよ。そして、美しいダンスを披露することができれば、あなたたちが社交界の主役となることも夢じゃないわ」
「はい、お母様」とマリエッタ。
「私は楽しく踊ることができればそれでいいのだけど……」とアリッサ。
「アリッサ、あなたはまだそんなことを言っているの!? 私はあなたにも期待してるんですからね!」
母の言葉を半ば黙殺すると、アリッサは舞踏会では楽しむことに専念しようと心を新たにした。
やがて、馬車は王宮に到着する。
宮殿の門で所定の手続きをすると、衛兵によって舞踏会会場である大ホールまで案内される。
会場の様相は豪華で、見事なものであった。
四方の壁には美しい絵が描かれ、宝石も散りばめられている。高い天井には王の威厳を表すかのような巨大なシャンデリアが備わっている。
初めて訪れたアリッサとマリエッタはその威容に圧倒される。
「私も何度か来たことはあるけど、このホールの美しさにはいつも感激してしまうわ」
ジョゼリンが目を輝かせる。
「ここで踊れるというだけで、一生の思い出になりそうだわ」
マリエッタもうなずく。
アリッサは思わず、
「あのシャンデリアが落ちてきたらみんな潰されてしまいそうで、ちょっと怖いな」
こう口走ってしまい、ジョゼリンに叱られた。
燕尾服を着た司会者が登場し、本格的に舞踏会が始まる。
音楽隊から緩やかな演奏がなされ、貴族令息と貴族令嬢は互いに誘い合い、ウォーミングアップをするかのようにダンスを始める。
マリエッタも早くも一人の貴公子から誘われ、踊り始める。好調な滑り出しといえる。
この様子を見ていたジョゼリンは満足そうにうなずく。
だが――
アリッサはぼんやりと部屋の隅にたたずんでいた。
他の子息も彼女には寄りつかない。普段彼女が公園で遊んでいるという噂は広がっているからだ。少なくともいきなり踊る相手ではないと判断されている。
これを見てジョゼリンは「何やってるの!」と怒鳴りつけたい衝動に駆られるが、必死に抑える。
やはりあの子には期待しない。マリエッタに期待するしかないと小さくため息を吐く。
ちなみにアリッサがなぜ踊らないのかというと、「この曲はなんとなく乗れないから」程度のものであった。
しばらく舞踏会が優雅に進んだ後、動きが起こる。
「皆様、お待たせいたしました! 王太子レイドリウス・ミルゾース様が到着いたしました!」
白い正装を身につけた銀髪の王太子が手を振りながら登場する。
「みんな、すまない。少し遅れてしまってね」
次期国王に相応しい威厳をまとった若き青年に、思わず黄色い声を上げてしまう令嬢もいた。
同性である子息もまた、一目で「敵わない」と認めてしまうほどのオーラを放っている。
アリッサは「自分と縁はないけど一目ぐらい見ておこう」程度の気持ちで王太子に目を向ける。
だが、その姿を視界に入れた瞬間、彼女の体は凍り付いた。
「レ、レイド……!?」
レイドリウスもまた、アリッサの姿を認める。
「お、いたいた」
軽い足取りでアリッサに近づいてくる。
「え……? え……?」戸惑うアリッサ。
レイドリウスは気さくに話しかけてきた。
「遅れちゃったし、もう誰かと踊ってたら仕方ないと思ってたけど、よかった」
「あ、あの……」
「さ、一緒に踊ろう。アリッサ」
手を差し伸べるが、アリッサは頭がパンクしていてそれを受け取れない。
「な、なんで……え? レイドがなぜ……え? レイドリウス様はレイドで……え? え?」
「混乱させてしまってすまない。私レイドリウスは、君の友だったレイドだ」
「……!」アリッサに衝撃が走る。
「私は時折お忍びで城下を散歩することがあってね。その時たまたま子供たちと遊んでいる君を見かけた。元気に駆け回る君の姿は、私の心をとらえて離さなかった」
アリッサはぽかんと口を開いている。
「君を口説く意図はないとは言ったが、本当は君とお近づきになりたかった。ただし、君や子供たちと遊ぶのは楽しかったし、子供たちをダシに使ったつもりも毛頭ない。そのことはどうか信じて欲しい」
アリッサはまだ小刻みに震えている。まるで状況の整理ができていない。
「……とまぁ、堅苦しいのはやめにしようか。アリッサ、俺と遊ぼう!」
“レイド”としての誘いを受け、アリッサの心も急速に軽くなる。
「うん……レイド!」
「アハハ。“レイドでいいよ”なんて台詞を用意してたけど、必要なかったな」
「あっ……!」
「いいよいいよ。このまま公園で遊ぶように踊ろう!」
「うん!」
アリッサはレイドの言葉を信じ、まるで公園で子供たちと駆け回るような力強く奔放なステップで踊り始めた。
一方のレイドはそんなアリッサの踊りの勢いを失わせることなく、完璧にエスコートしてみせた。こんなことはいかなダンスの名手でもできるものではない。
二人の自由で、優雅で、力強く、躍動的で、そしてなにより呼吸ピッタリのダンスは他の者に踊ることを忘れさせてしまうほどのものだった。
皆が二人の一挙手一投足に見とれている。
姉マリエッタも同様だった。
「アリッサ、美しいわ……姉として誇りに思う」
妹に最大の賛辞を送る。
アリッサをたびたび叱責していた母ジョゼリンもまた――
「いい人に巡り合えたのね……アリッサ」
決して王太子を射止めたからという意味ではない。純粋に娘がよき相手に恵まれたことが嬉しかった。娘を社交界で成り上がるための駒としか見ていないような彼女であったが、やはり人の親でもあった。
アリッサとレイドがダンスを終えた時、周囲からは拍手喝采が送られた。
貴族たちの称賛という贅沢な背景音楽の中、二人は見つめ合った。
もはや言葉は必要なかった。
二人は目と目で、「ずっと一緒にいよう」「はい」というやり取りを終えていた。
舞踏会は二人への祝福ムードのまま、大盛況で幕を閉じたことはいうまでもない。
***
その後アリッサとレイドは正式に婚約した。
しかし、関係にさほどの変化は訪れなかった。アリッサにとって王太子レイドリウスはやはりレイドのままである。
まもなく夫婦になろうというのに、二人は公園で遊んでいた。
「今日は鬼ごっこをやるぞ!」
レイドがこう提案する。
「じゃあまずは私が鬼をやるわね」
アリッサのこの言葉に子供たちはたじろぐ。
「お姉ちゃん足速いからなぁ」
「あっという間に捕まりそう」
「こわ~い」
「アリッサは結婚したとたん、鬼みたいな妃になったりしてな」
レイドがこう軽口を叩くと、アリッサは頬を膨らませる。
「レイドったら! よーし、だったらお望み通りあなたを狙ってあげる!」
鬼ごっこが始まる。
逃げるレイド。追いかけるアリッサ。二人とも恐るべき足の速さとスタミナで公園内を駆け抜ける。
「待ちなさーい!」
「ここまでおいでー!」
子供たちは「二人ともはやーい」と見つめるしかなかった。
程なくして盛大な婚礼が行われるが、その後も二人はよく公園で遊んでいる姿を目撃される。
気品を保ちつつ遊び心を忘れなかったレイドとアリッサ。
晴れて夫婦となり、ミストラス王国をさらなる発展に導くこととなるのである。
おわり
お読み下さりましてありがとうございました。