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7.研究所と責任者

復活しました。

本日は二話お届けします。

(二話目は夕方更新予定です)

嬉しくも驚きの申し出を受けた翌日、リーラは朝早くから馬車に揺られていた。

薬学研究所へ向かうためである。しかもベラトニアではなく、ロワトニアの、だ。


「緊張している?」

リーラの様子を見て、ヴィアが聞いてくれる。昨日よりかなり砕けた印象だ。

「は……えぇ、すこし」

朝から堅苦しい挨拶を返したら『昨日お願いしたはずなんだけどな』と言われてしまった。

思わず謝罪したが、冗談だったようで彼はクスクス笑いながら少しずつで良いと許してくれた。


「大丈夫。研究所に行くと言っても、今日は僕が軽く案内して説明する程度だし、現地にはファビオもいるから」

ファビオというのは昨日一緒にいた男性だ。ヴィアの同僚と聞いている。

明るくて、なんだか楽しそうな人だったな、と昨日の雰囲気を思い出し、リーラの気持ちはふっと軽くなった。


「けっこう遠いんですか?」

馬車の外の風景が変わる様を眺めながら聞く。

ベラトニアとそこまで違うわけではないはずだが、そもそも屋敷の外に出る機会が少なかったリーラは、目に映るものすべてが新鮮だ。

「いや、そうでもないよ。ほら」

彼が指さす方向を見ると、城下町が見えてくる。その中央にあるのが、王城だ。

深い紫がところどころ使われた城は、歴史を感じさせる威厳のある佇まいだった。

「あれが、首都のローワンだ」

「ローワン……」

これから向かう街の名前を繰り返し、リーラの胸は緊張と期待でドキドキと弾んでいた。




「さあ、どうぞ。ここが王立研究所の入り口だ」

王城の敷地内へ入り、そのままぐるっと周りこむと突然温室が現れる。

温室の横に奥の建物へ入る扉があるので、どうやら増築して温室と共に研究所にしたようだ。

他にも畑はあるそうだが、温室の前には小さな薬草の畑も見られた。

「王城といえど、ここまで来る人は少ないからそんなに緊張しなくて大丈夫。研究所は敷地の一番端なんだ」

「そうなんですか?」

「畑も温室も必要だったしね。それに、ほら……実験してると、色々あるから」

気まずそうに苦笑する。

確かに薬の製作過程で強い匂いを出すものもある。王城は王族をはじめ、様々な貴族が出入りするだろうからその配慮なのだろう。

自アが少し前を歩き、リーラが後ろを歩いていくと、扉の先は長い廊下だった。

王城と聞いていたから、さぞ高そうな絵画や調度品があるかと思ったが思いのほか殺風け……いや、慎ましかった。

「まずは、別室で説明をしなくてはね。案内はその後だ」


少し進んだ先の部屋の前に、ファビオが立っていた。

「リーラさん、おっはよーございます!」

「おはようございます、ファビオさん」

にこにことドアを開けてくれる彼に頭を下げて入室すると、やはりその部屋も慎ましい必要最低限の調度品だけが置かれていた。

「さあかけて。さて、どこから話そうかな」


ファビオが三人分のお茶を持ってきてくれる。彼が着席したのを見て、ヴィアは話し始めた。

「まず、この国の歴史と研究所設立の経緯から話そうか」

しっかり聞かなければとリーラが真剣な顔でうなずくと、彼は机の上にゆったりと手を組みながら聞いた。

「リーラは、黒星病(こくせいびょう)というのは知っているかな?」

「はい。本で読んだことがあります」


黒星病(こくせいびょう)―――。

一種の流行り病のひとつである。

病気が進行すると、皮膚に黒い星型の痣ができることからその名がついた。

感染力がとても強く、致死率も高い。おまけに進行が早く、かかるとまず助からないとまで言われる。

感染した初期段階であれば、通常の薬での治療も可能だ。

しかし、はじめは風邪のような症状のため見逃され、体に星の痣を見つけたときにはもう遅い。周りが感染者で溢れ、治療が追い付かず死に至る。恐ろしい病だった。


「何代か前の王の統治時代に、この黒星病が蔓延した。かなりの数の人が亡くなったんだ。貴族、平民問わずね」

悲しそうな顔で言う。この話も聞いたことがあった。

ロワトニアで流行したこの病は、あわやベラトニアにも火種が及ぶか、というところで鎮静化したらしい。彼女が読んだ本では、国境沿いの村を捨て一切を焼いたと書いてあった。


「もともとこの国には、北の流浪民が広めたとされる治療法が民間療法として根付いていてね。あまり『薬学』というものが浸透していなかったんだ」

「北の流浪民……ですか?」

「あれ?聞いたことないかな。北の魔女のお話」


それならリーラも知っている。子どもの頃、誰しも聞く御伽噺だ。

母親思いの優しい少年が、病に倒れた母のために万病を癒すという北の魔女を探しに旅に出る。

道中、さまざまな苦難を乗り越えながら北の山にたどり着き、魔女に母を助けてもらうというお話だ。


「それなら知っています。小さい頃母が話してくれました」

「あの基になったっと言われているのが北の流浪民だよ。もともとは、北の国にとても薬や病の治療に詳しい民がいたんだ。彼らは定住する地を持たず、様々な土地を周ったと言われている。その知識や凄まじく、魔法が使えたと書かれることもあるくらいだ」

「すごいですね……」

たしかに万病を癒す魔女のようだ。リーラがすっかり感心していると、ヴィアはクスりと笑った。

「まぁ、御伽噺とさほど変わらない伝説だし、彼らがいたのは遥か昔のことだ。まぁ、とにかくその彼らが残した治療法や薬の知識が、民間療法として根付いていた。そして、その民間療法ではとてもじゃないけど黒星病は治療できなかったんだ」

それはそうだろうと。

その『民間療法』というのがどのようなことをするか分からないが、黒星病は宮廷薬師が作るようなポーションでも治療が難しいと言われるくらいだ。


「そして大きな痛手を失った結果、ようやく『薬学』の大切さに気付く。そもそもポーションが存在しなかったから、隣国から輸入を始めたんだ。そして、その輸入した薬を解析してなんとか自国でも製作しようと思ったわけだけど、どう簡単にはいかない。実験に実験をかさね、ようやくそれらしいものが作れるようになった。今から数えて二代前の王が、薬学の発展のためにこの研究所をお作りになったんだよ」

最後は誇らしげに笑顔を見せると、彼は一口お茶を飲む。

ベラトニアとロワトニアは兄弟国でありながら、それぞれの発展分野が違うと聞いていたけれどその開きはリーラの想像以上だった。


「では、この研究所も王立なのですね」

「そうだね。今は第二王子の直轄となっているから、一応まぁ王立ということになるのかな?」

「第二王子……ですか?」

「そうなんすよ~。この国の第二王子って変わり者で、兄である王太子が王位を継ぐのを良いことに自分は研究所の運用にどっぷり。なんでもこの国の薬学を隣国以上に発展させたいとかで」

思わずリーラがが聞き返すと、ファビオが割って入る。

王族に対して、そんなことを言っても良いのだろうか。

誰が聞いているか分からない上に、その直轄の施設内だし……。この国にも不敬罪はあるはず……。

「いえ。とてもご立派だと思います。私なんかが言うのは恐れ多いですが、薬学の発展はそれだけ多くの人を救うことにもつながると思います」

そうなのだ。薬学が発展すれば、病や怪我に苦しむ人を救えるようになる。

いまつらい思いをしている人を、一人でも少なくすることができるのだ。とても素敵な志だと思う。

「あ!ということは、殿下がいらっしゃることもあるんでしょうか?私がいても問題ないですか?その……隣国から……」

『買われた』という表現は憚られた。言葉を濁していると、二人が笑いながら言う。

「大丈夫っすよ~」

「そう。気にしないで。王子本人の希望だから」

「え?」

どういうことだろうか?

ヴィアに指示したのは王子本人ということだろうか。確かに、新たに人を雇うのは王子の承認がいるのかもしれない。

「それにもう会ってる」

「会ってる???」

ヴィアの言葉でより混乱するリーラに、彼は続けた。



「あぁ、そういえばきちんと名乗っていなかったね。僕の名前はクラヴィア・プロティウス・ロワトニア。この国の第二王子です」

「えええええええええ!!!!!???」

にっこりと笑う彼を前に、リーラは人生で一番の大声あらため奇声を上げた。

面白いと思っていただけた方、評価ぽちっとしていただけると嬉しいです。

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