ポーカーフェイスは得意だった
「リリアナ、理解してくれてありがとう」
「なに。国王が子孫を残すため他の女を抱くのは当然さ。それに、秘匿されているとはいえ私の身体では…」
「リリアナ…それでも僕は、君を愛している。だからこそ、君の影武者に子を産ませ…君の実子として育て上げるつもりだ。だが、君に辛い思いをさせてすまない…」
「ああ…私こそだ、シャーロック。私の身体が弱いばかりに、子も産んでやれない。愛しているのは私だけだと常に囁く君に、他の女を抱かせてしまう私が悪いんだ」
リリアナはそう言って僕の頭を撫でる。幼い頃から変わらぬ癖。リリアナは、僕が落ち込むといつもこうして寄り添ってくれる。
「リリアナ。王妃としての仕事は影武者に任せて、君はただ僕の側にいてくれ」
「そうするよ。私の身体では公務もまともにこなせない。それに…」
リリアナは僕の頬を撫でる。
「常に完璧を求められる君が甘えられるのは、私だけだろう?」
何故だろう。一番泣きたいのはリリアナのはずなのに、リリアナは微笑む。一番得をするのは僕のはずなのに、僕は泣く。ああ、そうか。リリアナが泣かない代わりに、僕が泣くんだ…。
「元気な双子の赤ちゃんです!一人は王子、一人は姫です!お二人とも王妃殿下によく似ていらっしゃいます!」
「よくやった!じゃあ、リリアナのところに連れて行くね」
「待ってください!名付けを!一瞬でも抱かせてください!」
「君は影武者だ。リリアナの代わりにこの子達を産んでもらったが、それだけだ。名付けはリリアナにさせる。一瞬たりとも君にこの子たちは抱かせない」
赤子を取り上げて、リリアナの元へ連れて行く。リリアナは、いつものポーカーフェイスでも、僕に向ける柔らかな微笑みでもなく、泣きそうな顔をしていた。
「リリアナ、どうしたの?」
「シャーロック。やはり、子を奪うなど…あまりにも可哀想だ。あの影武者を側妃として娶り、側妃の子として育てさせてやろう」
「それはできない。僕が愛せるのはリリアナだけだ。この子たちを愛せるのは、リリアナとの子だと思うからだ。僕にはリリアナだけなんだ」
「シャーロック…」
「リリアナ、お願い。僕の唯一の妃でいて」
リリアナはポーカーフェイスは得意だった。それでもこの日は傷ついた顔をした。それでも結局折れて双子の母になってくれた。今は幸せな家庭を築いている。でも、時折また泣きそうな顔をする。
…ごめん、リリアナ。でも、君じゃなきゃ僕はダメなんだ。