第87話 愛をほざく
健吾は、紅美の家に辿り着く。そして、家のチャイムを押した。
紅美「どなたですか?」
健吾「俺だ、健吾だ」
紅美「健吾?どうしてここに?」
健吾「もう一度、話をしようよ。お互いの為に」
紅美はインターホンごしに少し咳をする。
紅美「開いてるから、入って」
健吾は、紅美の家の中に入る。
紅美「私の部屋に行きましょう」
健吾「あぁ、わかった」
健吾は紅美の部屋に行く。
紅美「もう一度、話し合っても結果は変わらないわよ」
健吾「なんで別れるか、聞いてもいいか?」
紅美「健吾の事が...嫌いになったからよ」
健吾「具体的にだ」
紅美「具体的に?」
健吾「あぁ」
紅美「全部嫌いよ。全部」
健吾「全く抽象度が変化してないじゃないか。具体例を聞いてるのに」
紅美「全部嫌いなの!」
健吾「それなら、俺を家に入れないはずだ。もう一度、やり直さないか?」
紅美「嫌よ!嫌よ嫌よ嫌よ!もう、嫌なの!別れましょうよ!健吾!私達、もう終わりなの!」
健吾「何が足りなかった?答えてくれ。なんでも変えてやる。なんでもしてやる」
紅美「そんなこと言ったって無駄。もう無理よ。変えられないの。どう足掻いても無駄!」
健吾「俺が悪かったところを説明してくれよ!何が、何が駄目だったんだよ!少なくとも、そこを教えてもらうまでは帰らない!」
紅美「もう、やめてよ!どうしたって、足りないのよ...」
健吾「俺には、足りなかったのか?やっぱり、愛が足りなかったのか?」
紅美も、健吾も陰鬱な顔をしている。
健吾「俺...お前への愛の表現が間違ってたかもしれないな...情愛を語り、偏愛をほざき、狂愛を嘆く。親愛を話し、性愛を叫び、慈愛を謳う。敬愛を喋り、仁愛を述べて、愛情を論じる。それなら、いいか?それなら...もう一度付き合ってくれるか?」
紅美「無理よ!無理なの!どうしたって無駄なの!やめて、もう帰ってよ!全部...全部嫌いなのよ!そうやって、愛が重いところだって嫌いなのよ!」
健吾「───ッ!」
健吾が言葉にならない悲鳴をあげる。
健吾「そっか...ごめんな...俺、愛が重くて...」
紅美「私達、終わりよ。もう終わり。もう、帰って!」
健吾「でも、別れたくないんだ!」
紅美「無理よ!別れるの!そうやって、しつこいところも嫌いよ!」
健吾も紅美も泣きそうな目をしている。そのまま口論を続ける。
その後、健吾は紅美に強制的に家を追い出された。
***
紅美「ごめんなさいね...健吾。私には...こうするしかなかったの...」
健吾が出ていった後、紅美は悲しげにそう呟いた。




