第35話 減らしたいその刹那
俺は紬に手を差し伸べる。その刹那、紬は太った男によって車道に押し出される。
純介「紬!」
紬「きゃっ!」
紬は短く叫ぶ。俺の手は紬の服の裾に触れ───
”ファーン”
***
グルグルグルグル。視界が回る。頭がキンキンと痛くなる。そして、少しの喪失感があり。
***
斉藤紬───私は、昔から可愛いものが好きだった。小学5年生からはネイルもしていた。
私は小学校の時に、授業でハローワークをやった際に「ヘアコーディネーター」という職業を知った。「ヘアコーディネーター」という職業を知った瞬間に、私の心の何かが揺れ動いた。これも、運命なのだろう。何かと何かを繋ぐ運命。
そして、中学生となった私は少しずつ自分の武器が何かに気付き始めてきた。
そう、それは生まれ持った美貌と、人を笑わせる力───『朗らかさ』だった。
それを利用して、私は中学1年生の頃から動画配信を始めた。
動画の伸びは良いとも悪いとも言えずに、ただただ真ん中辺りだった。最上位とも底辺とも呼べない、一番微妙な場所。悪く言えば、凡人の集まり。
私のファンには大人が多かった。私よりも10歳も20歳も年上の男の人が多かった。会社の企画で握手会を行ったのだが、来場者はほとんど男だった。ネバネバとした太く大きな手を何度も何度も握り続けるのは少し苦痛だった。
でも、私の親も会社も何も言わなかった。会社はきっと、どんなところからでもお金を取れればそれで満足なんだろう。私は中学生にして、社員は全て「道具」ということに気付かされた。社会はそこまで甘くはない。
それに、私は親に何も言われなかった。親は、私に関心が無かったのだろう。
きっと、死んでも───
***
紬がポジティブになったのは、親に関心されなかったからだ。自分のことをもっと見てほしい。自分のことをもっと知ってほしい。そんな欲があったからだろうか、紬がポジティブマシンになってしまった理由は───
***
純介「初めてだ...初めて、服の裾を掴めた!」
俺はほんの少しの進歩を喜ぶ。俺は急いで時計を見る。時刻は8時31分21秒。
5秒ほど引けば確実に紬を助けられる。9時31分16秒までに、紬を助ければ良い。
純介「後はこの刹那を減らせば...」
ー9時31分16秒、T字路ー
”ファーン”
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グルグルグルグル。視界が回る。頭がキンキンと痛くなる。そして、少しの喪失感があり。
ー9時31分16秒、T字路ー
”ファーン”
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グルグルグルグル。視界が回る。頭がキンキンと痛くなる。そして、少しの喪失感があり。
ー9時31分16秒、T字路ー
”ファーン”
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グルグルグルグル。視界が回る。頭がキンキンと痛くなる。そして、少しの喪失感があり。




