第114話 健吾のことを
美緒「私もその時は怒ってたし。きっと、純介が止めに来ても智恵を叩いちゃったみたいにしてたかもしれない...智恵には悪いと思ってるよ」
純介「なら、智恵に謝らないか?」
美緒「うん...そうしようと思ってるよ」
純介「じゃあ、明日のレッスンにでも来て、謝ればどうだ?」
美緒「まぁ...そうね。お姉ちゃんに会うのは納得しないけど、しっかり謝るのは大事だと思うし...」
純介「それと...お節介かもしれないんだけど...一度、美玲さんと会ってみたら?美玲さん、美緒に謝りたいって言ってたよ。きっと、謝るタイミングが掴めてないんだと思う」
美緒「そう...なの?」
純介「あぁ...きっと、そうだよ。練習場所でも少しナヨナヨしてたし...」
美緒「そう、なんだ。後で電話してみるね。気が向かないけど...」
純介「そうしてくれるとありがたい。きっと、仲直りしたらレッスンにも来やすいだろ?」
美緒「まぁ...そうだね。お姉ちゃんに会いたくないってのもレッスンに来たくない理由の一つだけどね...」
純介「他にも理由があるのか?」
美緒「えぇ...あるわよ」
純介「なんだ?教えてくれ」
美緒「嫌よ。教えないわ」
純介「教えてくれ」
美緒「嫌よ」
純介「じゃあ...何の解決にもならないじゃんかよ...」
美緒「自分で気付かなかったら、意味がないじゃないの!」
純介「自分達で気付ける内容なのかよ?」
美緒「えぇ...当たり前よ!この電話をして、気付いてないのならレッスンに行きたくなくなったわ!みんな、みんな自己中なのよ!私が、なんで行かないか知ってるの?お姉ちゃんと喧嘩したから?違うわよ!みんな、健吾の心配をしないからよ!私とお姉ちゃんが喧嘩してる時、誰か健吾の支えになることを言った?言ってないでしょう?そういうところよ!
それに、この電話でも、健吾のことを一度も心配しなかった!」
言われて見れば、そうだ。俺らは健吾のことを支えなかった。助けなかった。絶望の縁から引きずりあげてその後、手を離した。握っていたつもりだったのだ。
美緒「だから、レッスンに行きたくないの!わかった?」
そう言うと、電話が切られる。
***
グルグルグルグル。視界が回る。頭がキンキンと痛くなる。そして、少しの喪失感があり。
純介「見つけた...解答を」
ー7時30分、自宅ー
梨央「もしもし?純介?」
純介「もしもし。美緒に変わって?」
梨央「え、あ、うん。わかった。でも、怒らせるようなこと言わないでね?」
純介「あぁ...わかってる」
ガサゴソと、スマホの奥から音がする。そして───
美緒「もしもし?純介?何?」
純介「健吾が、お前がレッスンに来なくて悲しんでる」
美緒「...え?」
少しの沈黙の後、美緒の驚きの声が聞こえた。これが、最適解だ。




