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第1話 いつもの朝に

発連載です!!

短期の連載予定です。

 その日も、いつものように始まった。初夏の日差しが照りつけ、早朝だというのに熱気がこもる部屋で僕は目を覚ました。

 今日も、いつものように流れ、過ぎてゆくのだろう。そう思っていた。だが、今日を皮切りにモノクロだった世界に色がつき始めることを、僕はまだ知らない。

 きっかけは、日課のランニング。毎朝健康管理のために雨や強風の時以外近所を走って回る。その休憩に立ち寄った公園でのことだ。


 その女性は、ベンチで横になっていた。長い髪がベンチからはみ出て、毛先が地面へと触れている。年は、僕の1つ2つ下だろうか。とすると、17、18かそこらだろう。一見したら寝ているだけだろうが、見えてしまった。血だ。額から流れている。迷ったが、このまま寝かすのは良くないかと思い、その女性を起こすことにした。


「もしもし、聞こえます? 大丈夫ですかー?」


 何回か声を掛け、揺さぶっていたら目を覚ました。


「あれ、ここは? 私、何してたんだっけ?」

「目、覚めました? 血が出ているので、洗った方が良いですよ」

「え? あっ本当だ。どうもありがとうございます。えっと、あなたは?」

「ただの通りすがりです、それでは、お気を付けて」


 踵を返し、このまま立ち去ろうとしたが彼女がそれを赦してはくれなかった。正確には、彼女が立ち上がろうとしてまた倒れたからだ。ズシャっと音がして振り返ってみれば、頭から落ちたのだろうか、また額から血が流れている。

 

さすがにこのまま放置は出来ないので、最低限の手当をすることにした。近くのコンビニまで走り、ガーゼと消毒液、大きめの絆創膏を買って公園に戻る。

 ガーゼを湿らして額についた砂利を落とす。髪の毛にもついていたので落としたが、固まっていた血は落とせなかった。柔らかい花のような香りの中に、鉄の匂いが混じっている。仕方が無いのでそれは自分で落として貰おう。そう考えていると、女性が口を開いた。


「手当してくださって、ありがとうございます。なんてお礼をすれば良いか」

「気にしなくて良いですよ。ただ応急処置なので、心配だったら病院行ってくださいよ」

「……はい、ご迷惑をお掛けしました」


 一通り砂利がとれた。次は消毒だ。ガーゼに消毒液を垂らし、額に当てる。


「うっ」


 どうやら沁みるようだ。絆創膏を貼り、処置を終える。


「はい、これで終わりです」

「本当にありがとうございました。それで、1つ教えて頂きたいのですが。ここはどこなのでしょうか?」

「ここ? ここは草間公園という公園ですよ」


 おかしな事を聞くな。公園の入口に書いてあったはずだが。昨晩に来て暗くて見えなかったとかか?


「いえ、そうではなくてですね、この町は何という場所ですか?」

「猿投町です。この近くから来たわけじゃないんですか?」


 たいして興味も無いくせに、どうして質問してしまったのか。この質問によって僕の日常が終わるとも知らずに。


「それが、分からないんです。どこから来たのか、なんでここにいるのかも。……自分が誰なのかも」


 どうやらこの女性は、記憶喪失というやつらしい。面倒な事に関わってしまったと、そう思う。どうすべきか。まずは病院に連れて行く。身元も不明だ。警察にも行かなければならないか。


「じゃあ、まずは病院と、身分証明が出来なければ、警察にも行きましょう」

「ひっ!? けっ警察は、ダメです。……出来れば病院も……」

「いや、でもどのみちけがもしてるし……」

「それでも、行けないです」


 震えながら、僕の腕をつかんで離さない。どうすればいいんだ、これ。このまま放置しても良いだろうか。いや、さすがにそれはダメか。この女性の対応を考えていると、女性の方から申し出があった。


「あの、あなたの所においては頂けませんか? 勿論、ご家族の許可も必要でしょうが……」

「いや、家ってそれは……」

「お願いします、何でもしますので。料理も、洗濯も、身の回りも、夜の……お世話だって……します……ので……」


 今初めて会ったこの人を家に置く、か。面倒な事この上なさそうだが、断ってもどうしようもなさそうだ。面倒ごとになったらその時に何とかするとしよう。


「はぁ、分かりました。家へ来ても良いですよ」

「ほ、本当ですか!? でも、ご家族には……」

「ああ、一人暮らしなのでそれは問題ありません。あと体目的じゃないのでそういうのもいらないです」

「そう、ですか……」


 ひとまず彼女を家へ案内する。そこでふと、まだ名前を聞いていないことに気が付いた。記憶喪失だから期待は出来ないが。


「えっと、多分ですけど、涼風(すずか)だと思います」

「覚えているんですか?」


 意外だ。記憶喪失でも全てを忘れているわけではないのか。


「分からないです。けどなんだか涼風って名前がしっくりくるような」

「なるほど、それじゃあこれから涼風さんと呼びますね。……一応言っておくと僕の名前は|陽人<はると>。柳原陽人っていいます。」

「はい、よろしくお願いします、陽人さん」


 向けられた笑顔はまるで太陽のようだと、感じた。さっきまでオドオドしていた少女からここまでの笑顔が飛び出してくるとは。


 家へ帰り、朝食を用意する。といっても昨晩冷凍しておいた白米と残り物のおかずをレンジで温めるだけだ。夜にある程度用意しておけば朝が楽になる。一人暮らしをしてから気が付いたことだ。

 いつも通りの朝食。とりわけ特別な品ではないというのに彼女、涼風は美味しい美味しいと歓喜の声を上げながら箸を進めていた。


「そんなに美味しいか? どれも普通だと思うけど」


 ここへ来る途中、敬語は要らない、と涼風から言われた。僕に対しても要らないと言ったがそれは断られてしまった。


「そんなことありません。陽人さんはこの美味しさをもっと良く理解すべきです」

「ふーん」

「あ、どうでもいいと思いましたね。ほんとに美味しいんですよ、もう」


 先程から人が変わったように明るくなっている。行く当てが見つかって安心し、本来の性格が出てきたのだろうか。それとも記憶喪失によって性格は変わったのか、よく分からないがどうやらこの明るい少女と過ごしていく事になったみたいだ。


「それじゃあそろそろ僕は学校へ行くから、留守番しててもらえるかな。冷蔵庫の中にあるものは食べて良いから」

「はい、分かりました。陽人さんは大学生なんですか?」

「そうだよ、大学2年。じゃあ行ってきます」

「いってらっしゃい」


 大学に入学してから初めて誰かに見送られながら家を出た。帰ったらやっぱりいなくて、気のせいだったなんてことは無いだろうか。今朝の出来事を未だ良く考えないまま登校した。


最後まで読んで頂きありがとうございます。

是非とも評価の程お願いいたします。

好評批評誤字脱字の指摘などございましたらコメントして頂けると幸いです。

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