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いつも家にいるおじさん (と、彼を大好きな姪っ子の話)

作者: オール

病後リハビリの2作目ー




  ◇◇◇



 私の叔父さんは、いつも家にいる。


 おじさんは、お父さんの弟で、やせてて、メガネかけてて、考え事をするとき、かた目をつむる癖がある。


 そして、すごく優しい。



 私が小学校から帰ってくると、一緒にゲームしてくれて、おやつにはパンナコッタ作ってくれる。そして、たまに一緒にお昼寝してくれる。私が叱られてるといつも味方してくれる。




 でも、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんたちはみんな、おじさんのことが嫌いみたいで、それが心配。


 おじさんは、いつも、お二階の自分の部屋にいる。

 そこに、大人は誰も入らない。


 でも、私は小学校から帰ると手を洗ってうがいして、一番に、叔父さんの部屋の前に行って、叫ぶ。



「叔父さん、あーそーぼー!」



 そうするとドアが、ガチャガチャっと音を立てて開き、スッとおじさんが顔を出す、



「こらこら、また、遊びに来たのかい?」




 困ったようにそう言って、でも。いつも。

 メイちゃんいらっしゃいって、頭を撫でながら、部屋に入れてくれる。


「わーい!」 



 私は喜んで部屋に入る。


 おじさんの部屋は宝物庫だ。


 天井はプラネタリウムになっていて!



 中はゲームと、おもちゃと漫画と宇宙の難しい本だらけ。それらはみんな、期限付きで貸し出しもしてくれる。しかも毎週新しいものが増える!


 おじさんは、ほらここ、家が古くて床が抜けているんだ、と秘密の隠し場所から、いつも、新しいゲームを取り出す。




 「血の跡がある……近いぞ」


 「止まれ、罠の匂いだ」


 「先を急ごう、嫌な予感がする」


 「合図をしたら走れ!」



 おじさんとするゲームは、いつも、楽しいことばっかりで、笑いすぎておなかが痛い。



 その上、叔父さんの部屋には、お菓子や果物も、それをたくさん入れてる冷蔵庫もあって、おやつの時間になったら分けてもらえる。


 今日も、ゲームで、たっぷり遊んだあと、漫画を3冊も借りて読み、わたしは大満足。



 だから、おじさんだーいすき!




  ◇◇◇




 でも、おじさんの部屋から出ると決まって、おばあちゃんたちが怖い顔して、待ってる。


 そして、いつも聞かれる。


「メイちゃん、何か変なことされてない?」



 おじさんいつも優しいのに!


 おばあちゃんやおじいちゃんは、叔父さんのこといつも、帝大中退で情けないってバカにするから、おじさんも苦手みたいで、話をしない。


 私の妹もそれを真似て、おじさんをバカにするから、嫌い。




「いい年して働きも結婚もせずに、小学生の女の子と鍵付きの部屋に2人きりなんて危ないんじゃないか?」


「いつかテレビに晒されるような、事件を起こすんじゃ……」


 お父さんとお母さんも、よくわからないけど、おじさんの悪口ばっかり言ってる。



 だから私は、おじさんのことをかばう。

 でもそのたびに、おじさんの部屋に行くのはもうやめなさいって、叱られる。


 おじさんいい人なのに、みんなひどい!


 もう嫌!


 たまらず、またおじさんの部屋に逃げ込んで、悔しくて、そのことを言ったら、おじさんは片目をつぶり悲しそうに、笑った。

 


「なんで、おじさんは、他の大人とみんな仲良くできないの?」


「なんでだろうなー、」



「おばあちゃんたち、おじさん結婚せずに、このまま一人で死んで迷惑かけるって、言ってたよ」


「そうだろうなあ、」


「じゃあ約束! 私が大きくなったらおじさんと結婚してあげる!」


 そうすれば、お父さんもお母さんも、おばあちゃんもおじいちゃんもみんな安心でしょ?




「メイちゃん? 三頭身の親族は婚姻できないんだよ、」



 おじさんは優しいけど、難しい本読んでるからか、たまに難しいこと言って、よくわからないこともある。



 でも私はそんな叔父さんが大好きなのだ。







  ◇◇◇



 そんなある日の出来事だった。



「みんなが考えた将来のことを自由に書いてくださいね、」



 先生はそういいながら、作文の宿題を出した。


 お題は、私が将来なりたいもの、というものだった。


 小学4年生にもなると、ネットを使っていろんなことが見えてくる。


 自分の才能では決して届かない世界の人たち。

 パティシエや、お花屋さんのブラックな労働条件。

 「やりたい」ものではなく、自分が「できる」こと。



 ほかの子がうんうん悩んで、友達とどうするか放課後に集まる約束をしているなか、私は、ぱっとすぐに思いついて、そのままソレを書いた。




 ――

 

 私は、大きくなったら叔父さんみたいになりたいです!



 叔父さんは、毎日家にいて、お菓子を食べながらゲームして、漫画見て、たまに難しいお本を読む人です。


 叔父さんは、毎日が楽しく、悩み事がありません。


 なぜなら、会社に行って怒られながら長時間働いたり、あくせく死ぬまで借金返しながら立派なおうちに住んだり、子供作って、お互いの優劣決めるために利用したり、しなくていいからです!



 でも、叔父さんに聞くと、そうなるのはとても難しくて、2つのすごい才能がいるみたいです。


 それは、「暇つぶしに飽きない才能」と、「世間の目を気にしない才能」、というものみたいです。



 でも、学校の勉強に飽きたり、お父さんお母さん先生のいうことを素直に聞いてしまうくせがある私は、おじさんみたいになれるかどうか今から不安です。



 だから、今、一生懸命、叔父さんと一緒に、暇つぶしに飽きないトレーニングと、世間の目を気にしないトレーニングを頑張ってます。



 最近は少しづつ、それが「できる」ようになってきました。



 いつか夢がかなって、叔父さんみたいになりたいです!



 ――



 われながら、なかなかの名文だと思ったけど、そしたら、それを読んだ先生や、お父さんたちに怖い顔をして叱られてしまった。


「これは反面教師にしなければいけない内容の人です!」


「……もっとこう、なにかあるでしょ! メイちゃんは成績抜群なんだから!」


旺志オージのヤツは昔から、小難しいこと言って、何考えてるかわからなかった、成績も良くてスカしてた、メイにはああなってほしくないんだぞ!」


「最近の授業態度に、心あらずの傾向がみられましたが、まさかこんなことになっているなんて!」


 みんな激おこで叫んでる。



「お姉ちゃんは変! いつも変なおじさんと一緒に遊んでる!」


 

 3つ年下の妹まで、私の悪口言う。


 上からも下からも突き上げられていくところがない!


 もう嫌!



「まだまだ、世間の目を気にしないのはできないなぁ……」


 たまらず、また叔父さんの部屋に逃げ込んで、悔しくて、そのことを言ったら、おじさんは片目をつぶり悲しそうに笑った。



「いいかい? メイちゃん。 叔父さんはメイちゃんじゃない。 メイちゃんは憧れた誰かをまねるんじゃなくて、自分自身になるんだ、」



 そうでないと、貴重な才能や、人生の時間をムダにしてしまい、悲しいことになる。


「叔父さんも、私が叔父さんみたいになるのは、反対なの?」



 不安になって聞き返すと、叔父さんは



「どうだろうな、」


 と、片目をつむった。



「メイちゃんが幸せになれるのなら、どっちでもいいよ」


 叔父さんはひどく寂しそうに笑って、いつものように私の頭を撫でた。


 私のやっていることは間違っているのだろうか?

 叔父さんと仲良くすることは、いけないことなのだろうか?


 まわりと合わせること、おばあちゃんや先生たちのいうことを聞いたほうが正しいことなのだろうか?

 正解がわからない。

 答えが出ない。


 でも誰も答えを教えてくれない。


 学校のテストなら簡単なのに、作文を書くのも簡単だったのに、でもみんなに言われて私は自分の考えに自信が持てなくなってしまった。


 そして、私は、学校行くのが嫌になってしまったのである。





「なんで、叔父さんは、答えをくれなかったんだろう?」



 考えれば考えるほど、苦しくなって、私はその週、学校に行けず、そしておじさんの部屋にも遊びに行けなかった。



 そしたら日曜に、おじさんは、いつもは部屋から出てこないのに、なぜか珍しく出てきてくれた。


 叔父さんは、私に一緒に買い物に行こうと誘ってくれて、ショッピングモールで、新しい靴を買ってくれた。


 パープルに、ライトグリーンの差し色が入った、ライト付きのピカピカ光る靴。


 欲しかったけど、周りの大人に言ったら、もっとちゃんとした大人っぽい靴買いなさいって怒られるような、ラメと電球でキラキラの靴。



 でも叔父さんはちっとも嫌な顔せずに、ニコニコして靴屋さんで、私にそれを履かせてくれた。


 薄汚れていたシンデレラの足にガラスの靴を履かさせて、お姫様にしてくれた王子様のように!それは丁寧な指先だった。


 お靴を履いたままお会計済ませて、叔父さんと話しながら家に帰ると、嫌な気分はもう消えていた。


 翌朝月曜日。玄関にある靴を見ると履きたくなった。


 靴を履くと、今度はそれを誰かに見せたくなった。



 仕方ないので学校に行ったら、その日はクラスで主人公のシンデレラみたいになれた。



 やっぱり、私は叔父さん、だーい好き!





  ◇◇◇



 そんな幸せな日々がこれから先もずっと続いていくと、思っていた矢先に、事件が起こった。


「あっ! 叔父さんがテレビに出てる!」



 ある日私が学校から帰ってくると、家の前には、カメラを持った人たちがたくさんいて、昼も夜も遮光カーテンのしまったままの叔父さんの部屋に向けられていた。



 そして、ノーヘル賞とか、私にはよくわからなかったけど、叔父さんが何かで、えらい賞を取ったらしいのだとテレビの人が教えてくれた。




「……旺志オージ氏は、人類史と、太陽の黒点活動や気象モデルを対応させた、ヘリオ・セントリック・サピエンス史論を発表したが研究を認められず、志半ばで、大学を中退することになり……」


「しかしながら、苦節数年、ひとりで続けたこの研究は、今後の恒星間移動における人類史の変動予測ベースとなりうる……」


「研究室でのトラブルが、彼の心に深い影を落とし……」



 叔父さんが、難しいお本を読みながら、こっそり書いていたらしい論文は、どうやら今までにない画期的なものであったようで、カメラを持った人たちは、その取材に来たのだと言っていた。




 もう近所中が大騒ぎで、カメラの人たちはみんなに叔父さんについて聞いてたけど、叔父さんは全然外に出ないのでそもそも近所の人と話してなかった。



 だから、一番仲良かった私が叔父さんについて、一番たくさんインタビューをされた。


 私はここぞとばかりに、ランドセルからこの前の作文を取り出して、私は叔父さんのことを尊敬してて、叔父さんみたいになりたいと叫び散らし、でも先生やお父さんたちからは、止められてると全国放送でチクってやった。



 その日の夕方のワイドショーにはもう、叔父さんは顔写真つきで帝大勇退やら孤高の天才やらと、褒められまくっていた。




「やっぱり、叔父さん、テレビに出るような、[事件]を起こしたね!」


 私は、お父さんたちにニコニコ話した。

 お父さんたちの顔は引きつっていたが、私は、叔父さんがみんなに認めてもらえたのが嬉しかった。




 でもそれ以来、叔父さんは、ますます部屋から出てこなくなってしまった。



 あそぼ! ってさそっても、ちょっと雑な字で書かれた「立ち入り禁止」の張り紙が扉につけられていて、叔父さんの部屋には入れなかった。

 叔父さんと話せないし、オヤツも食べられないし、ゲームも出来ないし、いつも楽しい宝物の部屋に入れなくなって、私は悲しかった。


 それでも、おじさんは、私がお夕ご飯を持っていくと、手だけ出して、ありがとうと言ってくれた。


 けど、私以外の他の人だと、声を出さないし、扉を開けることすらしなかった。

 テレビの取材でも、顔を全く出さなかった。


 夕飯以外は食べてないみたいだから、心配で、こっそりお菓子を扉の前に置いておいたら、なくなってた。


 ちょっと安心したけど、次の日の夕飯からは、叔父さんの部屋からは、返事も手も出てこなくなってしまった。



 それから1週間がたち、2週間がたち、ワイドショーやテレビのカメラが去って行ってもまだ。


 叔父さんは部屋から出てこなかった。


 夜に起きてる音もしないので、さすがにおかしいと思ったおばあちゃんたちは、部屋の鍵を壊して入ろうかと相談を始めた。


 私は、叔父さんがかわいそうだから止めたんだけど、全然言うこと聞かなかった。


 テレビに知られると厄介だからという理由で、鍵屋さんは呼ばれず、ガシャンと音を立てて、宝物庫の扉は破壊された。



 でも、叔父さんの部屋は誰もいなくて、それに、何も残っていなかった。



 あれだけの量のものをどうやって一人で運んだのかわからないが、難しいお本も私が読んだ漫画も、遊んだゲームも、お菓子の道具もなくなっていて、部屋の真ん中には小さな箱と、手紙があった。



 表には、おやじたちへ、と叔父さんのちょっと雑な字で書かれていた。


 それを読んだ、おばあちゃんたちは大騒ぎして、警察に行って叔父さんを探したのだけど、結局見つからなかったみたい。



「しっそーって何?」




「叔父さんどうしていなくなっちゃったの?」



 私が聞くと、みんなにまた怖い顔をされて怒られた。



 私は、大好きな叔父さんに嫌われてしまったんだと思って、急にこの世界が崩れたような気分だった。





  ◇◇◇



 おじさんがいなくなったことは、少しの間だけ、テレビに映ったけど、すぐにみんなもう興味なくなったみたいで、1週間もすると取り上げられなくなった。



 それ以来、私は、学校にもいかず、叔父さんの部屋に叔父さんと同じように、引きこもるようになってしまった。


「……おじさんと仲いいと思っていたのは私だけだったのかな?」



 叔父さんが私に何も言わずにどこかに行ってしまってゲームも学校も集中できなくて、誰もいなくなった部屋で、叔父さんと過ごした楽しい時間を思い出していると、ふと、叔父さんの言葉を思いだした。




 ……ほらメイちゃん、ここ、家が古くて床が抜けているんだ……




「そうだ! 秘密の隠し場所!」


 開けてみると中には手紙と叔父さんのゲーム機が入っていた。


 手紙には、「メイちゃんへ」と、叔父さんの「丁寧な」字で書かれていたので開けてみると、この手紙のことは、誰にも話さないで、と書かれていた。



「何も言わずに居なくなってごめんね、叔父さんは働き先ができたので、少し遠いところにいくことになりました、」



 行き先は教えられないけど、ゲーム機はあげます、

 元気に毎日過ごして、幸せになってね、


 それを読みおわったあと、私は、もう叔父さんには会えないんだなと思って、涙が止まらなかった。


 叔父さんに嫌われてはいなかったけど、もう、あの楽しい時間は帰ってこないのだと、そして、これから辛い時間をずっと過ごさなければいけないんだとそう思うと、お腹が痛くてたまらなかった。


 しばらくして、私は、泣き止んでゲームを起動した。



 元気に飛び跳ねるキャラクターはいつものそれだったけど、叔父さんと一緒でないゲームは味気がなかった。



 キャラが跳ねて掛け声出すたびに、叔父さんの遊んだ記憶がよみがえる。ゲームのデータにはおじさんと一緒にプレイしたゴーストが残っていて、それがなんとも寒々しい。



 おじさんとやっていた、見知らぬ人とのオンライン対戦は楽しかったな、と思い、ふと気まぐれでネット接続してみると、見慣れぬフレンドのアイコンがあった。



 いつも一緒にやってたから、名前はみんな覚えてる。

 でもこの人は見覚えがない、しかも、名前欄が、機械の製造番号のようなランダムな記号になっていて、いかにも怪しかった。



 前に叔父さんは言ってた、

 こう言う、名前が記号になってる人はアカウントが一度なんらかの理由で凍結された危ない人だから、話しかけてはいけませんって。


 その瞬間、私はゲーム機本体を持って外に出た。

 そして、無料ワイファイの図書館に行って接続した。



 叔父さんは、セキリティホールや個人情報の流出とか言って、外ではオンラインをやらないように注意していたけど、おじさんがいない今は関係ない。




 叔父さんがダメって言ってたのに、叔父さんのゲーム機本体に登録されてるフレンドっていうことは、それはつまり、「そういう事」だ!



 さっそく接続すると、謎のフレンドはログインしていた。


 時計を見ると、叔父さんと一緒に遊んだ、いつもと同じ時間だった。



 定型文で挨拶する。

 いつも叔父さんとしていたやりとり。



 私は、家族の誰にも言わずに、謎のフレンドと毎日遊んだ。

 やがて私が中学に上がると、近所のアマゾンのロッカーに、消音マイク付きイヤホンと、ネット回線使えるスマホが送られてきた。


 ゲームアプリのフレンド登録機能を使って通話すると、懐かしい声が聞こえてきた。



「メイちゃんは頭いいから、すぐにあの場所に隠したゲーム機に気づくと思ってた」




 私は、それを家族の誰にも話さなかった、


 これは、絶対話してはいけないものだと、わかっていた。


 話したら、叔父さんと唯一の繋がりであるこのフレンド登録が、消えると思っていたからだ。



 だから、叔父さんと連絡取れることを家族に悟られないように、嬉しさを態度に出さないように、注意して、私は叔父さんがやっていたのと同じように部屋に引きこもるようになった。


 そして、その判断は正しかった。






  ◇◇◇



 それから、何年もたち、私はあの時の叔父さんと同じ引きこもりになった。

 大学を中退した今の私には、あの頃、叔父さんが言っていたことが、よくわかる。



 お父さんもお母さんもおばあちゃんも先生も、みんな、引きこもりになった私のことを怒って、言うことを聞かせようとした。


 それでも引きこもっていると、今度は、私を無視して妹を可愛がるようになっていった。



 だから、あの頃のおじさんが、何を考えて、何を思い、何をして過ごしていたのか、そして、おじさんにとって私が、どんな存在であったか。なぜ、叔父さんが家から出て行ってしまったのか。とてもよくわかる。




 ……辛い時に、そばにいてくれない人たちがノーヘル受賞後に手のひらを返すのを見て、叔父さんは、人が嫌いで信じられなくなってしまったのだ。





 そしてようやく今日、私は、失踪して行方不明になってるおじさんの住んでいるところへ、家族に内緒でこっそり会いに行けるようになった。




「メイちゃん、綺麗になったなあ、」


 昔はこーんなに小さかったのに、と、指先で豆粒を作りながら。



  久しぶりに会ったおじさんは10年前と同じように片目をつむり微笑んでいた。





「メイちゃん、いらっしゃい」




 ノーベル賞を受賞して、大きな家に住むようになった叔父さんだったが、あの頃となんにも変わらない態度で、引きこもりになった私に接してくれる。



 それが私にはとてもうれしかった。



 辛い時に一緒にいてくれること、

 そばに認めてくれる人がいること、

 そうやって初めて人間は輝けるのだということ、



 悲しい現実を笑い飛ばせる勇気は、人と人とのあいだから生まれてくると!


 引きこもりのおじさんはシンデレラで、私は靴を履かせてくれる王子様だった。


 今は、おじさんが私の王子様になってくれている。



「叔父さん私ね、大学やめちゃったんだ、今は家に引きこもってるんだよ!」




「そうかそうか、じゃあ、また新しい靴を買いに行くか、ゲームも久しぶりに対面で出来るしな」


 私が、靴はいらないけど、欲しいものはあると言うと、叔父さんは肌の白い細い首を傾げた。



「ねぇ、おじさん、私と昔した約束、まだ覚えてる?」




「……メイちゃん、三頭身の親族は婚姻できないんだよ、」


 「止まれ、罠の匂いだ」とおじさん。




「大丈夫! ドイツなら可能だよ!」



 「合図をしたら走れ!」だと私。


 

 叔父さんは、かた目をつぶり、苦笑した。



 私は叔父さんに問いかける。


「叔父さんがあの時居なくなったのは、他の大人と仲良くできなかっただけじゃないんでしょ?」



「多分、私のこと本気で好きになっちゃったからなんじゃないかな?  子供だった私を傷つけないために、だから離れるしかないと思ったんじゃない?」





 叔父さんは幸せになることに臆病なんだ!


 私に教えてくれた、人の目を気にしない才能というあの言葉は、おそらく自分自身にも言ってたのだ!




「でも私は! 人の目を気にしないことが、今はもうできるようになりました!  なぜなら、昔叔父さんが教えてくれたから、です! 」



 もう何も怖くない!



「さあ今こそ、叔父さんは自分の言葉を実行するときだ!」



 私は、ノーヘル賞受賞者に畳み掛けた!


「叔父さんは、私が幸せになってくれるなら、[なんでもいい]って言ってたじゃん!」



「だからおじさん! 私にチャンスをちょうだい!」




 10年ぶりの再開には、不安と安堵、2つの涙が流れていた。



「おじさんと仲いいと思っていたのは私だけだったのかな……?」



「メイちゃん、本当に綺麗になったんだなあ……」





 そういうわけで、私は叔父さんの家に押しかけ、それから家事や料理をするようになった。



 時が経って、ドイツに引っ越し、ついに私はあの作文に書いた夢を叶える。


  私は、「叔父さんの」家にいつもいる、お姉さんになったのだ。



 やっぱり、私は叔父さん、だーい好き!




気に入りましたら、評価と感想、お願いしますー、


連載版はこちら↓

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もしかしたら前作↓も、お気に召すやもしれぬ。



草食な男女のわき役・ラブストーリー( inファンタジー世界)

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