Sharmanic
短編です!
満月夜の晩は列のできることもある。
神殿に仕える我々は、筒だった。
天と地との導管。
臍の下、指二本分下。
そこから奥へ。
奥へ再び指二本分沈む。
そこは蓄熱の場所。
鍛冶屋さながら火花の弾ける活力の源。
女人であればこそ、為せる神業。
我らは清める。
身を清め、潔斎し、順序を重んじる。
しきたりを守り抜き、次へ伝える。
私情など、忘れた。
純然たる筒であるために、我らは清らかである必要があった。
今夜は円い月の冴える日。
列ができる日。
交わりにより力を与える日。
それなりの金銀、宝玉、財を神殿へ納めて頂くことは必須である。
当たり前のこと。対価は必要である。
我らは天と地との導管。
臍の下の蓄熱を、交わりにより与える。
交わる相手は、男であろうが、女であろうが、どちらでも良い。
ただ、渡すだけ。
天の奔流を、地の激流を、我を通して流すだけ。
聞いた話だが、どこかの地方の豪族の王子は、
この営みを大層、忌んだそうな。
女人を通じて命の流れを注ぎ込む儀式は、古代からどこの王族、豪族もしていること。
民の為一族の為、繁栄を約束する儀式は、
月の満ち欠けや川の氾濫などの節目に行われた。
この儀式を忌んだ王子は、大人たちの一連の行為を幼い頃から見てきたのだろう。
それはそれで、おかわいそう。
この儀式の代わりになる方法を王子は見つけたのだろうか。苦行の末に、断食の明けた後に、普遍なるもの、聖なるものを手に入れた王子が目に浮かぶような。
今宵の儀式で、私は王と会う。
祈願だそうな。
即位して5年。未だお若い。
私情など忘れた。
何も思わない。
官能だけを残し、悦びは果てに置いてきた。
王よ。我は君を、取って喰うぞよ。
それほどの深淵を、暗黒の温かい闇を、女人は請け負っている。
神殿の娼は、聖なる筒。
深淵が満ち、やがて流れ落ちる壺。
叡知を得たくば、交わるが宜しい。
王よ。いざ。
こちらへ参れ。
満月夜は明るい。
金も銀も膨大に頂いた。
あなたの顏を月光で見せて。
儚い夜を、我に与えよ。
我は豊かぞ。
受け止められるか。
王の器は如何ほどか、鶏の鳴くまで見届けて進ぜよう。
私情など忘れた。
今宵は満月夜。
我は筒。
私は神殿の娼婦。
天と地とを繋ぐ者。
終
オルゴン、オルゴナイト、タントラ、などのテーマで思い付くまま書いてみました。
命は不思議。
生命はどこからきてどこへ去るのか。
その不思議の源には、いつでも女性性がありました。
無尽蔵な女性性は、活用、利用の対象でもあり、
聖なるものでもありました。
男女の交合は、豊穣をこの世へ生み出すための儀式として有効でした。