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北の怪奇譚  作者: 紫月 朔夜
9/10

八話

僕は山中へと入って行く車の中でぼんやりと外を眺めていた。

「今日は帰るって言ってましたよね。この道札幌に行く道じゃあないですよね。もしかして旭川方面に向かってます?」

「おっ、いい感してるな。ちょっと寄り道したい所があって、ただいま大雪山国立公園内を走っております。」ちょっとおどけたように紫水さんが答える。

「はぁ~、本当に帰るきあるんですか?」

「あるある、まあ俺達を信じて黙って乗ってなさい。」騙すき満々の紫水さんを目を細めて睨むと八雲さんが

「仲が良いな。」くすっと笑う。

「当たり前だろ!弟みたいなものだからな!」

「・・・・はぁ」

それぞれの反応を見て、また八雲さんがクスクス笑う。


そのうち車は石狩川に沿って特徴的な崖が連なる道を走る。

「層雲峡に着いたみたいだな、せっかくだから休憩がてら観光でもするか。」そう言い紫水さんは車を駐車場へ入れた。

僕は車から降りて軽く体を伸ばす、流星の滝、銀河の滝を見に行きその凄さにしばしみとれる。

「僕、小学生の頃に訪れた事がありましたが、大人になってみるのとまた感じが違うのですね。」

「へぇ、修学旅行とか?」

「家族旅行ですよ、このあと確か黒岳のロープウェイに乗ったと思います、もう昔の思い出なのではっきりとは覚えてませんが」

「なになに、俺達も紫音君の思い出をたどる旅をしてみる?」紫水さんがふざけたように言う。

「嫌ですよ!思い出は一人でたどりますので早く帰りましょう」

「じゃあそろそろ出発しましょうか。」八雲さんに促され、また僕達は車に乗り込む。


「そう言えば前に紫音の叔父さんが、旭川のお化けの出る家に行ったって言ってたよな?」

「ええ、叔父さんが二十代前半のあちこち冒険の旅をしていた頃ですから、もう何十年も前の事ですよ?」

「その家ってまだあるのか?」と紫水さん。

「もう壊されてないはずです。本当かどうかはわかりませんが、殺人事件があった家で、安く売りに出て何人かに売れたのですが、夜になると女性の泣き声と叫び声が聞こえ、人の歩き回る足音が毎日して我慢出来ずに出て行き、またすぐに売りに出されるのですがすぐに出ていかれて、結局誰にも売れずにしばらくほっておかれたのですが結局壊されたって聞いてます。」

「そうかもうないのか・・・・うまく成仏できていればいいが」

ぽつりと八雲さんがつぶやく。

なんだか湿っぽい空気になったので

「まあ昔の話ですし、叔父さんの話ですから作り話かもしれませんよ。だから寄り道しないで帰りましょうね!」

僕がくだけた感じで言えば、そうだなと二人もうなずく。

何かを考えるように二人が無言になったので、僕も何も言うこがなくなりただ黙って外を眺めた。


車は旭川に入った、そのままどこに寄るでもなく札幌に向かう国道を走る。

「あれ?高速には乗らないのですか?」

神居古潭かむいこたんに寄る。」八雲さんが言うと、紫水さんが車を駐車場に止めた。

八雲さんを先頭にして三人でもくもくと歩く、回りにどう思われているのか不安になりちらっと回りをうかがうと、不思議なことに誰もおらず人の気配も感じられなかった。

そのまま歩き続けてなぜか正規のルートを外れ山の中にと入る、途中キーンと高い音がして結界を通り抜けたのがわかった。

結界を抜けた先はまるで異次元に迷い混んだみたいに空気が変わった、あたりの景色もどことなく現実の世界とは違う感じだ。

少し歩くとちょっと開けた広場のようなところに出た、キョロキョロと辺りを見渡すといつの間に現れたのか、アイヌ衣装をまとった小学生ぐらいの女の子がニコニコと笑って立っていた。

八雲さんと紫水さんがその女の子の前に膝まずいたので、僕もあわてて同じようにする、すると女の子がまっすぐ僕の前に歩いてくると僕の左手をとり、無言で僕の左腕に黒い石で出来たブレスレットをはめた。僕がびっくりして女の子を見ると、すーっと消えていった。無意識のうちにブレスレットをさわると

「神居古潭石だね。ここでしか採掘できない珍しい石だ。」八雲さんが教えてくれた。

「さっきの女の子はいったい・・・・・」

「神様の御使いだ、昨日俺達に連絡がきて紫音をここに連れてくるように言われたのさ、そのブレスレットを渡したかったのだろう、それは力に目覚めたお前の力を適度に抑えて暴走しないようにするものらしい。」

「紫水は説明が足りないな、普通は必要な時だけ力を使うのだが今の紫音は力の調整ができず垂れ流しているようなものなんだ、そのせいで見なくてもいいものまで見えてしまったり、本来なら近づいてこない弱い霊まで引き寄せられてしまう。それをそのブレスレットの石が抑えてくれて今までのような生活が送れるようにしてくれる。だから自分で制御ができるまで、寝ている時も外しては駄目だからね。」

「わ、わかりました。」

「では、用事も済んだので帰りましょうか。」八雲さんが言うと空気がかわり、僕達は元の世界へと帰ってきた。

車の中で僕は、今までは八雲さんと紫水さんが僕をそれとなく守ってくれた事を聞いた、得意気に話す紫水さんに御礼を言うのはなんだかしゃくにさわったが、二人には心から御礼をのべた。

「これからも紫音のことは見守って行くつもりだから、何かあったら遠慮なく言ってほしい。」そう優しく言う八雲さんに

「はい、ありがとうございます、これからも宜しくお願いします。」僕は頭を下げた。

「俺のこともお忘れなく。」

「わかってますよ、紫水さんも宜しくお願いします。」

「なんか俺だけ心がこもってないなぁ~。」あいかわらず紫水さんは場の空気を崩す。だけどそれが紫水さんなのか、僕はため息をついた。


途中から高速にのり、やっと家に帰ってきた。

もうしばらくは遠出はしたくない、心から思う僕であった。


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