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北の怪奇譚  作者: 紫月 朔夜
8/10

七話

すっかり秋が深まった山の中、僕達は目の前のコバルトブルーの池とその上の空に浮かぶ黒龍を眺めていた。


それは今朝のことである、ホテルを出て車に乗り込もうとした僕達の頭上に黒龍が現れ僕達は山の中にいざなわれた。

車でしか行けない山の中に(神の子池)と呼ばれる青く透き通った池があり、その池の底には何本かの倒木が腐ることなくある。

その神秘的な姿に見とれていると、黒龍が目の前まで降りてきて長い黒髪を体に纏わせた美しい女性の姿に変わった。

「あの子を救ってくれたお礼に、真実を見通す力をあなたに。」

そう言って僕の方に手を向けると、手のひらから光の玉が放たれ僕の体の中へ入ってきた。

僕が目を閉じると光の玉は僕の胸のところに留まり体の隅々まで光が行き渡る、頭の中がクリアになっていきゆっくりと目を開けた。そこにはもう黒龍の姿はなかった。


「大丈夫か?」心配そうに八雲さんが尋ねてくれる。

「ええ、視界がクリアになって力が身体中にみなぎってくるようです、ちなみに、お二人がまとっている紫色のオーラもよくみえますよ。」そう言って笑うと

「そうか。」と言って二人は僕の肩をポンポンとたたいた。


それから僕達は山の中を進む。

時々冥様が昔張った結界を確認しながら進んでいると、ジャラジャラと鎖の音が聞こえてくる、音のする方を見ると多分昔の囚人だろう足に鎖を付け、うつ向いて歩く男達がいた。

「彼らは昔この辺を開拓し道を作った囚人達だ、何度ももう終わったから輪廻の輪に乗るように説得したんだが、まったく聞き入れずまだああしてさ迷っているんだ。」八雲さんが説明してくれた。

「これからもずっとあのままなのでしょうか?」

「別に人に悪さをする訳でもなく、ただ歩いているだけなのでそのままにしておいたんだ。それに彼らをずっと見守っている御方もいるしね。」ほらと八雲さんが指指す方を見ると、慈愛のこもった眼差しで彼らを見つめる仏様がいらっしゃった、僕達に気がつくと任せておけというようにゆっくりとうなずいた。

僕達は礼をするとその場を後にした。

その後も霊障のあるところをめぐり、浄めていき十勝川温泉に入った。


「今日はここで休むとするか。」八雲さんが言うと

「はぁ、やっと休める・・・」と紫水さんが伸びをした。

今日泊まるホテルを眺め僕は嫌な予感がした、

「ここですか~、」

「ん?何かあるのか?まあ、あっても今日はここに泊まるからな俺はもう疲れた。」紫水さんはしっしっと僕をホテルに追いやるように手をふる。

八雲さんが手続きをして、部屋に案内される。落ち着いた感じの和室で一息つくと、何があったのかを聞かれた。

「僕の父方の祖父の弟が昔このホテルに泊まってお酒を飲み、回りの人が止めるのも聞かずこっそりと風呂に入り、いない事に気がついた人が探したら、湯船に浮かんで死んでいるのを発見したんです。もうだいぶ昔の事なのですが、何か嫌な感じがするんです。」

「まあこれも縁だと思って、紫音が引導を渡してやりなさい。たぶんまだ死んだ事が信じられず、知り合いや血縁者がいると、気付いて欲しくて姿を現すと思うよ。」八雲さんが言うと

「よし、今回は紫音に任せた、これも訓練の一環だしっかり浄化してあげれよ。」紫水さんがいや~楽だなーとニヤニヤする。

僕はため息をつくと、了承した。


夕食のあと僕は温泉に向かった、十勝川温泉の湯はモール温泉といい茶色の湯で美肌になるそうだ。

湯の感触を確かめるふりをして、温泉の中を歩きよどみを探る、そのうちに八雲さんと紫水さんも来て合流する。

「どうだ、うまくいきそうか?」

「僕には気付いたようですが、様子をうかがっているようです僕が誘導するのであとはよろしくお願いします。」紫水さんにそうかえすとわかったと頷き

「こっちは浄化してもう戻ってこれないように結界を張っておく。」そう言って僕から離れて行った。


温泉を出て後ろに付いてくるのを感じながら部屋へと帰る、どうやら部屋の中には入ってこず、入り口のところからこちらをうかがっているようだ。

どうしようかなと考えていると、二人が戻ってきた。

そしてさりげなく霊の両脇に立ち、霊を拘束し中へ入ってくる。

「しょうがないからちょっと手を貸してやるよ。」紫水さんはそう言ってぐっと力を込める。

僕は前に立って目を合わせるとゆっくりと口を開いた。

「僕はあなたの甥っ子の子供です。僕の事がわかりますか?」

「あなたがここで亡くなってからもう長い年月が経ちました。あなたの兄弟も奥さんももうこの世には居ません。」

「う、嘘だ!」今度はしっかりと僕の目を見て拘束から逃れようと体をよじる。

「嘘ではありません。ほら上をみてください、あなたを心配してお迎えがきてますよ。」

霊の上には、母親だろうか年老いた女性が心配そうにみつめていた、女性が手を差し出すと霊は「母さん」とつぶやいてその手をとった。しっかりと手を繋いだ二人は光に包まれてゆっくりと消えていった。


「ふー、何とかなりました。まさか母親がくるとは思いませんでしたけど・・・」

「母親を呼んだのは紫音か?」紫水さんがきいてくる

「はい、本当はコンタクトの取りやすい祖父に頼んだのですがどうやら母親がきたみたいですね、よほど心配だったのでしょう、でも良かったです、無事に成仏してくれて・・・。」

僕は窓の外に視線をやった、あいかわらず月が美しく輝いていた。


「さあ、明日こそは札幌に帰りますよ!」僕が言うと、

「ああ、そうだな。」と、二人は笑った。


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