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北の怪奇譚  作者: 紫月 朔夜
3/10

二話

ようやくこの北の大地にも夏がはじまりそうで、新緑もまぶしく気温も上がってまるで短い夏を楽しもうとそこいらじゅうがキラキラと輝きはじめる。

なのにこの店はいつもと変わらず、そうまったくと言っていいほどいつもと変わりがないのである。


いくらオーナーの趣味でやっているとは言っても、こんなに暇でいいのだろうか?ふとオーナーと言われる人にあったこともなく、全然知らないことに気付き八雲さんに尋ねてみた。

「オーナーってどういう方なんですか?」

「あれ?まだ話してなかったっけ?」

「ええ、まったく聞いたことがありませんし、会った事もありません。」

「うん?ただの口うるさいばばあだぞ!」と紫水さんが横から口を出す。

「口うるさいのはお前にだけだ!」八雲さんがたしなめる。

「あっ!女性の方なんですね?」僕が思わず口走ると

「あー、まったく話してなかったかー、なんか紫音がいることに馴染んでしまって昔からいるような気がしてたよ、ハハハ……」八雲さんが申し訳なさそうに言う。

めいさまとおっしゃる方で、普段はまあ俺達と同じようなことをしているが、とても力が強く、とても忙しいお方だ。たまにはここにくる事もあるので、そのうち会えるよ!」

「そうですか~、ではその時を楽しみにしておきます。」これ以上聞いても何も話してくれなそうな雰囲気だったので、そこで話しを止めた。


「そういえば、紫音はどうしてこの世の物でない物を認識できるし、見えてもビビらないんだ?」と紫水さんが聞いてきた。

「それ聞いちゃいます?そうですね~話すとすごく長くなるんですけど、まあ暇だからいいですね!」


「僕の母と、母方の祖母が割と霊感の強い人で、母に言わせると僕は小さい頃から見えていたみたいなんです。

僕の父は転勤族であちらこちらを転勤していました。まだ僕が三歳ぐらいの頃、道東の社宅に住んでいてその時夜になって寝ていると、僕があそこに怖いのがいると部屋の隅を指差して泣くそうなんです、母があわてて僕を抱き上げ別の部屋に連れて行くと泣き止むということが続いたそうです、そこで祖母を呼んでその部屋に泊まってもらうと次の日祖母が、夜寝ていると部屋の隅から、男の子がずるずると這い出てきて祖母の寝ている布団の上に這いずり上がり、そのまま体の上を這い上がってきたので怖くなった祖母は必死にお経を唱えたそうです、そうすると顔の前まできたとき、すーっと消えて行ったと話したそうなんです。母が近所の人に色々聞いてみると、引っ越してくる前に住んでいた夫婦の子供が病気でなくなり、夫婦もショックで会社をやめて出て行ったことを聞いたそうなんです、それで父を説得して違う社宅に替えてもらいその後はおさまったそうです。その後その社宅は入ってもすぐ出ていくので壊されたそうです。」

「それから?」そう八雲さんが先をうながしてくる。

「そうですね~、あとはそれ以後ちょくちょくまあ色々な物を感じるようになったぐらいですかね。普段ははっきりとは見えないのですかが、祖母の家に行った時とか、霊感のある人と一緒にいる時なんかは強く感じることができますね。」僕は一息つくと、八雲さんがいれてくれたコーヒーに口を付けた。

「祖母の家と言えば、お盆は行きたくなかったですね~。毎年家族で行っていたのですが、僕が中学生の頃、その時は家族で一階の和室に寝ていたのですが、夜に寝ていた和室の襖がすーっと開いたんです、動こうにも動けなくて黙っていたら、スッスツと畳の上を歩く足音が聞こえて、まず母の所で止まり何かをうかがっているようでした。そしてまたスッスツと足音が近づいてきて僕の頭の上で止まり座ったようで着物の裾がふわっと頭にかかった感じがしました、顔を覗きこまれている感じがしたのですが怖くて目は開けられません、そのまま寝たらしく気が付いたら朝でした、父と兄二人は何も気がつかなかったらしいのですが、母は、着物を着た女の人だったといい祖母に昔の写真を見せてもらうと、この人と指差したのは祖母の若くして亡くなった妹でした、着物の好きな人でその人も霊感の強い人だったらしく祖母はきっと気になって見に来たんだろうと笑ってました。」

「凄いなー、紫音の家系は女性が霊感を受け継いでいたのか~、でも産まれたのは男子だったと……」なんか残念そうな目で紫水さんが僕を見る。

「母も祖母もがっかりしていましたよ、でも僕に霊感があるとわかると、そのことを家族以外には言ってはいけないとしつこく教えられました。」

「で、お盆に行きたくないエピソードはそれか?」そう紫水さんに聞かれる。

「いいえ、高校生の時に、いつもはお盆が終わる前に帰っていたのですが、その時は珍しくお盆が終わるまで居たのです。親戚のおじさん家族が来なくて二階の二間続きの部屋が広いからと家族で二階で寝ていると、階段をとんとんと昇ってくる音がしてドアの前で止まりました。でもドアが開く気配もしなくて、母が僕にみてこいというので仕方なくドアを開けてみても誰もいません、母とまた誰か来たんだねといいながら横になったのですが、今度は布団の上をパタパタと歩き回る音がします、母が電気を付けると止まり消すとするので、うるさいからと電気を付けたまま寝ました、不思議な事に父と兄二人はまったく起きず、朝に聞いても全然気がつかなかったと言ってました、でも一番嫌だったのはその夜祖母が御先祖様を送ってくるから着いてこいと、母と僕を連れて近くの川に行き人形に切った紙を流し祖母がぶつぶつとお経を唱えて、帰りは絶対後ろを振り向くなと言われて三人で夜の闇にヒタヒタと追われながら無言で帰った時でしょうか。母はよっぽど嫌だったらしく、それ以後お盆をずらして祖母の家に行く事にしました。というのが僕の嫌な理由です。」僕か一気に喋ると

「それで紫音は、霊感が強いのは嫌なのかな?」八雲さんが優しく聞いてくる。

「うーん、もう慣れました。まあ遺伝みたいものですし、仕方ないですよね!」すっかり冷めたコーヒーを一気に流し込むとカップを手に立ち上がった。

「紫音君には、まだまだ面白い話しがありそうだなー。」紫水さんがニヤニヤしながら僕を見る。

「まだありますけど、それはまた今度ということで、」僕が言うと普通のお客様が入ってきた。

「いらっしゃいませ。」


どうやら今日は、お客様がゼロではなさそうだ。



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