表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北の怪奇譚  作者: 紫月 朔夜
2/10

一話

春だというのにまだ寒さを感じる時がある、それを北海道では リラ冷え と言う。などと説明くさく考えながら店内の掃除をしている。

今日も安定の暇さ加減である。


「八雲さん、入って間もない僕が言うのもなんですけど、僕がきてから今まで、お客様は片手で足りるほどしか来てませんが大丈夫なんですか?」

「ああ、ここはオーナーの趣味でやっているだけで、本当の目的は別にあるから大丈夫なんだよ!」

「そうそう、あの人の趣味に付き合わされているんだから、儲からなくても全然平気さ!」紫水さんがへらへら笑いながら答える「はあ、なんかもったいないですね、お二人ともイケメンなんですからちょっと宣伝すれば女性客がバンバン来そうなのに。」

「えーやだよ、そんなめんどくさいこと。それにあんまり人が来たら本業の妨げになるだろう?ほら、本業の方の客が来たみたいだぞ!」紫水さんがドアの方へ顎をしゃくると、ドアが開き若い男性が入って来た。

「いらっしゃいませ!」3人の声が揃う。


20代半ばのサラリーマン風の男性が辺りを見回し、おどおどとカウンターに座った。

「あのー、ちょっと困ったことがあって、友達に相談したらその妹さんがここを教えてくれて、あっ友達は葛城っていいます。」

「ああ、凛ちゃん!」僕が言うと男性はほっとしたようにうなずいた。

「それで、何があったんですか?」八雲さんと紫水さんは、じっと男性を見つめているだけなので僕が先を促す。


「それに気づいたのは1ヶ月前なんですが、アパートの玄関前で微かに女の人の声がしたんです。隣は女の人だったのでその友達でも来たのかなぐらいに思っていたのですが、それから毎日聞こえるんです。」

「おかしいと思ったのは、寝ようと電気を消した時、今度は玄関の中に入った所から聞こえてきたんです、何を言っているのかわからなかったけどあわてて電気をつけたらぴったりと聞こえなくなったんです。気のせいだと思うことにして、でも怖いのでその日は電気を付けたまま寝ました。」そう言うと男性はため息をついた。

「でもそれで終わりじゃなかったんです、それから毎日寝ようと電気を消すと声がするようになりました、しかも段々と近づいているみたいで、もう怖くて怖くてとうとう電気を消すことができなくなりました、そのころには声はすでに足元でするようになっていましたが、電気さえ付いていれば大丈夫と無理矢理ベッドに潜り込みました。」ごくりと男性が生唾を呑み込む音が、静かな店内にやけに響く。

「でも大丈夫じゃなかった、電気が付いているのに今度ははっきりと耳元で『許さない!』って聞こえたんです、気が付いたら部屋を飛び出て下の階にいる後輩の部屋に飛び込んでいました。朝方部屋に戻ってとにかく必要な物を鞄に詰め込んで、それからネカフェで寝起きしています。もう怖くてアパートには帰れません、お願いです、助けて下さい!」良く見ると、男性の目の下にはうっすらと隈が浮かび顔には疲れが出ていた。


「生き霊だな、すべては自分の身から出た錆だ。」八雲さんが冷たくいい放つ。

「えっ!」男性はぽかんと口を開け固まってしまった。

「長い髪の目付きがちょっときついけど、色白の美人さんだ。覚えはあるだろう?その彼女に相当恨まれているみたいだな。」紫水さんが言うと、男性は目をキョロキョロさせ落ち着きがなくなる。

「もういい歳をした大人の男なんだから、いつまでも学生気分でいないで、別れるならもっと誠実に相手に向き合って、相手のこともちゃんと考えて誠実に別れ話をしろ!でないとそのうち彼女は命を落として本当の死霊になり、お前にとりついて離れなくなるぞ!」八雲さんが説教すると男性は頭をかかえて静かに泣きだした。

「ちゃんと話しをして納得したら、彼女は離れてくれますか?」頭をかかえたまま男性が八雲さんにたずねる。


「納得させるのは時間がかかると思うが、誠実に話しあってお前じゃなくちゃんと前を向いて歩けるようにしてやれ、それが散々遊んで捨てたお前が彼女にしてやれる最後の優しさだ!」そう言われると男性は頭を上げて、しっかりと八雲さんを見る。

「わかりました。彼女としっかり話しあって、ちゃんと僕が振られてきます。それしか僕はできないから…」

「わかったなら少しでも早く彼女と話し会え、お代はハーブティー1杯分でいい。」

男性はちらっとメニューを見ると、きっちりお代をおいて

「ありがとうございました。」と頭を下げて出て行った。


「生き霊っているんですね。」僕が言うと紫水さんが

「いるぞー、平安の昔から物語に出てくるからな、だいたいが女性が多いが、男性も少ないがいる。紫音君も女性には誠実に対応しろよ。」ニヤニヤしながらまたもや僕の頭をポンポンとたたく

「まあ、紫音は大丈夫だろう。」八雲さんが僕に、にっこり笑いかける。

「はあ……」なんかモテないから大丈夫だろうと言われている気がするのは、僕の勘繰りすぎだろうか?まあ実際モテないんだけど

「八雲さん!コーヒー入れて下さい!」僕がねだると

「ハイハイ」と笑いながらコーヒーを入れてくれる。


なんだかんだあるけど、結局今日も平和な1日だ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ