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北の怪奇譚  作者: 紫月 朔夜
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始まりの章

初めての投稿です。何十年も前から考えていた話しを、このまま消してしまうのも忍びなく、拙い文章ですが自己満足で書いてみました。

暖かい目でみていただくと、ありがたいです。

ライラックが満開の大通り公園で、僕はベンチに座り目の前の物を眺めていた。

「ママ~、あのお兄ちゃん鳩とお話ししてるよ!」と可愛らしく話す少女の手を母親がぐいぐいと引っ張って通り過ぎて行く。

たぶん僕のことだろうけど、正確には鳩の上に乗って腕を組んでいるアイヌの民族衣装みたいものを着ている小さいおっさんだ。


「おい!お前わしが見えているだろう?」

「はぁ~、おかしな人に思われるから話しかけるのはやめてもらえるかな。」平然とかえしているあたりすでにおかしな人なのだろう、もう手遅れかもしれない。


「お前、仕事がなくなって行くところがないんだろう。」ニヤリとしながら痛いところをついてくる。

先ほど勤めていた小さな会社で、仕事が大幅に減ったからと、若かったら次も見つけやすいだろうという訳のわからない理由で解雇されたのだった。

「これでも落ち込んでいるんだから、ほっておいてくれないかな。」わかりやすく項垂れて見せると、おっさんは鳩から飛び降り僕の脚をよじ登って膝の上にちょこんと座った。

「わしがいい仕事を紹介してやろう。」そう言うと今度は体をよじ登り肩に乗り「さあ、わしの言うとおりに進め!」と耳をぐいぐいと引っ張る。

なんだか騙されているような気がするが、本当に途方に暮れていたので、どうにでもなれと言うとおりに立ち上がり、公園を横切りビルの間を抜け、看板もない古いビルの地下へと続く階段を降り扉の前に立った。

よくある喫茶店のような木の扉には(紫の梟亭)とプレートが掛けてある。どうしようかと戸惑っていると「早く中に入れ」とおっさんがまたもや耳を引っ張る。

意を決して扉を開けると「いらっしゃいませ!」と男の人の声がして背の高いイケメン二人がにっこりと微笑みカウンターへと誘ってくれる。あまりのイケメンぶりにぼーっとしながらそのままカウンターに座る。


「良く来てくれたね、俺は八雲そして隣にいるちょい悪風な彼が、紫水しすい」眼鏡を掛けた優しそうな人がにっこり自己紹介をする。

「あ、あの~、ぼ、僕は」

「あっ、ここでは本名を名乗ってはダメなんだ、そうだな~君は紫音しおんにしよう。」

「えっ!ホストクラブ!」僕が驚いて立ち上がると、二人は大声で笑いだした。

「ごめん、ごめん、違うんだ、本名を知られるとちょっとやっかいな事に巻き込まれるかもしれないから、ここでは本名は名乗らないことにしている。」八雲さんが笑いながら説明してくれる。

「ここは普通の喫茶店だから安心して、そして君をここまで連れて来てくれたのがカイ。」いつの間にカウンターの上に降りたのか、おっさんがえらそうにふんぞりかえっている。

「うむ、わしの目にくるいはないぞ、こやつは役に立つ!」


「あの~、どうなっているので・・・」


ぞわりと嫌な感じがして扉のほうを振り向いた、何かくる!

「こっちに来い!」紫水さんが僕をカウンターの中へと引っ張ると同時に扉が開いた、そこには20代前半の女の子が二人立っていた、一人はショートカットの可愛らしい子でその子に腕を組まれて虚ろな目をしたロングの子がぼーっと立っていた。


「声をだすな!」いつの間にか肩に乗ったカイが言うので僕は言葉をのみこみロングの子を凝視する。

その子にまとわりつくように黒い人型のもやがぴったりとくっついていた。


「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ!」八雲さんがたぶん営業スマイルでカウンターに二人を座らせた。

「助けて下さい!あの、ここに来たら助けてくれるって知り合いに聞いて、私のせいで綾がおかしくなって、私、私、どうしたらいいか………」女の子の目から大粒の涙がポロポロとこぼれた。

「落ち着いて、まずこのハーブティーを飲んで、詳しく話してくれるかな?」八雲さんが不思議な香りのするハーブティーを二人の前においた。

「私、葛城 凛っていいます、この子は榊原 綾、先月私が所属しているオカルト研でちょっと有名な幽霊屋敷に行くことになって、今まで何もなかったしどうせただの噂だろうから大丈夫って、ちょうど行ける女子が私一人で友達を誘っていいって言うから綾を誘ったんです、綾は嫌だって言ってたのに、昼間に行くから大丈夫って、私……」そう言うとうつむき涙をぬぐって大きく息をはきだし呼吸を整える。

「最初は何ともなかったんです、みんなもやっぱりただの噂だったんだねって、でも綾はだんだん無口になって何も反応しないから怖くなって綾を連れて先に帰ったんです、綾のアパートの前で別れて次の日から大学に来なくなって、電話しても具合が悪いってそのうち電話にもでなくなったんです。心配で様子を見に行ったら」そこでちょっと口ごもると、また話し始めた。

「部屋の中は昼なのに薄暗くて、寒くて、人の気配がするんです、綾はぼーっとベッドに腰掛けてて、揺すっても反応しなくてこれはまずいって思って知り合いに片っ端から聞いてみたんです、そしたらここを教えてくれて、私のせいなんです、嫌がったのに無理に連れて行って、私が悪いんです」そう言うとまたうつむいてしまった。


「わかった、大丈夫だよ、彼女は人より感受性が強くてだから波長があっちゃったんだね、今から引き剥がすから何があっても彼女に触ったら駄目だよ」八雲さんがそう言うと紫水さんがすっと綾ちゃんの後ろに立つ、黒いもやの頭であろう部分を掴むともやがはっきりとひとがたになった。

「痛い、やめて、やめて、やめて」綾ちゃんが泣き叫び頭をかかえる、凛ちゃんが思わず触れようとするのであわてて腕を押さえた。

ひとがたは、だんだんと髪の長い女になりギロリと紫水さんを睨むと紫水さんの腕を両手で掴み爪をたてる。

『やめろ、これは私のものだ、せっかくいいうつわを見つけたんだ!離れるものか!』綾ちゃんの口からまったく別人のくぐもった声がもれる。

紫水さんはまったく気にせず力をこめると一気に引き剥がした。

ぎゃーっと断末魔が店中に響き、紫水さんが素早く何かを唱えると言葉が文字のロープになり女をぐるぐる巻きにすると、ポイっと店の片隅に放り投げた。

綾ちゃんはカウンターに突っ伏して気を失なっているようで、そんな綾ちゃんを見て凛ちゃんはオロオロしている。

「もう大丈夫だよ!」八雲さんがにっこり笑って言うと、凛ちゃんはわんわん泣いて綾ちゃんにしがみついた。


しばらくすると綾ちゃんは気が付いたようで顔を上げキョロキョロと回りを見回した。その目には生気が戻り、ぐずぐずと泣きじゃくり、ごめんね、ごめんねと繰り返す凛ちゃんを見てびっくりしている。

「よし!大丈夫みたいだね、じゃあ詳しいことは後でお友達に聞いて、これから後始末しないといけないから今日はこれで終わりね、あと君たちのような困っている人にここを教えて上げるのはいいけど、ここであったことは誰にも話してはいけないよ、じゃあお代はハーブティー2杯分でいいよ!」八雲さんが言うと凛ちゃんは「ありがとうございました。」とまだきょとんとしている綾ちゃんを引っ張って出て行った。


「さてと、後始末といきますか!」八雲さんの顔が厳しいものとなり、ぐるぐる巻きになって唸っている女の前に立った。

「普通はそのまま輪廻の輪に乗せて転生させるんだが、お前は生きている人に害をおよぼした、よってお前は輪廻転生はできない。そこでお前に選ばせてやろう、冥界に行き魂を修正するか、その魂を完全に消去するか、さぁどうする?」

『私は男に捨てられ命を落とした、許せない、なぜ私だけ、他の奴らも同じめにあわせてやる!』

「はぁ~、もう何十年も前のことだろうその男ももう生きていまい。」

『イヤだイヤだ、許せない、復讐してやる!』

「仕方がない、消去!」八雲さんが女の額をちよんとつつくと、女の姿はあっという間に消え去った。


今僕はここにきてからの色々のことに疲れて、ぼーっと椅子に腰掛けている、カイは美味しそうにクッキーを頰ぼり、八雲さんと紫水さんは僕の前にコーヒーを置き自分たちも美味しそうに飲んでいる。

「あの~僕はこれからどうしたらいいんでしょうか?」

「えっ!ああこれからもよろしく頼むよ!紫音くん!」八雲さんがにっこり笑う。

「紫音には記録を頼むよ、ここであったことを記録しておいてくれ。」よろしく頼むよと紫水さんが僕の頭をポンポンとたたく。

「はあ、よろしくお願いいたします。」


こうして僕のちょっと、いやかなり変わった新しい人生が始まった。


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