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五十一話 騎士の心

良かった、無事外に連れ出せて。詰まりすぎてワープ出来るスキルを持たせるとか血迷った展開にする所だった。


前回のあらすじ——


ゴリモブが落ち着かないし、もやしの事で話もあるから場所移そうって、ゴリモブ置いてっちゃうの⁈

そりゃ面倒臭いって顔に書いてみせたけど……

ってこれ、良く考えたら2人きりで出掛けてるよね? それって巷で言うデートじゃん? 

くぅっ……順調に進んでいくイベントと、余りにも縁がなくて失念してて、あっちの王子(気質)に入れ忘れてた壁ドンをこっちの王子(外見)に捻じ込まれて翻弄される私……

しかもこれがデートイベントって事はさ、例外が無ければきっと……

 何処に連れて来られたのかと思えば、降りてみるとそこはマティアスの最初の個別イベントの舞台、女神の丘だった。


 降り注ぐ初夏の日差しは強いが、木の葉を草を凪ぐように吹き抜けて行く風が涼やかで気持ちいい。その風と暫くスカートの裾を遊ばせて穏やかさを享受していると、マティアスが丘の上の見晴らしの良い所まで誘うので、ある種の緊張と予感とまだ冷めない熱とが入り混じった複雑な感情を抱えてアンナはその後に続いた。


 この丘の上で告白される。


 やっと乙女ゲームらしいシチュエーションでそれを迎えると確信して、アンナは何とも言えない気持ちで緩やかな丘を登る。


 これが長年付き合った人からの待ちに待ったプロポーズなら、この告白の予感すらも感動と喜びに満ちているのだろうが、アンナの頭の中は、どう言った顔でその場面を待ち言葉を受け取れば良いのか、そしてそれに向き合ってどう答えを出せば良いのかで早くもいっぱいだった。


(あの3人の時は不意打ちの連続だったけど、これは来るって分かってる……どんな顔してどんな風に待ってればいいの……)


 頭がバーストしそうになって思わず両手で頬を押さえた時、前を行くマティアスが立ち止まった。アンナも丘を登り切って、立ち止まったマティアスに並び見つめる先に目を移す。


「……わぁ!」


 前に来た時にはマティアスと姉を出会わせることに必死で見えていなかったが、登ってきた側とは反対側の眼下の地には、収穫を待つ黄金色の麦畑が一面見渡せた。


 風が吹くたびに麦の穂を撫でて揺らし、隣合う麦畑を順番に駆け抜けて行く。それを遠くから見ていると金色の漣が立っているようだった。


「きれい……こんなに綺麗な景色だったなんて知らなかった」

「初夏の収穫前にだけ見られる美しさです。この季節が大好きな理由です」


「ここにいつも現れる理由はこれだったんだ」

 アンナは眼下を見下ろし呟いた。


「私がよくここへ足を運ぶことをご存知でらしたのですか?」

 それをしっかり拾ったマティアスが意外という顔をしてアンナに尋ねた。


「あ……噂でね、噂よ。こちらによくいらっしゃってるって、噂に聞いて」

「そうでしたか。それが良い噂であれば良いのですが」


 マティアスは初めて出会った時と同じことを言って、同じ様ににっこり笑った。その笑顔に予感が強くなってアンナの鼓動が僅かに速くなる。


「けれど、どんな噂であれご存知ということは、私に興味を持って頂いているという事ですよね」


 馬車に乗っていた時から感じていたが、この男は巧妙にアンナの中にある彼に対しての好意を、言葉にしてわざと強く認識させるよう仕向けている気がする。分かっているのに術中に嵌ってしまったのか鼓動が速くなるので、アンナは視線をマティアスの琥珀から眼下の金色へと逸らした。


「興味って言うか……聞こえてくるのよ……貴方って有名だから」

「女性と見ればすぐに声をかける軽薄な男だと?」


 柔和ながら少しだけ意地悪く笑んでマティアスがそう言ったのでアンナは慌てる。


「そ、そういう事じゃないけど、あの、顔がお広いって……」

「有力者には媚び諂って取り入ろうとする下賤な男だと」


「違うって……そ、そんな事は……」

「いいんですよ。どの様に噂されているかは分かっているので。概ね間違ってはいませんし」


 マティアスは麦畑の方へ顔を向けた。


「私の家は新興の貴族で、元は農家でした。兵が不足する程の激しい戦時下の当時、曽祖父の代に民間から志願して従軍し、戦果を認められて準男爵を叙爵されたのが始まりです。

 相当に激しかった戦争だと聞いていますから、ただの農民が本当に著しい戦果を上げられたのかは今となっては眉唾ですけどね。平和にはまだまだ遠い中で、生き残った兵の士気を上げる為だったのかも知れませんね。

 ともかくも、それから祖父の代、父の代と頂いた恩賞でどうにか今の地位まで成り上がって来ました。けれど皮肉な事に平和になって戦争と共に恩賞も無くなると、頂いた領地も元の農地とその周辺を少しばかりでしたので、騎士として領主として自活するのもギリギリで。自分達で畑仕事をする程ですよ。

 だから私は支援して下さる方を見つけようと、あちこちで繋がりを作る為に奔走してるんです。あわよくば高位な家柄の女性と結婚を、有力者に可愛がられようと、ね」


 マティアスがニコッと笑った。アンナはそれを見て何故か胸が痛む。


「……そんな風に、自分で言うことないわ」

「本当の事ですよ。全ては今の地位を守るため。噂通りの賤しい身です」


「貴方の全てを知ってるわけじゃないから、そうかも……知れないけど……でも少なくとも、あの、もやし伯爵に対してはそうじゃなかったのを私は知ってる。損得も利用云々も全部置いといて、貴方はただ純粋にあの人達の事を好きになって、何の思惑もなく素直に手助けしてあげてた。

 今日のデカい騎士にもご令嬢方にもそう、ずっと付き合ってあげて。いくらメリットあってもあんな面倒臭いこと普通だったら出来ないわ。それに向こうが利用しようとしてるって丸分かりだった時でも気にせず手を貸してあげてた。

 貴方はずっとそういう助けを求めたり、手を必要としてる人達を支えてた。そういう優しい人なんだって、知ってる。だから、噂を気にしてそう言ってるなら……きっと違うよ。貴方はとっても優しいだけ。私はそう思う」


 聞こえてくる言葉に、突き刺さる視線に負けて卑屈になった自分と何処か重ねたのかも知れない。でもそんな事無いのだと、誰か一人でも言ってくれれば前を向ける。アンナにとっての姉の様に誰か一人でも知っていてくれれば。そう思って彼に伝えた。


 マティアスはほんの少し嬉しそうに微笑んだように見えた。


「……騎士らしい、ですか?」

「とっても。困ってる人を助けて女性に優しいのが騎士でしょ? なら貴方は騎士の中の騎士よ」


 ふふっとマティアスが笑った。

「貴女の言葉は本当に、この胸の靄を一瞬で晴らしてくれる」


 マティアスはまた麦畑に目を向ける。


「曽祖父の時代、この国のあちこちも焼け出されたそうです。村も家も、やっと育って収穫を待つ作物も全て、辺り一面焼け野原になった。

 それを見て曽祖父は立ちました。ここをまた緑や金色で埋めるには、この戦争を終わらせて平和を勝ち取るしかないのだと。

 そうやって平和の為に戦って、祖父も父もその意志を継いで、今やっとこうして平和が広がっているのを見渡せる」


 アンナも金色に輝く平和の象徴を見渡す。


「私もその意志を継ごうと、父達のように騎士として立派であろうと思っていたんです。だけど考えるんです。平和を手にした今、騎士であるとは何かを」


 マティアスはアンナに向き合うと少年のように笑って言った。

「私が騎士であろうとする本当の理由を聞いて頂けますか?」


 普段は感情を出さず穏やかで余裕のある笑顔のマティアスが、急に無邪気に笑ったのでアンナはドキッとした。

「う、うん」


 マティアスは礼を言う代わりに微笑んだ。


「もちろん、意志を継がなければという気持ちはありますよ、だけど本音を言えば、憧れてたからなんです。騎士物語や宮廷ロマンス。物語の中に出て来る騎士の姿に」

「……お話の、騎士」


「そうです。礼節を重んじ弱きを助け、もどかしくも尊い宮廷風な恋愛をして、敵と勇敢に戦う。それこそドラゴンなんかと」

「意外ね、でもロマンチストはそこから来てるのなら納得」


「そんな騎士になりたい、だから騎士であらねば。そう思って生活するにギリギリでも今日までやってきました。でも、もう騎士を続けることに意味はないのかも知れない。この国には再び見渡す限り平和が広がり、私は騎士を辞めても憧れたものになれるのだと気付いたから」

「辞める?」


「メレディアーナ」

 マティアスは近付いてアンナの両手を握った。あまりにも自然だったから、アンナはぼーっとその動作を見てしまって避けようとも思わなかった。


「我が領は狭く、いずれ今ある物も維持し続ける事が難しくなるでしょう。恐らく費用面で騎士を辞める事になる。ともすれば領主の座も、領地や爵位自体も……そうはならないよう努力しますが。でもそれが何だと言うのでしょう。曽祖父が、祖父が父が目指してきた平和は今ここにあります。もう武器を取る必要が、騎士である必要がない」


 マティアスは麦畑に似た色の瞳でアンナを見つめている。


「騎士に憧れて騎士でありたかった私ですが、例え辞めることになっても、騎士であり続けられると貴女が教えて下さった」


「え……と」

 琥珀色の中の漣のような煌めきに、アンナは急に今まで忘れていた事を思い出す。これはマティアスとのデートイベントで、きっと告白シーンが訪れるのだと。


 じわっと身体が熱くなってきて鼓動が段々速くなる。意識が触れ合っている指先に集中して目はマティアスの瞳から離れない。


 どんな顔でどんな風に、あれこれと思っていたが、そんな事考えられないくらい心臓が大きく鳴っていて、ただ目の前のマティアスを見返すだけで精一杯だ。


「力が無くとも、称号や地位が無くとも、礼節を重んじ弱者を助け、愛する人を守る。騎士としての振る舞いと心を忘れなければ、騎士であれると貴女が言ってくれた」


 マティアスはアンナを真っ直ぐ見つめて優しく微笑むと、アンナの両手を握ったままゆっくり地面に片膝をついた。


「言葉となって差した貴女の光が、私の騎士の心を照らし出してくれた。光の妖精、どうか私を貴女だけの騎士でいさせて欲しい。貴女の側であれば、この先もどんな時でも騎士たりえる。

 この胸の騎士の誇りにかけて貴女だけを愛し、守ると誓います。メレディアーナ、私と結婚してください」


 軟派でモテる優男が『貴女だけ』という言葉を口にする。そして跪き求愛している。


 見て分かる通りトゥルーエンドが確約された心からの愛の告白だった。


 他の3人の時とは違い、されると分かっていたのだから多少は余裕を持って受け取れると思っていたアンナだったが、寧ろ一番何も考えられないくらい頭の中が熱かった。


 金色の麦畑が眼下に見渡せる今までで一番美しいシチュエーションだからだろうか、それとも……と考えるが、とにかくクラクラしてくるくらい頭の中が熱いのでそれ以上考えられない。アンナが真っ赤な顔をしてただただマティアスを見返していると、マティアスがふふっと笑った。


「こんな情けないプロポーズをされても困りますよね。これから職も地位も何もかも無くなるかも知れないなんて。自分でも驚いていますよ。こんなこと言うべきで無い」


 立ち上がって土を払うとマティアスはアンナに笑いかけた。


「でも、貴女には全てお話してその上で私を選んで頂きたかった。嘘偽りなく正しく生きる騎士の心の証明として」


 マティアスは立ち尽くして黙ったままのアンナの頬へ手を伸ばす。ただでさえ真っ赤で熱いのに、マティアスの手が触れた頬がより熱くなってアンナはビクッと身体を揺らした。


「メレディアーナ、お返事は今でなくて結構です。だけど私はあの舞踏会で貴女を見つけます」


 マティアスは身を屈めて顔を近付けながら、頬に触れている手と反対の手でアンナの身体を引き寄せる。


「必ず見つけます」


 至近距離で琥珀色が煌めいて、前髪が鼻先が微かに触れ合う。倒れそうなくらい熱いのに、抱き寄せる力が思ったよりも強くて逃げることも出来ない。


「だからもしもその時は、どうか私を選んで……」


 マティアスの顔がほんの少し傾いて、予感がしたアンナは目を閉じる。


 そして仮に抱き寄せられていなくても、きっと同じ事をしただろうと思った。ダメだと思う自分がいないくらい、もう思考が熱に溶かされているのだから。


 けれど目を閉じていても唇が触れると分かった瞬間、マティアスが呟いた。


「……辞めておきましょう。これは騎士としてフェアじゃない気がする。選ぶのは貴女なんですから」

 

 アンナはその言葉に弾かれたようにバチッと目を開けた。目の前でマティアスが笑っていて、今まで無抵抗で目まで閉じて、キスを期待していたみたいで急激に恥ずかしくなったアンナはグイッとマティアスを押し除けた。


「近い!」

「これは失礼、貴女が真っ赤で可愛いものだからつい」


 にこにこと普段通りの笑顔で言い慣れていそうな台詞を述べるマティアスにアンナはまだ赤い顔を顰める。


「結構です、そういうの!」

「怒らないで下さいメレディアーナ。本当のことですよ。可愛いと思っているのも、先程の愛の言葉も本当です」


「——っ、だから……」

 本当だと分かっているので改めて本人から言われると言葉に詰まる。


「愛していますメレディアーナ。だからどうか、ゆっくり考えて選んで欲しい」


 再度の告白にアンナが赤い顔で下を向くと、風が吹いて足下の草を揺らした。


「……戻りましょう。そろそろルパートも落ち着いた頃でしょうから。大丈夫、もう何もしませんよ。騎士に二言はありません」


 にっこり笑って手を差し出されたが、アンナがそれを取らないでいると、また自然にするんと繋がれて馬車まで連れて行かれた。


 馬車の中では先程の言葉通り、マティアスは何事もなかったかのようにピオヘルム伯爵とレイチェルの婚約と結婚の話を街に着くまで続けてくれたが、アンナの頭の中は熱に溶かされたままで何も入ってこなかった。

ちゃんと丘に名前付けておけば良かったかな……でもゲームの中の地名だしと言う謎の落とし所


お読みいただきありがとうございました。

もうずっとこんな事書いてって思う自分がいて恥ずかしくて辞めちゃおうかという気持ちになるんですが、読んで下さっている方がいるからみっともなくても最後までやろうという思いでやっています。

お付き合いくださっている方々、本当にありがとうございます。



※多分間違ってた単語をこっそり修正しております。お恥ずかしい

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰も邪険に扱うわけでもなく一人一人丁寧に話が作ってあるのが素晴らしいです。 [一言] ここまでずっと読んできました。最後まであともう少しだと思いますので突き進んでください!自分も最後まで読…
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