五十話 ルパートに感謝しなければ ②
モブ達よありがとう(訳:ノープランでした)
前回のあらすじ——
コルにお礼も言えたし、よし! と思ったけどめっちゃ悩む!
実質三十路と言えど恋愛初心者にあと1週間足らずで結婚の可否まで判断しろは無理あるっしょ!
誰かに相談できたら良かったけど……唯一なんでも話せるコルにも簡単には会えないし……はぁ
悩んでたら来客だって。友達居なさすぎてコルのこと口にしたらねぇねに驚ろ喜ばれた事のある私に? 誰だろう……って、白と、隣にいるのはゴリモブ!
ところで本編でもゴリモブって叫んだのはミスったと思ってるわ。何故ならあらすじでふざけて呼んでたあだ名だから、すっ飛ばしてる方々にはなんのこっちゃだからよ。この場を借りてお詫びします。と思ったけどすっ飛ばしてる方々には永遠に伝わらないわね、だってすっ飛ばしてるんだもの。だけどここは別に照れ隠しと心根のふざけた部分の昇華に使ってるだけだから飛ばすのがセオリーだと私も思ってるわ。正しくてよ。そしてもしかして読んでくれている方々、貴重なお時間を本当にありがとうございます。
と、話は逸れたけど、ゴリモブってば大声で殺戮マシーン達のスイッチ入れようとしないで! 謝罪とかももう結構ですから!
って何度も言ってるのに情緒不安定すぎて話全然聞いてくれてない……それ不安定じゃなくて性格じゃね?
ずっと付き合ってあげるなんて白も本当に人が良いわね
「あの後ピオヘルム伯爵とレイチェル嬢が正式にご婚約なさって、年内にはご結婚される事が決まったのですが、ご存知でしたか?」
「そうなの? 良かったぁ! 2人が元に戻れて」
「その際には是非メレディアーナ嬢にも参列して頂きたいと仰られていて、書簡も送られたと聞いていたんですが……まだお届きではなかったようですね」
「手紙……あー……そうね、遅れてる……のかな」
アンナはサイドテーブルの上で積まれたままの手紙の山を思い出す。多分あれのどれかだ。
「近い内に改めてお礼もかねて会食でも、と言うお話も……ああ、そうだ。その件に関して積もる話もありますし立ち話も如何かと思いますので、何処か場所を移しませんか? ルパートもまだ謝罪し足りないと言うことですし、メレディアーナ嬢がよろしければ」
そう言ってにこっと笑いかけてきたマティアスに、いつもは感じない圧をうっすら感じたアンナは断る口実も見つけられなかった為仕方なく頷く。
面倒だが構わないと言った手前、安定しないルパートをマティアスに放り出すのも心が咎めたのでもう少し付き合うか、と。
「構わないわ、用事もないし」
「それは良かった。では、我々の馬車へ。ゆっくりお話出来る場所まで参りましょう」
「え、あ、ああ……馬車」
そんな遠出をすると思ってはいなかったが、用もないしまあいいか、とアンナは連れられるまま通り沿いに待たされていた馬車に乗り込む。そして、ふと気付く。
「ねぇ、これ3人乗れるの? あの人大きいし……」
座席に着いてから、続いて乗り込んで来たマティアスを振り向いてそう聞いた時、ルパートを外に残したままパタンとマティアスが馬車の戸を閉めた。
「え」
そして戸の小窓から、アンナと同じく状況の飲み込めないといった顔をして歩道に立ち尽くしているルパートに向かって呼びかける。
「ルパート、多分これが今、君に出来る最大のお詫びだと思うよ。後で迎えに来るから広場で待ち合わせよう。じゃあ馬車借りるね」
爽やかな笑顔で未だ立ち尽くすルパートに手を振って、マティアスは馬車を走らせた。
「ちょ……置いてっ……」
驚くアンナに座り直したマティアスが涼しい顔で笑って言った。
「あれ? まだルパートと話したかったですか? 面倒だと顔に書いてあったとお見受けしたんですが……勘違いでしたか?」
また顔に出てしまったか、とアンナは口元に手をやった。
「あのまま一緒にいると彼が納得するまで謝罪に付き合わなければ終わらなかったでしょうから。少しの間放っておけば落ち着きを取り戻すでしょう。すみません、結局付き合わせてしまって」
詫びるマティアスの柔和な微笑みが狭い馬車の中では間近にあって、アンナはあのガーデンパーティーを思い出して左頬が熱くなった気がした。
「けれど、良かったです。あの日の事でお怒りになっているのかと思っていたので、そうではなさそうで」
「怒るなんて事は……怒られたのは私の方で……」
撫でられた頬がやっぱり熱い気がしてアンナは手を当てる。
「その事で気分を害されているのかと思っていたんです。エストレラ城の社交会でも、歓談の機会を持って頂けませんでしたから。尤も、あれはクロード卿のせいかもしれませんが」
マティアスの口からクロードの名前が出て一瞬だけピリッとしたものを感じたアンナは、彼に向けていた顔を横向けた。
「ただ、先程のお話を聞いて杞憂だったのだと分かり安心しました。まだ手紙はお届きでないかお読みになっていないだけで、無視された訳ではなかったんだと」
「……無視?」
「私からも手紙をお送りしたんです。改めてゆっくりお話する機会を頂けないかと、ピオヘルム伯爵のご婚約の件を添えて。けれどその件をご存知でなかったので、読んだけれど無視した訳では無いのだと分かりました」
アンナはふたたびサイドテーブルの手紙の束を思い出す。オリジナルで言うところのデートの申し込みらしき手紙があったことは認識していた。けれど返事をしなければデートイベントに突入しないと思っていたからそのまま放置していた。
ただ、よくよく考えてみればエドゥアルドの図書館にしても直接誘われているし、ライオットとジェレミアに至っては恐らく街ブラした事とジョストを観戦に行った事がデートにあたるイベントだったようで、どちらも手紙などもらっていないし当然返事など出していない。それでもイベントが進んだのだから、手紙だけを無視していても意味がないのだと気付いて、アンナは、はたと思い至る。
(あれ……じゃぁ、今のこの状況って……)
チラッとマティアスを見ると優しく微笑んでアンナを見つめていた。
「ルパートに感謝しなければ。意外とお思いかも知れませんが、気にしていたんですよ。貴女の瞳にもう私を映して頂けないのかも知れないと思って」
マティアスの琥珀の瞳にアンナが映る。きっとアンナの薄緑にもマティアスが映っている。
「だからこうして、また向かい会うことが出来てとても光栄です。応じて下さってありがとうメレディアーナ嬢」
(やっぱりそうかも……これ、デートだ)
にっこり微笑んだマティアスにそう思ってアンナは明確に左頬が、果ては顔全体が熱くなるのを感じた。
「お、応じてって……だって、あの人を落ち着かせる為にってそれだけで……」
これ以上見ていると隠せないほど赤くなってしまいそうだとアンナは顔を背けた。
「お嫌でしたか? 本当は手紙をお読みになっていて、その上でお返事を頂けなかったのでしょうか」
マティアスはそのアンナの顔を覗き込む様に顔を近づけてくる。
「私とこんな風に2人きりで、触れ合ってしまいそうな距離で隣り合うのが、本当はお嫌でしたか?」
2人きり、触れ合う等のワードをわざと使っているのだろう。言葉で聞かされると意識しだしてしまう。2人乗りの車内は狭い。彼の言葉通り少し動けば触れ合ってしまいそうなのに、マティアスは覗き込むように身体を寄せて来る。
「メレディアーナ、もしお嫌ならどうぞ仰って下さい。そうすれば今すぐ馬車を止めて私はここで降りましょう」
少しでも距離を取ろうと奥の壁側へ身を捩るが、マティアスがそれを追うように距離を詰めてくる。とんっと、片手をその奥の壁に付いて、マティアスはアンナを座席の隅に追い詰める。
「どうぞ仰って下さい、お嫌ですか?」
壁側へ背けようとするアンナの顔を、下から覗き込むように軽く身を屈めたマティアスは試すように訊く。優しい声を発する笑みを浮かべた唇と、一瞬たりともアンナから目を離さない琥珀色の眼差しの強さが対比して心の奥の動揺を誘う。
「そ……こまで……は」
「でしたら何でしょう? 嫌でないのなら……何ですか?」
これ以上逃げ場が無いのに、尚も近づいて来るマティアスの整った顔に耐えきれなくなってアンナはぎゅっと目を瞑った。
そのせいで視覚を手放した分だけ鋭敏になった頬に、マティアスの指先が触れたのがはっきりと感じ取れてしまった。奇しくもあの時と同じ左頬で、あの時の熱と鼓動が戻ってくる。
「メレディアーナ、どうか仰ってください。今なにを思っているのか。貴女のお心が知りたいのです。私をどう、想っているのか」
耳元で囁かれた思考を溶かす優しい声と、頬に蘇ってきた熱に浮かされて、思わず何かを口走ってしまいそうになった時、ガタンッと馬車が止まった。マティアスはチラッと馬車の前方を見て、くすっと笑った。
「……残念、着いてしまいました。降りましょうメレディアーナ嬢、いつまでも窮屈な匣の中にいると身体が凝ってしまいます」
そう言ってマティアスは先に降りてアンナへ手を差し伸べる。
(何が……何が残念なの……何がっ……)
動揺も頬の紅潮も治まらないが、いつまでも馬車の中にいる訳にもいかないので、アンナは言われるがまま差し出された手を借りて馬車を降りた。この先で告白シーンが待っていると知りながら。
取り戻そう感。
本当はこの次の話もここに入っちゃう筈だったんですが、思ってたより膨らんだのでちゃんと一話として作りました。よってこの世界滅亡までの話数が一話分伸びました。
お読みいただきありがとうございました。




