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四十七話 分身みたいな友達の話 ①

微妙な長さで流れ的には割るべきじゃない気もするけど割ってます


前回のあらすじ——


さあ! 落ちましょうねぇね! めくるめく百合の花園へ!

……

………あれ、ちゅぅは? ちゅぅする流れじゃなかった? ちゅぅって作法があるの? だとしたら習った覚えないわ、どうなってんのよこの国の教育は!

見ればねぇね泣いてるし、それすらも美しいんだけど。あぁ鼻血止まんないっ!

って、え? 嘘でしょ、百合が急速に萎れて枯れて散っていく! 

待って待っていいんだって、私はねぇねの影として生きるのが正解なんだから対等なんて不相応なの。

そう思って生きてきたけど、ねぇねはずっと心配してくれてたんだね。

眩しすぎて見えなかったけど、やっと見えた気がする。

ねぇね、大好き

 まだ若干の腫れの残る目蓋を擦って目覚めた朝は、昨日よりも空が青く見えて気持ちも晴れやかだった。


 ずっと抱えていた物をリーナに吐露出来たことで胸が軽い。あの雨の夜のコルの言葉がやっと分かった。


『どうぞ貴女もご自身と向き合って下さい』


 自分の中から生まれてくる責め立てる声から逃げて逃げて、やっとここで向き合い、立ち向かえた気がする。


「戦う、とはちょっと違うけど、自分をやっと受け入れた気持ち」


 アンナは一人呟いて、よしっとベッドから起き上がる。自分を否定していた自分とは向き合えたが、それを受け入れられた今、もう一つ向き合わなければいけない物がある。


「……もう影に逃げようとしない。ちゃんと、向き合って考える。これは現実で真剣な、私に向けてくれたものだから」


 雲ひとつない青空に、立て続けに受けたあの3人からの求愛へ向き合う決意をした時、コンコンッとドアがノックされてリーナが顔を覗かせた。


「おはよう、アンナ」

「おはよう、お姉様」


 昨日は2人して泣いてしまったので、落ち着いてから改めて顔を合わすと少し気恥ずかしい。リーナも同じなのだろう、心なしかちょっぴり照れているように見える。


「ねぇ、週末にお母様の所へお見舞いに行くでしょう? お花以外にも何か持って行こうかと思って……市場に探しに行かない?」

「いいアイデアね! 行きましょ!」

「じゃあ、支度するわね。朝食が終わったら行きましょう。後でね」


 リーナがドアの向こうに消えたのを見て、アンナは昨日の事を思い返す。


 リーナと双子は別人だけれど、昨日のあの言葉は双子の気持ちでもあるのだと不思議と思えている。何をするにも何処に行くにもずっと一緒にいたのに、卑屈になった杏奈が急に離れて暗く影に沈んでいくから、あの姉達も引き戻そうとしてくれたのだと、今ならそう思える。


 何故か、と言われれば妹だから分かる、としか言えないくらいの感覚だが、疑うのも失礼なくらい愛されていたのだと、重ねた時間と向けられた笑顔で自信が持てていた。


「向けられていたものにちゃんと向き合えたから分かる。だから、ちゃんと、ここでも向き合わなきゃ」


 アンナは今一度そう決意してクローゼットを開けた。

 


「食べ物の方がいいかしら? ほら、初夏ぶどうもそろそろ終わりの時期だからその前に……」

「ならワインにすればいいわ、今しか飲めないんだもの」

「アンナ、それは貴女が飲んでみたいだけでしょ、懲りないのね」


 くすくすと笑いあいながら、お揃いの髪飾りを付けて姉妹は市場を物色する。あれもこれもと手に取って、いつの間にかお見舞いの品よりも自分達の品を選ぶ事に一生懸命になっているが、並んで笑い合う二人は明るく穏やかな空気に包まれていた。


「ダメね私達、見て?」

 リーナは荷物持ちとして付いて来ている従者を振り返る。


「本当だ、お母様への贈り物この中にある?」

 アンナも振り返って従者の抱える大荷物を見て吹き出す。


「……ちょっと、落ち着いて何にするか考えてからにしましょう」

「そうね、一旦休憩してお茶にしましょう。これ以上はお父様に流石に怒られちゃう」


 姉妹は一旦市場を離れ、ティールームのある広場へ向かった。


 休日の広場は市場もそうであったが人通りが多く賑わっていた。平地よりも少し高台にある広場からは、幅の広い緩やかな階段の下に運河の煌めきが臨める。露天を覗きながら数ヶ所あるティールームの何処にするかを話し合い、何気なくその煌めきに目をやったとき、ふと、アンナの目にそれが止まった。


「あ……」

「どうしたのアンナ?」


 階段下に目をやって足を止めたアンナにリーナが振り返った。


「お姉様、私ちょっと行って来てもいい? 直ぐ戻るから……話してきたい人がいるの」

「話したい人……? 分かったわ、先にお店に入ってるわね」


 リーナはそう言って快く送り出してくれた。多分昨日までの姉であれば守護天使の顔をして相手の事を追求して来ただろうが、アンナの心の蟠りが消えたのと同じ様に、リーナの心に巣食っていた不安も消えたようで今は穏やかに微笑んでいた。


「ありがとう、いってきます」

 アンナはそう言うと広場から運河沿いの通りに続く階段を駆け下りて行った。

 


「……何してるの? また観光?」


 階段下の通りで運河を眺めていた人物に、背後からアンナはそう問いかけた。急に話しかけられたその人物は、ピクッと一瞬身体を固くしたがすぐに振り向いた。


「……アンナ」

 金髪を揺らして振り向いたのは後ろ姿が雪だるまのようなコルだった。


「買い物するならこの上の広場か市場の方に行かないと。もしかして迷ってた?」


 アンナは話しながらコルの隣に並ぶ。コルはどこか哀しそうな顔をしてアンナを見ると、運河の方に目を逸らした。


「……いえ、迷っては……。今日こちらへは、貴女にまた会えるのではないかと思って来たので……先日の事を謝りたくて」

「……なら良かった、会えて。私もあの星見の会のこと話したかったから」


 アンナがそう言うとコルがこちらに身体ごと向き直った。


「アンナ、あの夜の事は申し訳ありませんでした。貴女を追い詰めるような事を延々と……事情を良く知りもせず、分かったような事を……」


 コルは詫びるように下を向いたので、アンナは軽く手を振って謝罪を遮る。


「いいの、謝らないで。物凄い刺さり方したけど……コルに言われた事は全部その通りって感じだったから」

「いえ、謝らせて下さい。きっと貴女を傷つけたことでしょうから。貴女はあの日とても落ち——」

「だから、良いんだってば。コルに言われたから私——」

「良くありません。まだお若い貴女にあのように、その上落ち込まれていたのに更に追い討ちをかけるような真似——」

「良いってば、私は逆に——」

「いいえ、年長者故の倨傲か貴女の事情も考えずに、言えた立場ではないのにあのように偉そうな事を並び立てて貴女を追い詰め——」


「いいって言ってんでしょ! 聞きなさいよどいつもこいつも! そういうところが融通利かないって言ってんのよ!」


 終わらない押し問答を一喝して止めたアンナに、コルは心底吃驚した顔で固まってから少しして笑った。


「そう、ですね。こういうところが、融通が利かないんですよね」


 アンナもそれを見て微笑んだ。


「そうよ、頭固い親父みたい。いくつなの?」

「22です」

「あ……意外とそんなに年上。てっきり同じくらいかと……」


 アンナは自分より少し背の低いゆるキャラの様なコルをまじまじと見た。とても年上には見えないし、年齢という概念の範疇外の存在にも思えるフォルムだ。コルの方がよっぽど妖精だな、とアンナは思う。


「そうです、結構年上なんです。それなのにあんな……」

「また始める気? もういいんだってば。そりゃ、あの時はへこんだし、そんな事言われてどうすればいいのって思ったけど……」


 コルは眉根を寄せて申し訳なさそうな顔をしたのでアンナはふぅっと一つ溜息を吐く。


「ねぇ、友達の話していい? すっごく近い存在で自分の事の様に思っちゃう、分身みたいな友達の話」

何があったわけでも無いのに急に心が折れかかって危うく全部消す所だった。他の物に着手して心が落ち着いたので今頑張って話を畳んでいる所です。もう追いつかれたので次々話からは出来次第になる予定です。

次話は充電したら(スマホ)更新予定です。


お読みいただきありがとうございました。

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