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四十話 それは親愛度がMAXの証 ②

いつもより短いです。空間把握能力もないので建物の構造はまだ良く分かってないです。


前回あらすじ——


あれから3日経つけどずっと凹んでる。

世界どころか考え方もひっくり返されてぐぅの音も出ない。

答えの出ないことまで聞かれて、あいつマジなんなの小難しいバランスボールね

ねぇねがずっと心配してる。ごめんね

ジェレミアもありがとう

でもあんたそれ気付いてないだろうけど、橙の迂回路として使われてるわよ

けど、心配してくれてるのは本当のこと

 迎えの馬車に乗って、王城の敷地内に造られた小さなコロッセオを思わせる競技会場へ向かうと、関係者だろう人々が、円形の会場を囲っている、石壁の上部に設えられた観戦席に既に着いているのが多数見えた。


「ここ普段は訓練場なんだって。トーナメントは大きい会場使うんだけど、今日は騎士団だけだからここなんだって」


 ライオットから聞いたのであろう話を嬉々として話すジェレミアの横で、アンナは早くも来た事を後悔しだす。ここまで来てしまった以上ライオットのシナリオが進んでしまう。


 進めてどうするのだろう、とそればかりが頭をもたげて引き籠もっていた方がマシだった気がしていた。残りの数日を引き籠もって最終日にも誰も選ばず、主役という現実から逃げた方がいい気が。


『何から』


 またコルの声が聞こえてアンナは頭を振った。


(別にオリジナルでだってこのイベントで何があるってわけじゃないし、こっちでもその筈よ。ただ黙って観戦すればいいだけ、何も進んだりしない)


 そう言い聞かせて観戦席に向かう姉の後をついて行くと、グイッと後ろから腕を引かれた。


「アンナ、まだ始まらないからライオット卿の応援に行こう」

「え……いやよ、無駄に接触したくない。大体待機中の所に入っていいわけないでしょ」

「入っていいって言ってたもん。仮にダメでも俺は将来騎士団に入るんだから許されるね」

「どっから来んのよその自信は……ちょっと引っ張んないで」

「一人で行くのは緊張するんだよ……アンナぁ、だめ?」


 お決まりの上目遣いでアンナに媚びるジェレミアに、またこのパターンかと思いながらも、やっぱり潤んだ深緑の猫目に絆されてしまうアンナは渋々承諾する。


「リーナ姉、ちょっと行ってくるね」

 ジェレミアには甘い顔をする天使は、すぐ戻るのよ、とこちらに向かって手を振って、ジェレミアの連れて来た従者と共に席へ向かった。


 アンナはジェレミアに手を引かれて登りかけた階段を降りて、会場に隣接する控え室へ向かう。


「なんで私が……」

 ぶつぶつ言いながらノロノロついていくアンナに、ジェレミアが振り向いて笑った。


「良かった、アンナ元気になった」

 不意に見せられた美少年の笑顔にアンナはドキッとして、すぐに目を逸らした。


「心配してたんだ。あれから元気ないって聞いてたから、側に居なかった時に何かあったのかって。一人にしてごめん」


 彼氏づらをヤメロ、と言いたいのを飲み込んで、アンナは一応の礼をする。


「……心配してくれてありがとう。でも何にもないわ。何か気にしてるなら離れたのは私の方からだし、あんたのせいじゃない」


 そもそもお前に関係ないという言葉も飲み込んで、一旦会場の外に出たアンナ達は裏手に回って、関係者と思しき人が出入りしている通路に入った。少し行くと開けた空間に出て、そこで重そうな鎧を纏った騎士たちが家族と談笑したり叱咤激励されて、競技会開始までの時間を過ごしていた。


 ジェレミアはしばし部屋を見渡して、ライオットがいないと分かると、一人椅子に腰掛けていた騎士に居場所を尋ねて、教えられた別の部屋へ続く通路へアンナを連れて行く。


「会う約束してたんじゃないの?」

「約束はしてなかった」

 これだから子供は、と三十路のアンナはイラつく。


「ねぇ、もう戻らない? 始まっちゃうかも知れないし、約束してないんでしょ?」

「約束って言えばさ」


 ジェレミアが不意に立ち止まった。通路には窓がないので等間隔に取り付けられたランプの明かりのみで昼間であっても暗めだ。


「アンナはどうしてあの日庭へ出たの? 誰かと約束してたの?」


 急に何を言い出すのかとアンナは訝しむ。


「別に……気まぐれよ。星も見えないし、お酒も飲めないし、だから散策」

「でもあの上着の持ち主とは会ってたんだろ?」

「会ってたって……偶然にね。あの人は神出鬼没なのよ」

「誰だよ? アンナの何?」


 誰、と聞かれてアンナは返答に困る。会っていたのはコルだが、上着の持ち主と必ずしも一致しない気がしている。あの手の大きさを思い出して、アンナはジェレミアと繋いでいない方の手で肩をさすった。


「……何でもいいでしょ、関係ないんだから」

「あるよ。アンナが変だったのはそいつのせいかも知れないから。だとしたら俺はそいつを許さない」


 強い意志の宿った瞳をしてジェレミアが振り向いた。


「アンナを傷付ける奴がいたら許さない。アンナを守るのは俺だから」


 その瞳にアンナは微かな焦りを覚える。


「何言っちゃってんの。いい加減、彼氏づら(そういうの)やめてよ」

「ふざけて言ってるわけじゃない。本気で言ってる」


 少しも揺るがない深緑の奥に宿る光が、アンナをさらに焦らせ、そして思い違いに気付かされる。これは、このイベントはライオットの変化球などではなく、


「ずっとそう思ってきた。俺はアンナが本気で好きだから」


 直球ど真ん中のジェレミアのイベントなのだ、と。


 そう気付いたが時既に遅く、アンナはどうすることも出来ずにジェレミアを見返すしかない。


「アンナはいつも明るくて元気でよく笑って、それを見てるとこっちまで明るくなる。はっきり物を言うし、口悪いし、俺の事3つしか違わないのに子供扱いするけど、それでも喧嘩になるくらい本気で話してくれるのはアンナだけだ」


 ジェレミアはそう言ってアンナに一歩近づく。アンナは反射的に一歩退く。


「だからその笑顔を曇らせる奴は許さない。それが誰であっても傷付ける奴がいるなら俺が盾になってアンナを守る」


 そのセリフにアンナの心臓が鳴った。


 ラブ・バーストは親愛度の溜まり具合で特定のセリフや行動が変わる仕様になっている。ジェレミアのこの『盾になって守る』は、鬼婆ことイザベラからの攻撃の盾になる姿と掛かっていて、トゥルーエンドを迎えられるだけの親愛度が溜まっていることの表れだった。


「俺はアンナより年下でそれはこの先も変わらないけど、背だってもうアンナより高いし、この先もっと大きくなる。騎士として訓練にも励んで頼ってもらえる様な男になるから」


 その言葉にあの星の夜を思い出す。一回りは大きい手、落ちかけたアンナを支えられるだけの筋力のある身体。この先の頼れる姿を予見させるだけのものは既に彼の中にあった。あの時の感情が蘇る気がして顔を背けたくなるが、深緑の瞳がそれを許さない。


「だからアンナ、こども扱いしないでちゃんと俺を見て」


 そう言うと繋がっていたアンナの手を両手で握り直して、ジェレミアはゆっくりと片膝を折り跪いた。


「アンナ、お前を愛してる。結婚して欲しい」


 跪いての求愛。それは親愛度がMAXの証。


この忙しい現代において最もと言っても過言ではないくらいその価値に重きを置かれている時間という資源の有効活用を意識し、かつ、否めない若干の唐突感を緩和させる為の魔法の言葉「テンポ」


お読みいただきありがとうございました。

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