三十四話 主役になんてなれない ②
ちょっと短めです
前回のあらすじ——
一人になって冷静に考えてみようと思ったけど雑念が凄すぎて全然まとまんないわ
どうしたらねぇねを主役に戻すルートが拓くのかしら……
世界の主役はねぇねの様なマブい女って相場が決まってるのにスカポンタン女神め
はぁ…………ガンガンガンガン!
うっさ、何? あ、いけね寝てたわ。世界がひっくり返っても平気で寝られる、覆らない欲深さに我ながら驚くわ
なんて言ってたら勝手に入ってきやが……ジェレミア! なんで!
乙女の部屋に勝手に入ってきた上にしてもいない約束の話をぐちゃぐちゃとうるさいわね
ってちょっと強く言ったら泣き始めちゃった。
はぁ……めんどく……え? まって、何この感情……これが、噂の、ショタ萌?
トゥンク
「アンナ、具合が悪いのにごめんなさいね、ジェレミアがどうしても話があるって……どうしたのジェレミア?」
泣いているジェレミアに気付いたリーナの驚きの声に、アンナはハッと現実に立ち返る。
「あ、違うの姉様、私は何も……」
「リーナ姉!」
アンナが言い終えるより早くジェレミアが泣きじゃくりながらリーナの胸に飛び込んだ。
「このっ——ジェレミア! あんたどさくさ紛れにお姉様に——」
「酷いんだよ! 聞いてよリーナ姉。アンナが約束破ったのに信じた俺が悪いなんて言うんだ!」
「はぁ⁈ してないでしょ約束なんて! あんたいい加減な事を——」
「こら、アンナ。もう立派なレディなんですから乱暴な言葉遣いはおよしなさい」
リーナはジェレミアを抱きしめて慰める様に頭を撫でながらアンナを窘めた。ジェレミアはくすんくすん泣いている。
「してないのにっ——」
「食い違いがあったのね、何のことで?」
鼻をすすりながらジェレミアが上目遣いでリーナを見上げて訴える。甘えモードだ。
「昨日の……社交会……。行くって言ってたのに。俺初めて参加するから不安だったけどアンナが居るからって思ってたのに……居なくて……」
「言っておきますけど約束はしておりませんのよ」
「そうだったの、それは不安だったわね。でも許してあげてジェレミア? アンナも昨日は疲れて体調を崩してしまって、仕方なしに参加を取りやめたみたいなの。
午前中に家庭教師と課外授業に出たはずなのに、何故か一人で騎士団の紋が入った馬車で帰ってきて、私も何があったか知りたい所なんだけど……今は身体の方が大事だから許してあげてね」
チラリとリーナが見開いたあの瞳でこちらを穿つように見たので、アンナはビクッと肩を震わせた。
自宅から離れた所で馬車を降りたはずなのに、守護天使にはまるっとお見通しのようだ。守備範囲が侮れない。アンナが苦い顔をしているとリーナはまたジェレミアの方へ視線を戻した。
「社交会はまた行けば良いじゃない? 今度は行き違いにならないようにちゃんと約束して。ね?」
「じゃぁ、明日のエストレラ城の星見の会に行く」
「——なっ、ちょっと勝手に!」
「あの城が解放されるのは半年に一度だものね、いいと思うわ。昨日の夜話会って経済の話とか難しい話に傾きがちだから退屈だったんじゃない? 星見の会なら広いテラスで星を見上げてお喋りする、きっと楽しい会になるわよ」
「お姉様までっ……」
ジェレミアのデレと媚びに籠絡されたか、堅牢なはずの天使のガードが下がって緩みまくっている。
年下の甘えたには流石の堅固な天使も甘い顔をしてしまうようだ。すっかり泣き止んだジェレミアは、はしゃいだ笑顔をもう見せている。
「そうなんだ、楽しみ! 早速父さんに言ってくる! アンナ、約束だからな、明日こそ破るなよ!」
「だから、そもそも約束してないって言ってるでしょ! 明日の事だって私は了承したわけじゃ……」
「リーナ姉も行くよね? 皆で行こう! 迎えに来るよ」
その言葉に固辞しようとしていたアンナは待て、と考え直す。
自分が攻略相手と接触を避ける事はこれ以上親愛度を高めない上で有効と思われるが、同時に妹について回る姉もまた接触が抑えられてしまう。これではライバル関係以前に、相手に好意を抱く機会も得られない。
さらにまだ手立てはないが、仮にリーナが主人公になるルートに突入出来た場合、姉と相手との親愛度によっては原作同様エンディングに差が出てしまうのではないだろうか、と危惧し始めた。
「でもここは既に別の世界線……禁断ルートがお姉様を主役に戻すものだとしても親愛度が必要になるのかは不明……。寧ろ奴らと私との親愛度を低めておいた方が、ライバルになる事を想定した場合有利に働きそうだから、私は会わず誘いに乗らずを貫いた方がいい気もする。ただルートを拓く方法も今のところ無くどの道全てが仮定の話……念の為にもお姉様を接触させつつ私が全てに逆張りしておけばあるいは……」
ぶつぶつと一人考え込んでいると二人の話は纏まってしまったようでリーナとジェレミアが同時にアンナの方へ顔を向けた。
「アンナ、じゃぁ明日迎えに来るからな!」
「あの城から見える星空は本当に綺麗なのよ! 貴女に見せてあげたいって初めて見た時から思ってたの。一緒に行ける日が来て嬉しいわ!」
「え、ちょっと待ってよ、私まだ行くべきか決めかねてて……」
訴え虚しく、翌日の夕方にはアンナはまた初日と同じくこれでもかとコルセットを締め上げられていた。
(結局……ジェレミアに泣き落とされて誘いに乗っちゃった。これで良かったものか……いや、あれから1日考え続けたけど禁断ルートの手掛かりも無いし、一か八かでお姉様を接触させてみるしかないのも確か)
また賭けか、と溜息を吐いた時、迎えが到着した事を侍女が報せにやって来た。
ついこの前まで出渋っていた事が嘘のように、リーナはアンナと参加出来る事が嬉しいようで、ニコニコと足取りが軽かった。対照的にその後ろを足を引き摺るように付いていくと、ジェレミアと叔父が玄関口まで迎えに来てくれていた。
普段は良いとこのお坊ちゃんといった服装でブルネットのサラサラの髪もそのままだが、今日ばかりはビシッと正装で前髪も軽く掻き上げた形にセットされて、心なしかいつもより表情も大人びて見える。
まだ青い果実のようにあどけなさの残る少年の、少し背伸びして大人の顔をしてみせる姿を実際に立体で見ると中々擽られる物がある。
「二人共綺麗じゃないか、これは放っておかれないな。さぁ、行こう。乗りたまえ」
叔父はそう言って馬車の下まで三人を連れ立っていく。後に続いたアンナが玄関を抜けようとするとジェレミアと目が合った。大人っぽく見えたのは一瞬で、どうだ、と言わんばかりに得意げな顔をして見せたジェレミアは普段通り小生意気で可愛らしい少年だった。
エストレラ城は元はエストレラ公爵の居城であったが、その公爵家が断絶した現在では、領地と共に城も国に接収されて管理が移っており普段は立ち入る事は許されていない。
ただ半年に1度この城は解放され、亡き公爵の趣味で集められた大量の星に関する本と資料の展示や観測会が行われている。
当初は学術的な色の強かった会だったが、趣味のために増改築した大きく広いテラスから見る星の綺麗さから、次第にロマンチックな婚活の場へと顔を変えていって、今では数ある夜会の中でも上位に食い込む人気を誇るパーティーとなっている。
既に賑やかな声の聞こえてくるそんな城の前に降り立って、ここまで来てしまったアンナは腹を括る。
(お姉様の為と信じて粛々とイベントをこなしてしまった今、この会場には攻略キャラが集結してる。接触を避けるのは正直難しい。ここはキャラ同士の相互作用を利用してなるべく親愛度を下げる選択を取りつつ、お姉様のルートへの手掛かりを探ろう)
ラブ・バーストがいまいち人気を獲得出来ない理由を挙げるとしたら、この相互作用による親愛度の増減が、電卓必須になるレベルで複雑かつ煩雑である事がその一つになり得るだろう。
というのも攻略キャラ同士の間にも知人やライバルと言ったような人間関係が存在しているこのゲームでは、1人と会話をすると残りの4人の親愛度にも多少なり影響が出る仕様となっている。
狙い以外のキャラにも色良い返答や無難な答えを繰り返していれば勿論のこと、例え一極集中で残りを無視していたとしても、ターゲットが無視した相手に対し尊敬等のプラスの感情を持っていると一緒にマイナスされてしまったりと、返答によっては相互に影響し合って思う通りに親愛度が溜まっていかないのだ。
増減の幅も固定値ならば対処も容易そうなものだが、最大値もしくは現在値から何%マイナスなど都度違ったりもするので、この非常に面倒臭いシステムとルール無視のボムの存在がコアなファンと一般ユーザーとの評価の間に深い溝を作っている。
コアファン視点で言えば、この点を上手に使って様々なエンドを引き起こす事がこのゲームの醍醐味なのだが。
(双子の気まぐれに振り回されてシステムに泣かされた事もあったけど、今夜ばかりは頼むわよ)
「アンナどうしたの? いきましょう?」
降りた場所から動かずに城を睨みつけていたアンナにリーナが言った。
アンナは無言でこくんと頷いて、初日の夜会とは正反対の気持ちでリーナの後に続いて階段を昇った。
陳腐な表現で何度見ても必ず笑っちゃうところがある
お読みいただきありがとうございました。




