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三十一話 クレープのせいにして ①

そろそろ佳境に差し掛かり始めているので、この辺りでもう一度

小学生〜中学生の間の、恋愛ってぇこんな感じだよね、きゃっ、こちょばぃ

程度な濃度でしかこの先も展開していきません。あしからず



前回のあらすじ——


ちょ、嘘でしょ、マジなの⁈ 主役が私⁈

そんなの許される訳ないでしょ! 世界の主役はねぇねって決まってるんだから!

ここ、テストに出るよ! しっかりね!

とにかくねぇねを主役に引き戻す、そのルートを探さなきゃ

何か、何か、何かないの⁈

ハッ! 魔法! そうよ魔法があるじゃない!

どんな理不尽もこいつがあれば、まぁ、仕方ないっかの免罪符が発行されんのが世の常よ。

さぁ、魔法ちゃん!私を救ってクレメンタイン!

って、その便利なツールをセンス皆無の私に着せ替えとして使えって⁈ なめてんのか! あーっ⁈ (本ぽいーっ)

いけない! ついつい急に暴力に走るキャラを毎回一人は作っちゃう心の淀みが私の中にも流し込まれていたなんて!

またあの本に殺される!

……あれ、生きてる?

虫?「ボソ、ボソボソ」 後ろからぎゅぅっ

え、嘘でしょ、ダメだってダメだって

これ以上されたらねぇねが主役に戻れないっていうかその前に私が限界

きゃーーーーーーーーーーっ!

 足が痛い。


 ローヒールとはいえ長時間歩くのには適さないお洒落靴で、王都から自宅まで馬車で1時間はかかる道のりを歩いて帰るのは流石に無理がある。


 しかも図書館で落下した時に多少なり脚を打撲しているのでより痛い。


 おまけにロングスカートのワンピースが跳ね上げた脚に纏わりついてただでさえ歩き辛いのに、レンガ敷の歩道は整備が甘く足を取られてさらに疲れる。アンナは溜息を吐いて街中で歩を止めた。


 直轄領の北西側に位置する図書館から斜めに南下して、王都の南側の商業地帯まで歩いてきたがそろそろ限界が近かった。


「なんでこんなことに……私が主役? 全然望み叶ってないよ……私は影から操る最強のモブキャラで良かったのに……女神のバカ」


 アンナは女子受けする焼き菓子がショーケースに並ぶ店の壁に寄り掛かってズルズルとしゃがみ込んだ。すでに昼近いので初夏の日差しが容赦なく照りつける。


「結局お姉様のルートに関する手掛かりないし……お腹も空いたしどうしたらいいの……このままじゃお姉様の幸せが……」


 アンナがまた溜息を吐いて頭を押さえた時、聞き覚えのある声に背後から呼び掛けられた。


「お嬢ちゃん、どうした? 具合でも悪いのか?」


 反射的に振り返ると、そこには可愛い紙袋を片手にライオットが立っていた。


(なんで……こんな所で……エドゥアルドとの図書館もそうだけど、アナザー版として一部新規のイベントが追加されてる?)


 そう思ったアンナはエドゥアルドとの先程の一連の流れを思い出して、かあっと赤面する。


「お、誰かと思えばサーヴィニー閣下の……顔が赤いぞ、具合が悪いのか? 待ってろ、今……」

「あ、あ、あ大丈夫! ちょっと歩き疲れで足が痛くて休んでただけだから気にしないで!」


 すぐにでも医者を呼びに走って行きそうな雰囲気だったライオットをアンナは大事にするなと慌てて止めた。ライオットはアンナと同じ様に蹲み込んで顔を覗き込んで来る。


「そうか……? 顔は赤いと思うがな……。馬車は何処に待たせてるんだ? 足が痛むなら呼んでくるか連れてってやるが」

「あー……それも、大丈夫。馬車には乗って来てない……から。ウォーキング週間って言うか……」


「歩いて来た⁈ 1人でか⁈ 往復何キロだ、そりゃぁ凄いな!」


 ライオットの驚き様にアンナは苦笑いする。この世界の貴族のご令嬢ともあろう者が何キロも徒歩移動するなど中々無いとアンナも思う。


「大声出してどうしたんだ? なんかあったの?」


 その時アンナが寄り掛かっていた店から出て来た男がライオットに声を掛けた。ライオットと同じ黄味がかった赤毛を逆立つくらい短髪に刈り込んだ切れ長の目をした若い男性だった。


「おぉ、リオ、買えたか?」

 リオと呼び掛けられた青年は急に恥ずかしそうな顔をして手に提げたゆめかわな袋を突き出した。


「俺を置いて急に出て行くなよ……恥ずかしかったんだぞ」

「すまんすまん、こちらのお嬢さんが蹲み込むのが見えたもんだから、ついな。だが御婦人への贈り物として堂々と買えば何も恥ずかしくはないだろう」

「俺には兄さんと違って羞恥心があるんだ。女性だらけのふわもこの店に入ること自体が恥ずかしい!」


(……ふぅん、ライオットの弟か。随分離れてるわね……なかなか硬派な感じでカッコいいしこっちが相手役でも良かったんじゃない? と思ったけど、オリジナルに弟の話出て来ないし、となるとホントは兄で40前後のおっさんなのか……)


 そう思うと複雑でムムッと顔を顰めたアンナを弟がチラッと見た。


「……で、そちらのご令嬢はどうされたんだ」

「ああ、足が痛んで歩けないんだそうだ。リオお前王城まで戻って騎士団の馬車借りて来てくれ、何でもここまで歩いて来たそうで」

「歩いて⁈ どこから……ともかく分かった。あっちの街道沿いで待ってて、すぐ戻る」


「え? いいです、あの……」

 言うや否やアンナが口を挟む前にファンシーな紙袋を兄に放って弟は街路を走り去った。


「おいおい、崩れちまうだろうが……」

「あ、あの……ありがとう、ございます。助けてくれて」

「いいんだ、いいんだ。お困りの御婦人を助けるのが騎士ってもんだからな」


 アンナが礼を言うと女性受けを狙った紙袋を2つ提げてライオットはニカッと笑った。


 もしこれがアンナの知らないイベントならば、助けてもらうという選択がどういった影響を及ぼすか未知数で関わりたくなかったが、反面もう一歩も歩きたくなかったので馬車を借りられるなら素直にありがたい。


 相反する感情にこれまた複雑な顔をしていると、突然身体が浮いた。


「は⁈ なに⁈」


 歩き疲れた脚が地面から離れてぷらぷら揺れている。見ればがっしりした太く逞ましいライオットの両腕が、アンナの両脚の下と背中にそれぞれ回されて軽々と抱きかかえられていた。そうつまり、お姫様抱っこだ。


「ちょ、なにしてっ」

「ん? 何って、川向こうの通りに移動するのに歩けないだろう?」


 言いながらライオットは人通りの多い道をアンナを抱えたままのしのし歩いていく。すれ違う人々が街中でお姫様抱っこされているアンナをチラチラ見るので恥ずかしさが込み上げる。


「い、いいっ! 下ろして! もういいから!」

「ん? おぶった方が良かったか?」

「歩けるから! 早く下ろして!」


 何故、と言う顔をしてライオットはようやくアンナを下ろした。アンナは衆目を集めた恥ずかしさと、急なお姫様抱っこに心臓がバクバク言っている。


(やだもう……そうだった、こいつがおっさんの癖に割と人気があるのは王子様気質だからなんだった。

 頭ぽんぽんにお姫様抱っこ……女子の妄想に出てくるシチュエーションをナチュラルにやるのよ。

 おっさんにされても……って思ってるうちに、白に見るキラキラ王道の王子様像とはまた違う、狙いに来たわけじゃ無い一歩引いて守ってくれてるかの様な保護者的安心感にやられ、おっさんの癖にスイーツ見るとキラキラしちゃう少年の様な無邪気さと明るさ全開の笑顔にノックアウトされるの)


 ふぅっとアンナは深呼吸して胸のドキドキを抑える。姉を主人公に戻す手立てを考えなければならない中、こんな所でダウンを取られる訳にはいかない。


「大丈夫か? やっぱり具合も悪いんじゃないか?」

「大丈夫。お腹が空いたくらいで至って元気」


 スーハーしながらアンナが応えると、ライオットが何だか嬉しそうな顔をした。


「そうか……お嬢ちゃん歩けるなら、ちょっと付き合わないか?」

「え?」


 応える前に手を引かれて——これもまた自然に——連れて行かれた先には、女性ばかりが並ぶ店構えが強烈にカラフルなクレープ店があった。


「いやぁ、流石にこれにおっさんが1人で並ぶのは勇気がなくてなぁ」

 早速列に加わりながら、ライオットは前にも聞いた様な事をニコニコ顔で口にした。


「……堂々と買えば恥ずかしく無いってさっき言ってたじゃない」

「女性への贈り物に装えれば、だ。確実に自分用だと分かる形で、しかも並ばなきゃならんのは流石に注目されるし恥ずかしいんだ。おっさんになると悲しいかな色々制約されるもんなんだよ」


「ふぅん……こんなに甘い物を愛してるんだから、気にしないで好きな物は好きって言えばいいと思うけど。甘党は別に変な事じゃないんだし」


「……そうだな。誰の目も気にせずにそう言える器の大きい男だったら良かったんだがな。デカイのは図体だけなんだ」


 そう言ってライオットは大きな声で笑った。人にはそう言っておきながら、アンナもまたそうは振る舞って来れなかったと思い当たる部分がある。


 キラキラのティアラやレースのブラウス、フリルのスカートにさらさらのロングヘア。


 子供の頃憧れたそれらは双子にこそ似合う物で、杏奈は比べられる事を恐れて手にすることはなかった。好きと言えずに興味のないフリをして自分を誤魔化してきた。


 人に言える立場じゃないなと自嘲していると、早くも2人の順番が来て色とりどりの果物がふんだんに使われたクリームたっぷりのクレープが手に入った。


「わぁ! すごい! これは美味しそう……ありがとう、買ってくれて」

「いやいや、こちらこそ付き合ってくれてありがとうだ。1人じゃ買えなかったからな」


 2人は早速クレープに齧り付きながら、運河に架かる橋を渡って指定された街道へと向かう。歩き食べとは何ともお行儀が悪いが、そんな事を気にしていられない程クレープが美味しくて、お腹が空いていたことも手伝ってハムハムと夢中で頬張った。


 ライオットも同じ様子で2人して橋の上でクレープにかぶり付いている。一時、エドゥアルドとの図書館の一件や置かれた状況を忘れ、アンナは至福の時間を楽しんだ。


「なんのフルーツかは全然わかんないけどこのクレープすっごく美味しい!」

「ああ! 甘いクリームに程良い酸味のフルーツがバランスよく入っていて最後まで飽きないな。生地に薄くビターチョコが塗って有るのも、微かな苦味で重くなりがちなクリームの甘さを軽やかにしている。最高のバランスだ」


 分析すご……とチョコになど気付かなかったアンナは驚く。伊達にスイーツ店巡りしているわけではないようだ。一口毎にキラキラした目をするおじさんに、アンナは思わず笑ってしまった。


「ねぇ、こんなに美味しい物、弟さんの分は買わなくて良かったの? 中々買えないんでしょ? あ、戻って来る頃にはデロデロになっちゃうか」

「いいんだ、あいつの分は」

「でもさっき一緒にスイーツ買いに来てたじゃない。甘い物好きなんじゃないの?」


 生地を一口齧りとってチョコの存在を確認しアンナはライオットを見上げる。


「あいつは甘い物は食べないんだ。今日はあの店の限定品の発売日で、数量限定なもんで1人1点しか買えなかったんだが、味が2種類あってな……どっちも手に入れたくて弟を借り出しただけで、あいつは甘い物は苦手な部類なんだ」


「ふぅん、自分は興味ないのに付き合ってくれるなんて優しいのね弟さん」


 アンナがモグモグしながらそう言うと、クレープに釘付けだったライオットがアンナを見て顔を綻ばせた。

自分で作って自分で照れてるって世話なくていいよねってフォローされたい


お読みいただきありがとうございました。

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