三話 ラブ・バーストはそういうゲーム
雑でも不自然でもリアルな設定がないと楽しめない類の創作物でもない
と主人公に保険を張らせている回
いえす!ふぁんたじぃ!
前回のあらすじ——
頭のねじ緩んでる系の女神によって転生させられた事を思い出した元杏奈ことアンナ。
自分らしく生きられる来世を願ったけれど、この世界ってもしかしなくとも……
そう! 生前愛して止まなかった乙女ゲームラブ・バーストの世界!
そして自分は美しい主人公フェアリーナ……の妹ほぼモブキャラのメレディアーナ!
え、主人公じゃないの? なにそれ?
最っ高じゃん!
美しい上に中身もつり合って優しく聡明でいて妹を愛してくれる、そんな姉の側でモブでいられる。
最っ高じゃん!(2回目)
はっ! ぬけさく女神、わかったわ!
私、この世界でこの身に唯一身につけた攻略スキルを駆使してお姉様をサポートする!
我、一度死して天命を知るなり!
それが、私の生き方よ!
アンナとリーナが生きる世界リーベルビューネには幾つもの国が存在する。ゲーム内で個々に触れられることはまぁ、ないのだが。
その国の一つエバーライン王国がアンナ達の住む国で、大国の一つに数えられる領土を誇る。その国を治めるエバーライン家の血筋は古く、神と人が共に暮らした神話の時代に女神の血をその身に賜わった神聖な家系なんだとかかんだとか。
その王家を治める3代前の王の4番目の弟がサーヴィニー領を賜った初代サーヴィニー家当主であった。それがアンナ達の高祖父であり、その血脈を継いでいるアンナ達は王家の血に連なる者なのだった。
話は少し戻って、リーベルビューネは愛と自由と祝福の女神が治める世界だが、決して長閑で朗らかなだけの世界ではなかった。
人同士国同士集まれば食い違い対立することもままあるわけで、小競り合いから武力衝突、侵略戦争などの時代も経ている。エバーラインも例外なく過去他国との戦争や数々の領地争いを経て領土を広げてきたのだ。優秀な騎士を幾人も有してきた王国は勝利を積み重ね大国と呼ばれるまでに成長した。
しかし時が流れると徐々に武力による制圧戦ではなく平和的解決の模索にシフトしていく。今日では衝突しても小競り合い程度で大規模な戦争に発展することはなくなった。エバーライン王国も多くの国と平和条約を締結し、ここ二十年程は凪の時代を享受していた。
が、ここで問題が出てくる。今まで戦争等で勇猛果敢に戦ってきた騎士達が武功を立てる場をほぼ失った。仕事として言えば国内の防備や儀礼的な活動、拝領した地の自治など種々あるわけだが、褒賞や叙勲が軽々に貰えなくなり、自分達の領地や家を今までの様に大きくしていくことも難しくなった上、自活出来る程の領地を持たない者達も多く経済的に苦しくなったのだ。
騎士として武勲や智勇でもって上流階級に成り上がった何とも優秀な者達が大勢を占める王国は、まだ完全なる平和を宣言できない世界において、身を立てる事もままならない騎士達の増加で誇った強さを瓦解させかねない状況だった。
そこで困窮する貴族達への一つの解決策として、愛と自由と祝福の女神を信仰するエバーラインとしての建前でもって、いかにも都合良くゲームらしい婚姻に関するある法を制定する。その法の下に貴族や上流階級の者達は、婚姻によって家同士の繋がりを深め、血脈を強めると共に困窮から脱しようとする。
なんて聞くと政略結婚だらけで女性の意思の軽視やら嫡男以下がゴミ扱いを心配するかもしれないがその心配はなく、この法の前では寧ろ蔑ろにされそうなそちら側の方が重要な存在になるのだった。
そして愛と……な女神を信仰するエバーライン。あくまでも本人同士の意思を尊重し自由恋愛の末の結婚に至れるよう、出会いの場を設けるから後は当人同士でご自由に、なゆるい縛りの中、良き相手との婚姻を日々画策している……と前置きがなんだかんだとあるがそこは全く重要でなく、つまり簡単にまとめると
(世は正に大婚活時代)
男も女もよりスペックの高い相手を求めて日夜開かれている様々な婚活パーティーに繰り出しているというわけだ。そしてそれはサーヴィニー家の娘にも無関係ではない話だった。
(ゲームはこのとりあえずの前提から始まる。速攻スキップだったけどね。そして主人公が公爵家を背負って婚活パーティーに参加するところから本編の始まりよ)
婚活の大義は女神への信仰、愛と自由と祝福の為であるとされているらしいが、腹の中は前提の通り。私利私欲、お家の為なのである。
サーヴィニー公爵家は王家に連なる血族。余程の事がない限り地位は揺らがない為、本来であればこの婚活乱世に飛び込んで、その血筋を強欲な者達に悪戯に利用される必要は無いはずだった。が、現状そうも言っていられない事情がサーヴィニー家にはある。
「ここに居たか私の可愛い娘達」
三時のお茶を楽しんでいた姉妹の元に、サーヴィニー公爵つまり二人の父が声を掛けた。
「今夜のパーティーについて話が……どうしたアンナ。眼鏡にヒビが入っているし、おでこに大きなガーゼまで当てて」
「名誉の負傷よ。大事ないわ」
「騎士のような事を言う娘だ。大丈夫ならいいが、それより今夜のパーティーの……」
「お父様、やっぱり私あまりそういう物には行きたくありませんの」
リーナが哀しげな表情でそう応えた。父もつられて哀しげに眉根を寄せる。
「リーナ、そんな事を言わずに行っておくれ。お前の言いたい事も分かってはいるが、私はお前達が本当に心配なんだ。私亡き後、心無き者にいいように利用されてしまうんじゃないかと思うと夜も眠れん」
「私の立場は分かっています。ですが……」
「お前が選んだ人物なら、私だって反対はしないし安心出来る。だからこそ私の目が黒い内にパーティーに行って見つけて来て欲しいんだ、未来のお前の伴侶を」
いやあんたの目の色緑やん、
と心の中で突っ込んでアンナは紅茶を啜る。父が姉にパーティーへの参加を懇願するのには訳がある。サーヴィニー家は娘にしか恵まれず嫡男がいないのである。
中世〜近世ヨーロッパがモチーフらしく、ここエバーラインも例外は都度あるが、基本的に家や爵位を継げるのは長男のみとなっており、それも非常に強固な限嗣相続制度を取っているため、嫡男が居なければ当主が亡くなった時点で断絶する事になり、例え親戚に男子が居ようと土地と爵位の相続は行われず、所持する領地は王国に接収される。
この些か強固すぎる相続制度は、平和にはまだ少し遠い世界における、戦争への備えとして恩賜の領地を確保する為と、国内の諸侯が力を持ちすぎない様にバランスをとる狙いが王国側にあるのかもしれない。
父はこの法によって断絶してしまう事自体は仕方のない事であるとさして気にしていないと言うが、娘達の身は非常に案じている。自分亡き後、庇護する者を失った娘達が王家の血を取り込もうとする者達に利用される事を憂えているのだ。
(嫡男が居なければ断絶は仕方ない。けどエバーラインには前置きにある通り婚姻に関する特措法がある。嫡男が居らず子女だけの場合、その長子一代に限り当主権限を必要と認められた間引き継ぐ。要は廃絶と接収に当たって諸々の準備期間は地位を保証するってとこかしらね。大抵は終身、一代限りの最後の女公爵。でもこれも強固で結婚しない事が条件。こんな法があって何が自由恋愛よ。でもこの法の重要なのはこの続きよ)
アンナはソーサーにカップを戻し、揺らめく湖面を見つめた。
(ただし現当主が存命の間に長子の子女が婿を迎え、世襲に相応しいと認めた場合には、その婿を嫡男と同等の扱いとし爵位を継ぐものとする。
そう、この法のお陰で嫡男以下の次男三男は謀略を巡らせなくても地位と生活基盤が手に入るし、子女しかいない家は断絶を免れる。なんとも都合の良い法律よね、流石ゲーム。
でもいいのよ雑でも不自然でも細かい事に茶々を入れるつもりはないわ。背景の詳報とリアルな設定がないと楽しめない類の創作物でもないんだし。要はこれが何を意味してるかをプレーヤーにザッと把握させれば良いだけのそれっぽぉい理由付けなんだから)
アンナはチラリと姉を見る。沈んだ顔で手にしたカップを見つめている。
(つまりこの大婚活時代において、お姉様は最高峰の結婚相手。婿にさえなれれば王家との繋がりを作れ、広大な領地と公爵の爵位を己のものに出来る。誰も彼もがお姉様を狙っている、ラブ・バーストはそういうゲーム)
アンナはカップに残った紅茶を飲み干し、二杯目を注ごうとポットに手を伸ばす。
「お姉様おかわりは?」
「……ありがとういただくわ」
憂いを顔に浮かべたまま、リーナは薄く微笑んでアンナにカップを渡した。
「リーナ、分かってくれ。私はお前達を守りたいんだ」
リーナはまた沈んだ顔をする。アンナはカップにお茶を注ぎながら姉の代わりに反論する。
「お父様、そんなに急かす事ないと思うわ。お父様はまだまだお元気なんだし、姉様だって十九になったばかりよ? 伴侶なんて言われても恋だってまだまともにした事ないのに」
「アンナ」
リーナは頬を赤らめて軽くアンナを睨んだ。
「そうは言うがねアンナ。明日何が起こるか分からない。お前達の母さんが病で長期療養になってから不安で仕方が無いんだ。今のうちに安心したいんだよ」
「お父様、そんなに焦る事も心配する事もないわ。お姉様を見て! 公爵令嬢の肩書きがなくても、この花の妖精かと見紛う神秘的な美貌と天使のような心の清らかさを持つお姉様が伴侶に困るわけないんだから! いつか素敵な人が絶対に現れるわ。それも近いうちにね」
「それはもちろんそうだろうが……」
父はアンナに気圧されて折れかかっている。
「それにねお父様、あんまりお姉様を追い詰めると、家の為にとヤケクソになって相手を決めて、それこそ滅茶苦茶にされて不幸になるかもしれないじゃない。そんなの世界を統べる女神の教えに反してると思うわ。二人の間に愛も自由も祝福も存在してないんだから」
「そう……だね……。急かしてはいけない事だね……」
敬虔な信仰者の父はしゅんと意気消沈する。リーナはアンナを見て感謝するように微笑んだ。だがアンナは二杯目を注いだカップをリーナの前に戻して言った。
「でもね、お姉様。パーティーには参加するべきだと思うの」
「アンナ?」
味方してくれたはずのアンナが急に梯子を外すものだからリーナは困惑した表情を浮かべた。
「お姉様の気持ちはよく分かる。お姉様に近づいてくる人のほとんどは爵位に興味がある人だと思うもの。目の前で愛を囁く人が、真実お姉様を愛してくれているのか、肩書きを愛しているのかも分からない。偽りの愛の言葉を信じて身を委ねるなんて不幸なことはないものね。お姉様はそれが怖いのよね」
リーナは目の前に置かれたカップを両手で包んで寂しそうに言う。
「大人びた事を言うのねアンナ。でもその通りよ。結婚するなら心から愛し合える人としたいの。
だけどパーティーや集まりにいっても公爵令嬢であることに目の色を変える人ばかりなの。誰も私の事なんて見ていないし、求愛して下さる方は私を本当に好きなわけじゃないのよ、きっと。この血と領主の座が欲しいの。それが分かるから悲しくて。
私も自分の役割に徹して、多くの方と同じように条件で相手を選べばいいのよね、この領地を守らなければいけない長子なんだから。
ダメね子供じみた事を言って立場を投げ出すなんて。ごめんなさいお父様、パーティーには出るわ。アンナもお尻を叩いてくれてありがとう」
リーナは困ったような笑顔を浮かべた。父は何か言いたげだったが悲しい顔をしただけだった。アンナもまた困ったように笑う。
「お姉様、私何もそんなつもりで言ったんじゃないわ。お姉様には本当に愛し合える人を見つけて幸せになって欲しいって意味で言ったのよ。その為にはパーティーに行って、まずは候補となる方と出逢っておかなければ選択肢が広がらないわ」
「選択肢……」
「そうよ、お姉様。貴方は選ぶ立場なの。投げかけられる幾つもの言葉や向けられる眼差しの一つ一つから相手の親愛度を読み取って、個別イベントを起こす為に時間帯に気を配り必要なタスクをこなしながら、時に挟まれる妨害を華麗にいなす。そうして望む相手との最高のエンディングを迎えるまで親愛のゲージを溜めに溜めるのよ」
「ア、アンナ? どうしちゃったの?」
急に早口になって捲し立てるようによく分からないことを言い出したアンナにリーナと父は困惑する。
アンナはバッと父の方に顔を向け、ニヤッと笑った。
「お父様、何の心配もいらないわ。お姉様のことは私が必ず幸せにしてみせるから」
「アンナ……? 頭か? 打ち所が悪かったのか……?」
禍々しいほどの気迫が籠った目で睨まれて、父は小刻みに震えるほど怯えている。アンナはその顔のまま再び姉に向き合う。
「お姉様、私に全てお任せになって。貴女の望む通りの愛に溢れた未来を必ず手に入れさせてみせるわ。貴女が私に望むなら、誰であろうと攻略してみせる」
アンナは言い終えると、怯えの色が浮かぶ眼をこちらに向けるリーナににっこりと笑いかけた。
「さぁ、ゲームをはじめましょ!」
お目汚し失礼いたしました。
夜中のテンションに震えが来てる朝でした。
改行に苦戦しています。
お読みいただきありがとうございました。