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二十九話 化かしていたのは ②

今更ながら架空のゲームの設定やらシステムやらを一生懸命説明するこの話が面白いのか不安です


前回のあらすじ——


あー、やっぱイケメンには流されるよね、しょうがないしょうがない

でもあれら全てはねぇねの物だから、落ち着け落ち着け

ところでねぇねは誰が好きなん? まだいない? 困ったな……

って、何々どったの、ねぇねめっちゃ怖いんやけども……チビるわ

灰が迎えに来たから助かったけど、あのまま睨まれてたら心臓止まってたわ絶対

と、ここで突然だけども、「私、犯人わかっちゃったんですけど」ばりに私、魔法の存在理由わかっちゃったんですけどぉ!

庭パでのモブカップルの様に、悲劇に引き裂かれそれでも思い合い再度結ばれる、感動的な演出の為の装置!

これっきゃないっしょ! ならウェルカムよ!

ほな資料探しに行こ行こっと!

って、近すぎて気ぃ散るわぁ!!!

 アンナがやる気を取り戻した所で丁度馬車が止まり王立図書館前に着いた。


 リーナの幸せなエンディングを想像し、加えて気まずい二人きりの空間をやっと抜けられるとあって、アンナは馬車から喜び勇んで飛び出すとエドゥアルドを置いて館内に駆けて行った。


 幅の広い緩やかな階段を昇り切り、がっしりした柱で支えられたエントランスを通って中に入ると、広々とした館内の中央は下から上まで吹き抜けになっており上階と下階の様子まで見通せた。


 一フロア毎の天井は高く、どの階も円柱状の建物の壁に沿ってその高い天井までびっしりと書架が嵌め込まれていて、棚は隙間なく本で埋め尽くされていた。


「わぁ……すごい量……」


「王国中の出版物が集まりますからね。中は地上3階と閲覧不可の蔵書を保管する地下1階になっていてここは実は2階です。1階からは別館2棟にも繋がっていますよ」

 追いついたエドゥアルドがそう補足した。


「見えてるだけでもすごいのに別館まであるの……この中から探すって骨折れそうね……」

「そうですね……ですが踏み出さなければ始まりません。まずは歴史書か風俗学の書架を探してみましょう。あと目星としては人文科学の書物ですね。行きましょう、3階です」


 心なしか顔に喜色を浮かべて足取り軽く階段を昇っていくエドゥアルドの後ろを、あまりの本の多さに勇んだ足を払われた形のアンナはげんなりした顔で付いて行った。


 書架一つをとっても百冊は軽く超える量の本が収められているというのに、それが広い建物の壁面ぐるりと1周分、フロアにも勿論独立型の書架が等間隔に幾つも並べられているのだから、全ての背表紙を調べるだけで一体何日かかるだろうか。


 更にその中からめぼしい本をピックアップして内容を精査していくとなると、必要な時間を考えただけで気が遠くなってくる。ただでさえ秘匿されている魔法に関する情報が、このやり方でとても残り2週間の内に探し出せると思えない。


「他の手段を考えなきゃいけないかも……RPG定番の街の人に地道に聞き込みとか実地踏査に行くとか……え、これ乙女ゲーム?」


 近場の本棚に収められている本の背表紙を人差し指でなぞりながら深い溜息を吐いたアンナは、早くも諦めモードに移行して本を手に取ることもしないが、並んで本を探すエドゥアルドは対照的に次々に本を開いてはザッと読んでめぼしい物を選り分けていく。その顔はどこか楽しそうに見える。


(生き生きしちゃって……本好きだったもんね。ここは任せるっていう選択で奇跡的に見つからないかなぁ……)


 完全に探す気のなくなったアンナは自身を取り囲む本棚を見渡す。歴史書の棚だからだろうか、古そうな本が多く背表紙がボロボロになっている本も目立つ。


 一応探している体で何気無く上から順に本を眺めていると、ふと一冊物凄く分厚いハードカバーの本が目に入った。古い本なのか金箔で書かれている題字は所々剥がれて読めないが、白と黒で上下を塗り分けられた背表紙に目が釘付けになる。


 もしやと思ってアンナは本に近づくが、背の高い本棚にあって上から二段目に収められているその本に小柄なアンナが届こうはずもない。アンナは急いで片側に手すりの付いた大型の脚立を引き摺ってくると、天井付近に達する高所に臆する事なく昇っていった。


「メレディアーナ嬢、危ないですよ! 気になる本がおありなら私が……」


 エドゥアルドが気付いて下からアンナに呼び掛けるが、アンナには聞こえていない。目が手が意識が、白黒の本に吸い寄せられていく。


 分厚く重い本の背表紙に指をかけてゆっくり引き抜くと、ずっしり重い本を受け止めて祈りに似た気持ちで表紙を正面に向けた。


「——っ! これは……やっぱり……ラブ・バーストのファンブック!」


 歓喜に震えるアンナが手にした本は、杏奈が最期まで読む事を切望するも叶わず、それどころか命を奪った忌まわしくも愛おしいあのファンブックだった。


「こんな所で……手に出来るなんて……」


 再会出来た喜びに涙が出そうになりながら表紙を撫でる。生憎と帯は無くカバーも破れかかっているし、角には心当たりのある赤茶色の不吉なシミが付いていて、別れた時の新品具合からは大分くたびれているが間違いなく本物だ。しかもおそらく杏奈にトドメを刺した張本人。


「貴方の事だけが気掛かりだった……でもついに読める日が来たのね……帰って来てくれてありがとう」


 やっと会えた恋人にでも話しかける様に本を愛おしむと、アンナは広くはない脚立の天辺に腰掛け早速極厚のファンブックを開いた。


 下からエドゥアルドが降りるように促しているがそれもやはり聞こえていない。五感の全てが本に集中している。


 変色や色褪せは多少あるが中の状態は悪く無い本をそっと捲ると、最初はゲーム冒頭と同じく世界観の説明に始まりキャラクター毎の特集ページが続く。思い出のスチル場面や書き下ろしイラストが超ボリュームで描かれ、キャラの設定資料集と消えた幻のキャラのこぼれ話まで載っている。


「なるほどね……当初は6人だったんだ。だから門番さんだけ立ち絵があるのね。攻略できないのに立ち絵があるからファンの間でも謎として良く議題になってたのよ」


 独言てにやにやしながらファンブックを堪能するアンナは、ここに来た目的などとうに意識の彼方だ。


「道案内の門番さんは隠れキャラとして密かに人気があるんだから、続編とかで日の目を見るかも」

 パラパラとキャストや制作陣のインタビューを飛ばし、続編の特報ページへ先に目を通す。


「ほらほら、攻略できるっぽい! 次は赤と青かぁ……白黒も出てくるって話よね、隠れキャラとして? ボムシステムは初期搭載かしら? すっごく楽しみだけど情報が思ったより少ないな……」


 続編については制作決定のお知らせに、開発中画面の一部とメインキャラ二人のビジュアルと初期設定画が載せられているだけで、杏奈が帯から読み取った以上のことは詳報されていない。物足りなさを感じていたアンナはページを捲ろうとして、端の煽り文に気付く。


《続編が待ちきれないそんなあなたに! 前作の復習&アナザーストーリー版で親愛ゲージを高めておこう!》


「そうよ! アナザー版だ! そっちが先に販売よね!」


 アンナは思い出してウキウキしてページを捲った。


《続編制作決定に先駆けて! 前作オリジナル版に加えて世界観や背景の設定は同じだけど視点もシナリオも異なるアナザーストーリー版をセットにした、一挙両得スペシャルエディション販売決定!

 皆が憎いけど大好きなあいつもダウンロード不要で初期参戦! 存分に嵐に揉まれて身悶えて! 

 ファンブック購入者にはゲームで使えるお得なアイテムがもらえる特典コードが付いてるから忘れずに使ってね! ゲームの詳細は次ページへGO》


「これよ! 前作とセットにすることで続編に向けて古参の囲い込みと新規を呼び込む狙いね。7980円か……ゲーム二本分とボム分としては妥当だけど、やっぱりボムありきの未完成ゲームだったことが疑う余地なくなって来てるわね」


 ニヤつきが止まらないアンナはアナザー版の詳細ページへ浮かれ気分で手を伸ばし、そして捲った先に踊る思いもよらなかった文字にその気分を瞬時に破壊された。



「……………………は?」



 空気が喉を通った時に偶々鳴った音を発してアンナは息が止まった。本を持つ手がプルプルと震えてくる。デカデカと書かれた文字を何度も読み返すが目が滑って理解が追いつかない。


(待って……何これ……これってだって……)


 何度も何度も目が同じ文章を読み返す。文章自体は頭に入って来ているが、脳が拒否しているのか異国の言葉を読んでいるようで意味が飲み込めない。


《アナザーストーリー版はオリジナルの世界観と登場人物を》


 それでも何度も目が文字を追う毎に、言葉が脳の隙間にねじ込まれていき理解が進む。


《全く新しい視点とストーリーで楽しめる!》


 理解が進むにつれ、鼓動が大きくなっていく。そして忘れかけていたここに来た理由を思い出す。


(だってそれじゃ……そういうことなら……全ては魔法のせいなんかじゃない……)


 ドキンドキンと耳元に移動した心臓が煩く鳴る。止まった呼吸がいつの間にか溺れかけているように激しく繰り返されている。


(私を……化かしていたのは……)


 最後の一文字まで翻訳が終わって、アンナは全てを悟って茫然と呟いた。


「……女神だ」


《今作の主人公はオリジナル版主人公の妹で頼れるアドバイザーだったメレディアーナ!

 お馴染みのお相手役達が高貴な血と持参金目当てに今度は嫡男として争奪戦を繰り広げるよ!

 あなたは彼等に真実の愛を芽生えさせる事が出来るかな? そして誰に溺愛される?》

ついに一人だけ真実を知らなかった主人公が世界の本当の姿を知ってしまった回でしたが、ここまで長かった


お読みいただきありがとうございました。

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