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二十話 何もかも魔法のせい ①

色々説明させるのにすごく便利な反面、軽くでいいと思っていた部分をモリモリ掘り下げて来るのですごく厄介なキャラの回


前回のあらすじ——


なになになになに今なんて⁈

こいつ私になんて言ったの⁈

ていうかそれよりも長男アインはなんで幼児退行しちゃってんのよ⁈

はぁ⁈ ジェレミアが長男⁈

一体全体どうなっちゃってんの⁈

もう頭がついていかなすぎる……これ本当に現実?

あぁ、角砂糖の甘さだけが今の私の紛れもない現実

 アンナは姉と自身宛てに届いた封筒を睨んで昨日のおかしな出来事を思い返す。


(昨日のは一体どう言う事なの? 1万歩位譲って、ジェレミアが何の間違いか私の事を好きって言うのは受け入れたとしましょう。でも長男って言うのはあり得ない。なんでそんな事が起こるの? あいつは次男、アインが長男。これは変わっちゃいけないでしょ? だってこれが変わっちゃったらお姉様を奪い合うラブ・バーストのそもそもの前提が変わっちゃうもの)


 ビリっと封を雑に破って、中に入っていたガーデンパーティーの招待状を確認する。


(ここがラブ・バーストの世界じゃ無いって事も考えた。でも白との次のイベント用の招待状もこの通り届いてる。知っている通りのシナリオに沿って進行して、知っている通りの人物が生きてるこの世界が、ラブ・バーストじゃなかったら何だって言うの? 私の頭がおかしいの? 昨日のは錯覚? 

 それとも次男だと思ってたのがそもそもの思い違い? 

 いやそんな訳ない、お姉様の婿の座を掛けてこそのラブ・バーストよ⁈ 攻略相手は全員嫡男以下の次男三男じゃなきゃおかしいわ。何が起こってるの⁈)


 アンナは招待状の返事をこれまた雑に書いてメイドに渡すと、父の書斎へと向かい、ドアを開けてため息を吐いた。


(そんでこいつは何で今日もここに居るのかしら……)


 書斎で父と共にアンナを待っていたのは一昨日会ったばかりのエドゥアルドだった。


「おぉ、アンナ、ルーニーから聞いたぞ? 随分歴史の勉強に熱心だそうだな。エドゥアルド卿も先日の質問に関して資料を探してくれたそうで、折角だから今日も勉強を見てもらいなさい。予定もないだろう?」


「……突然ですみません」


 まったくよ、と思いながらアンナが生返事を返すと、父は書斎の使用を許可して部屋を出て行った。アンナは仕方なく父の座っていた椅子に腰掛ける。


「……一昨日の事が気になってしまって……。曖昧な事をお伝えしてしまったので」

「……気にしないで良いのに。知ってたらいいな程度だったから」


 今それどころじゃないし、とアンナは正直思った。これまでも不測の事態だらけだったが、そもそもの根底を覆す疑いのある事象が勃発しているのだ。ボムが何処の出身だろうが何であろうが今はどうでもいい。


「……いくつか探したのですが、グリニドラスと名前があるのはこの童話で……」


 エドゥアルドが絵本や童話集を広げていく中、アンナはこれまでの違和感について考察してみる。


(今までにも原作通りじゃない事はいっぱいあった。それこそ最初から、私が夜会に行く事だっておかしかった。

 でもそれは現実世界でシナリオ進行していく上での、無理ない範囲の参加の仕方だと思ってた。女神の言を信じるなら、ここは私が無双する為のボーナス世界だから、私がシナリオに絡める様に、自然とお姉様にくっついておく為の軽微な改変なんだと)


「……つまり、帝国の前身ですね。権力を拡げようと積極的に戦争を仕掛けたり、子供達を有力者や王族と結婚させたり……」


(でも、失敗したのよ。何故だか白は私に話しかけて来て、黒までお姉様の登場を待たずに去って行った。考えられる原因は私がその場に居たから。それ以外は思い当たらない。だってフラグも何も必要ないチュートリアルの夜会だった訳だから。失敗する筈が無かったのに)


「……での結果、国力を落とし、近隣国に攻め込まれて滅んだわけです。ここからこの地を巡って争いが続き、最終的に支配下に置いたのが先程も言った通り……」


(個別イベントも、白は結果的に見れば成功かもしれないけど、本来的な展開にはなってない。黒に至ってはお姉様とまともに接触すらしてなかった。橙だって出会いはしたけどイベントとしてはお姉様と絡んでない。エドゥアルドは……正直面識作りとジェレミアへの布石に過ぎないから、今は何とも言えないわね。そしてジェレミアは昨日の通りよ。ハッキリ言って何一つ正しく展開してない)


 アンナは文机に広げられた絵本を指差すエドゥアルドの手を見た。エドゥアルドは熱心だが抑揚のない単調な喋り方で説明を続けている。


「この凋落が女神の加護を失ったからだとされ、今日に至るまで女神信仰を支える……」


(どれもこれもおかしい。お姉様だって知らない筈の情報を知ってたし、次男が長男になった上に大人が子供になってんのよ。本当にどうなってるの? まるで狐だ狸だに化かされてる気分が……)


「化かされてる!」


 アンナは突如大声を上げた。何の脈絡も無い事を突然叫んだアンナに驚いて、エドゥアルドが固まった。

「……メレディアーナ嬢……何か……?」


「エドゥアルド、先生。この世界には魔法使いとかいないの? 出てこないだけで、女神も騎士もいるんだから魔法使いだっているでしょ?」


(そうよ、化かされてるんだわ。何か魔法とかそういうので、正常なシナリオ進行を妨げられてるとしか思えない。そいつを——人とは限らないけど要はボムみたいな邪魔するシステム——どうにかして止めれば正常なルートに戻せるんじゃないかしら)


 アンナの突然の問いに、エドゥアルドは気持ち困った顔をする。心なしか哀しそうな色を浮かべた藍色の目を見て、アンナは急に冷静になった。


「いない……わよね。幾らなんでも、そんな都合の良い、システム」


 恐らく可哀想な妄想少女とでも思われたのだろう。そんな哀憫の籠もった目で見られて、頭が冷えたアンナは魔法だなんてそんな事を真剣に考えた自分が急に恥ずかしくなってくる。ただそれ以外に説明がつけられない程、今起こっている事象が網羅し尽くしたラブ・バーストとは異なり過ぎていた。


「ご、ごめんなさい、変な事言って……忘れて……」


「……居ますよ。そう呼ばれている方達は」


「え⁈ いるの⁈」


(全然知らない設定! 追加コンテンツ⁈ まさか逐一チェックしてた私が見落とすはずないけど、もうそんなのどうでも良いわ、このおかしな現象が止まるなら)


「先生! 教え……て」

 勢い込んでそう言ったアンナだったが、エドゥアルドが目を伏せてアンナから顔を背けたので、気に掛かってブレーキがかかった。


「あの、先生?」

 問われたエドゥアルドはギリギリ聞き取れるくらいの声でボソッと呟いた。


「……この前、その部分にも、触れたと思ったのですが……」


 アンナは恐ろしい勢いで脳が冷えるのを感じた。今さら聞いてなかった事がバレるとは思っておらず、前回避けた筈の地雷を今日になって踏んでしまったと焦る。


「……やはり、つまらなかったですよね」


 エドゥアルドは背けた顔を長めの前髪で隠す様に下向けた。


(わぁ……暗さに拍車が……キレるよりいじけるタイプなのね)


「せんせ、違うの、そんな事は——あるけど——ちょっと難しかったから、その——」

「……いいんです。自覚してますから。私の話はつまらないんだと……」


(……暗ぁ……キレてくれた方が良かったくらい面倒そう……)


「……すみません、折角興味を持っていらっしゃるのに……もっと面白可笑しく教えて差し上げられれば良かったのですが……私がつまらないばかりに……」

「い、いいのいいの、全然そんなの先生には期待してないし、面白くなくてもアカデミックな詳しい話が聞けてすごく為になってる様な気がしてるんじゃないかなって感じみたいな」

「でも何も頭に入って無いですよね」

「……あー……」


 あまりの暗さにアンナはフォローしたつもりだったが、聞いていなかった事が仇となってよりエドゥアルドを落ち込ませたようだった。


「……私はどうも伝える事が苦手でして……今までは自分の研究や仕事に集中していれば良かったので……しかしこの先このままではいけないと思って、予行演習のつもりで家庭教師の話を受けたのですが……すみません、何もお教えする事が出来ずに……」


 重苦しい空気を纏って項垂れるエドゥアルドを見て、アンナもげんなりとした気持ちになって来た。やはり根暗なキャラだと思う。かける言葉を探したがアンナにはすでに持ち合わせがなく、どんどんと暗く澱んでいくエドゥアルドの醸す空気に、アンナも誤魔化しながら励ます気持ちが折れた。


「……ごめんなさい。本当は全然聞いてなかったの。先生のせいじゃないわ、私が悪いの。だからそんなに落ち込まないで」


 自ら教えを乞うておいて聞いていないという暴挙をアンナは正直に告白した。物凄く自分本位な本音を言えば、姉と出会わせた時点で家庭教師としての彼に意味はなくなったので、この暗さを理由にでもして辞めてもらっても良かったのだが、その暗さの原因を作っておいて放り出すのは人としてどうかとなけなしの良心に囁かれて、正直に謝ることにした。

 

 怒りでも何でも心に灯して、せめても暗闇から抜け出てくれればいいと思って。しかしネガティブモードの人間にはどんな言葉も否定的に聞こえてしまうものだ。


「……そうですよね、聞くに値しないくらいつまらなかったですよね……すみません……本当に……」

「だからそうじゃなくて、ちょっと私の頭の中が忙しくなっちゃって入って来なかっただけで貴方のせいじゃ——」


「……興味すら削いでしまう程つまらなかった……そういう事ですよね……すみません……」


 言葉をかければかける程沼に沈む様に暗くなって浮上する気配の無いエドゥアルドに、アンナは愈々耐えきれなくなって蓄積された苛々が爆発した。



「あーーっ! 暗い!」



お読みいただきありがとうございました。

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