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十八話 明らかにおかしい ①

こっから先の話は大体長いので割る事になると思います。


前回のあらすじ——


ヤッバ、聞こえてた

フォローフォロー、悪口じゃないのよフォローフォロー

って素直で純粋すぎる私の口からは素直な本音の悪口しか出て来てない! 輪をかけてヤババイ!

と思ってたけど、なんかペラペラ喋り出した

なんだかよくわかんない事だらけだけど、怒ってないならいーいや!

って、え? 今笑った? まさかね、まさかまさか。

大丈夫、ねぇねと話すこいつは順調そのもの。

気のせい気のせい、気の……せい、よね?


 一夜明け、今日も今日とて馬車に揺られながらアンナは昨日の事を考えている。


(ボムは随分と不吉な名前を背負ってるのね……女神の加護に背いて祝福を失うなんて。確かに理に反したキャラだものね。全く恋愛に関係ないのに嵐を起こして深めた仲を裂いたり、余計な奴の熱を上げ下げするんだから。だから攻略対象じゃないのかしら。女神に祝福されてないから、恋愛させてもらえないの……そう言えば初めに会った時言ってたわね、異性と話すまでに至らないって……)


 ぼんやりと小窓の外を眺める。雲は多めだが晴れた空は綺麗な淡い青色だ。


(だとしたら女神っていじめっ子気質ね、従わない奴は排除するとか。自由恋愛を強固に保証してるのは良い事なんだろうけど、認可制なのはどうかと思うわ。それこそ自由を阻害されてる。したい人はすれば良いしして良いのよ。誰にでも許される事が本当の自由じゃないの? ねぇ女神!)


 心の中でいつか会った女神に呼び掛けるが、別れ際に宣言された通り返事などない。元よりこの世界に実在するのかも不明なのだから当たり前だったが。それでもアンナは呼び掛けずにはいられなかった。初めて友と呼び合える存在の彼に、童話の王のように不幸な目にあって欲しくはなかった。


(そもそも名前は受け継いだだけで、コルは悪くないんだから大丈夫よ。ちょっと不吉な名前ってだけ。自由恋愛って言ったって、この大婚活時代のラブ・バーストには大きな視点でみれば緩ーい政略結婚はそこらに溢れてるし、それが罰されないんだからなんて事ないわよ。今はまだ出会えてないだけ、これからこれから)


「だから頑張ってねコル。きっと必要としてくれる人はいるから」


 アンナがボソッと呟いた時、馬車がガタンと揺れて止まった。


「着いたわね、アンナ。行きましょう。ルーニー伯父様が待ってるわ」


(私も私で頑張るわ。ちょっと気になる事はあったけど、橙も灰も出会いは順調。緑は従兄弟って設定だから今日の出会いは確実に完璧。後は夜会を攻めてイベントこなして最終日まで走り切るだけ。明日明後日は予定立てとお姉様の説得に費やして、日曜日の夜話会からが第二ラウンドの始まりよ)


 グッと身体に力を込めてアンナは馬車を降りると、攻略対象、緑のジェレミアの住むヴェール侯爵の屋敷へと入って行った。


「おぉ、来たか。久しぶりだねリーナにアンナ。二人は変わりないかな?」

「こんにちは伯父様、私達は変わりありません。母が一緒に来られなくなって残念がってました」

「喘息の悪化で急遽治療院だったな。昔から身体の弱い妹だったが……治ったらまた皆で来るといい。いや、こちらから伺うか」


 入り口で待ち構えていたこの伯父、ヴェール侯爵はアンナ達の母サーリヤの兄で、母が父に嫁いでからも年に数回ほど顔を見せ合う付き合いの親戚である。今日も父を除いた3人で来る予定だったが、母が持病の悪化で治療を余儀なくされているので2人だけでやってきた、という設定でこのイベントは始まる。


(このイベントを起こす条件が、“メレディアーナに家庭教師を付ける”だから、場合によっては最終週って事もあり得るのよね。でも元々出向く予定があった体で話が進むなんて、お母様は先月から入院中なんだけど、いつそんな約束したことになってるのかしら。パラドックス感があって興味深いわ)

 

 アンナは挨拶を交わす姉と伯父を後ろから見ながら考察していると、伯父がアンナへ顔を向けた。


「ところでアンナ、グリース伯のご子息はどうだっ

たかな? 彼は史学に非常に造詣が深い。君の知識欲を大いに満たしてくれたのではないか」


 伯父がニコニコしてアンナの返答を待つのでアンナもそれにニコッと笑って応える。


「ええ伯父様、あの方を紹介して下さってありがとう。お若いのにとっても歴史にお詳しくって為になったわ」


 このイベントの条件、家庭教師エドゥアルドは、父がヴェール侯の伝手を頼ってサーヴィニー家に呼んだ事になっている。そのお礼も兼ねてここに出向いているので、エドゥアルドのイベントを先にこなさないとジェレミアの攻略は出来ないのだ。


「これからの時代、女性にも学問が必要だ。アンナが先駆けとなるべく大いに勉学に励んでくれたまえ」


 フェミ気味の伯父は満足そうにそう言って屋敷の奥へと姉妹を案内した。エドゥアルドの話なんて正直全然頭に入ってないんだけど……と思いつつ、アンナも叔父に従って客間に向かった。客間に入るとすぐにタタタッと駆けてくる足音がして、小さな子供がリーナに抱きついた。


「リーナ姉!」

「エイミー! 久しぶりね」

 現れたのはヴェール家三兄弟の末っ子長女エイミーだった。狙うジェレミアはこの家の次男にあたる。


「いらっしゃい、リーナにアンナ。今日はサーリヤは残念だけど元気になればまたいつでも会えるもの、早く良くなるといいわね」


 エイミーの後ろをついて歩いて来たのはヴェール侯爵夫人で三兄弟の実母イザベラだった。高身長で強めの美人なこの伯母の存在が、ジェレミアのバッドエンドの最大の要因なのである。


(出たわねイザベラ。伯母である分には美しく優しい人だけど、義理の母になった途端、巷間に溢れる鬼姑の悪行の粋を煮詰めて濃縮還元したような鬼婆に変貌する女。ジェレミアにはどうしたってこいつがくっ付いてるから、正直トゥルーでも微妙だと思うのよね……)


 イザベラは、次男のジェレミアを異常に可愛がっている母親で、バッドエンドになると婿入りした息子の事が心配だからと付いて来てそのまま住み着いたあげく、溺愛する息子を奪われた恨みで鬼姑と化して主人公を苛烈にいびり出す。


 守ってくれるはずのジェレミアもまた、どマザコンぶりを発揮してイザベラの肩を持ちまくる様になるため、主人公は強烈な姑と頼りにならないマザコン夫に苦しめられて泣き暮らす事になる。


 トゥルーであればジェレミアに完璧に守られ溺愛される甘い生活が送れるのだが、鬼姑が居ることに変わりはないのでアンナとしては微妙だった。


(お姉様が年下好みなのであれば致し方ないから、いざとなったらイザベラは私が何とかして抑えよう。外面の良い人だから、周りはいびりに気付かないわけだし、だったら私の前では猫被るかもしれないし。ジェレミアが好みって言うならそこはなんとかしましょう)


 うん、とアンナもエイミーにハグしながら一人決意する。今日で全てのキャラに出会い終わるので——正確にはジェレミアは従兄弟なので既に知り合いなのだが——いよいよ姉の本命が決まる。待ちに待ったアンナの本格的攻略ターンが始まるのだ。


(1週目を無駄にしたここまでの結果、黒はルートが完全に潰えて白は選択肢から外れ気味。橙はまぁ及第点。灰は上々、緑は今日で確実。さて、お姉様は誰をお選びになるのかしら……誰であっても攻略してやるんだけどね)


 腕がなると思ってジェレミアの登場をワクワクして待っていると、エイミーがリーナの腕を引っ張って客間を出て行ってしまった。


「リーナ姉様、あっちのお部屋にあるのよ、見てー」

「はいはい、見に行きましょうね」


(えっ⁈ 姉様行っちゃうの⁈ まぁ、ここにいる限り会えるから良いんだけど……ここで現れるはずでしょ、なんで来ないのジェレミア。やめてよあんたまで現れないなんて)


 アンナが焦り始めてキョロキョロ周りを見回していると、イザベラもこだわりの茶葉がない事に気付いて客間を出ていってしまった。 


「あらやだ、こっちのお茶じゃないって言っておいたのに……。アンナちょっと待ってて頂戴ね」

「あ、はい……」


 更に伯父までそれに続く。

「そうだアンナ、昔私も読んだ良い歴史書がある。待っていなさい持って来るから、是非持ち帰って勉強して知識を深めるんだ。興味があるという事は伸びしろだからな、今が成長のチャンスだぞ」


 全員が急に出ていってしまって、広い客間に突然ポツンと一人取り残されてしまい、仕方なく手近な椅子に腰掛けた。


「……何、この不自然な感じ。示し合わせたように皆が皆出て行くなんて……。何か、やっぱり、何か、おかしくない?」


 何が、とははっきり言えないが不自然さから違和感が拭えない。自宅に行くのだから確実にジェレミアを捕捉出来ると思っていたが、それが過信でまた失敗するのかもしれないと、過去の失態を思い返して気持ちが焦ってくる。ここで出会えないならどうカバーすれば良いのか考えだした時、キィッと部屋のドアが開いてブルネットの髪に深緑の瞳をした少年が入ってきた。


「あれ? リーナ姉は? アンナだけ?」


 素っ気ない喋り方のこの少年こそ、5人目の攻略キャラ緑のジェレミアだった。アンナは心の中でセーフと呟きガッツポーズする。


「いるに決まってるでしょ、何の為に来てると思ってるの。あんたが遅いからエイミーに連れてかれちゃったのよ」

「は? なんでオレが関係あんの? 意味わかんね」


 ジェレミアはぶっきらぼうに言って、アンナの隣に座るとテーブルの上のクッキーを摘んだ。


「父さん達は?」

「それぞれお茶っぱと本を取りに行っちゃった。アインは?」

「知らね。その辺で遊んでんじゃね?」


(遊んでるって、成人男性がそんなわけないでしょうよ。ま、原作でも名前だけのモブキャラだから出て来ないか。そういえばメレディアーナの記憶でもアインの姿が良く思い出せないな……従兄弟だし会ってるはずなのに。


 エイミーや伯父様なんかも立ち絵のないモブだから、思えば記憶の中の姿が朧げだったけど、会ったら記憶に上書きされた感じではっきりしたのよね。杏奈としての記憶が強くなってるからアンナの記憶が薄まるのかな……不思議な感覚)


 アンナもジェレミアに倣ってクッキーをつまんだ。アインというのはヴェール家の既に成人している長男で、次男以下が主人公を奪い合うラブ・バーストにおいては特に掘り下げられることのないモブキャラだ。


(折角だから会ってみたいのよね。こいつの兄なんだから似てるだろうしきっと……)


 そう思ってアンナはクッキーに伸ばした手を止めた。きっと、なんだ? 


(……ジェレミアに似てるからカッコいい、か。比べられたくないくせに、人の事は比べてる。でも並んでたらどうしたって比べちゃうんだ。何かと比べることでその物の評価が下るんだから)

ついつい余計なことを書いてしまって長く長くなっていく


お読みいただきありがとうございました。



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