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十六話 気のせいね ①

馬鹿!馬鹿なんだからこういうキャラ作ったらいけないって言ったでしょ馬鹿!

あ、馬鹿だからわからないか、馬鹿!

と自分を殴りながら作った思い出が詰まった回

ここも長いしぐちゃぐちゃと詰めてあるので割ります。



前回のあらすじ——


釣るのなんて簡単簡単イージーキャラって思ってたけど、今日食いつき悪いわー

まだ3時じゃないからって? そんな繊細なキャラだった?

ちょっくら魚群探してくるわ……ってまた何かにぶつかっちゃった! やん、デジャヴ……

? あれ、痛くない、なんやまた死んだんか

と思ったらライオットじゃぁん! じゃーん! じゃ……

ゲロォ……アイスくっつけちゃった、これは素直にごめんなさいだわ。てゆぅかマジどうしよこれ。

えぇ! 笑って許してくれるなんて良い人! 

流石はおっさんなことと酒乱な事に目を瞑れば優良物件……いや、酒乱は一発アウトだろ

あ、待って行かないで! ねぇね! ねぇね! 出会って出会って!

奇跡のタイミングでねぇね登場も、あれ? もう知ってるなんて……何か、おかしく、ない?


 アンナは机に向かって歴史書とノートを開き、昨日の違和感について思案する。


(なんでお姉様は既にライオットを知ってたの? ゲームと現実の違い?)


「……を皮切りに大陸全土へと戦火は広がりを見せ、やがてエバーラインの前身である——」


(思えばマティアスやクロードについても為人をお姉様はある程度知ってた。マティアスが浮気者なことは私から聞いて知るはずなのに既知だったし、クロードがノアル伯爵の息子だって事も、上着の飾りの意匠で見抜いた。なんでそんな事を知ってたの?)


 ペンを持ってはいるが何も書きつける気のない右手を唇に当てて、お経の様に落ち着いて抑揚のない、悪く言えば暗くて酷く眠気を誘う話し方で紡がれるこの世界の歴史譚をBGMに、アンナは難しい顔で姉の不可解な振舞いを思い返す。


「……して、エバーラインは北西の大国アルディスの皇帝コリドラス二世の呼びかけに応じ、今日の平和を——」


(何か変。ゲーム通りに行かないのは、現実との誤差の範疇で人生のスパイスだと思ってポジティブに捉えてたけど、流石におかしい気がしてきた。だって今まで結果オーライが多かっただけで、攻略自体は全部失敗してる。

 

 2年やり込んで行動も展開も選択肢も熟知した猛者の私がよ? 出会わせるという初歩の部分でこんなに苦労させられてる。私というイレギュラーのせいって言われたらそれまでだし、そう思ってたけど、原作通りに屋敷に籠ったらお姉様は動かなくなる……何かがやっぱりおかしい。これじゃまるで良く似てる紛い物の——)


「聞いてらっしゃいますか? メレディアーナ嬢」


 思考の渦に意識を全集中していたアンナの視界に、急に片眼鏡を掛けた男の顔が入り込んで、アンナは驚いて弾かれた様に仰け反った。


「き、聞いてるわ、聞いてる! えっと、王様すごいって話ね! ねっ!」


 ぎこちなく笑って誤魔化すアンナの顔を覗き込んできた片眼鏡の男は、長めの灰色の髪の間から感情の読めない藍色の瞳でアンナに一瞥投げて、姿勢を戻すと黙って手元の歴史書にまた目を戻した。


(……何か言いたい事あるなら言いなさいよ。暗いわね、本当こいつは)


 アンナがこいつと呼んだ片眼鏡の男は、4人目の攻略対象者、灰のエドゥアルドだ。彼は唯一騎士ではなく、宮中に勤める大陸の歴史や国史に非常に詳しい学者、という設定の知的推しのキャラクターだ。


 それ故に良家の子女として教養を付ける為、父の伝手でメレディアーナの家庭教師にと屋敷に呼ばれ、主人公と交流していく事になる人物である。アンナは同時進行での攻略の為に、一昨日の内に家庭教師を付けてもらえるよう父に頼み込んでいたのだった。


(でもこいつは暗いだけで、考え様によってはどのエンドでも無害なのよね。何か上手く行かなすぎてどうにもならなくなったら、こいつにしとけばまぁ誰も傷付かないわ。……お姉様の幸せの為にはそうなっちゃいけないんだけど、保険の保険として扱えば良いから他の奴等よりは幾らか気が楽ね)


 エドゥアルドはアンナに暗いと評されるように寡黙な学者肌の本の虫であり、自分の仕事や研究に没頭するあまり他者に関心を持たない設定のキャラだ。


 そのキャラクター通りバッドエンドでは結婚はするものの主人公への関心が非常に薄く、すぐに家庭内別居状態へと陥り、主人公は孤独感に打ちひしがれる生活を送る事になる。


(もしバッドでも他の奴と違って酷い事される訳じゃないから、夫婦としての生活を諦めれば後は自由に楽しくやれるのよ。現に双子が悪女エンドを狙う時は必ずこいつと結婚してた。こっちに関心が無いから何してたってこいつは傷付かず、自分の好きな事に没頭できる生活基盤を手に出来て満足だろうからこっちも良心が痛まない、Win-Winの関係って言ってね)


 アンナは書物に目を落としてから黙ったままでいるエドゥアルドをチラッと横目で見た。


(……でもそれって、現実世界では結婚する意味あるのかしら。お姉様が悪女をお望みって言うなら吝かではないけど……やっぱりお姉様にはトゥルーエンドを迎えて目一杯幸せになってもらいたいから、こいつの攻略もしっかりしとかないと。その為には鬼門の夜会が必須になるけど……)


 アンナはふぅっと溜息をついて先を思いやった。エドゥアルドとのシナリオは少し特殊で夜会に行ってこそ展開する。

 

 家庭教師という設定上、自宅で定期的に会えるがあくまで妹の家庭教師だからか、そこでの会話が親愛度に与える影響は微量だ。


 面識を作り夜会で会話する事で、自分の血筋と地位を狙いあからさまな態度で近付く者や、高嶺の花と敬遠する者とは違う、フラットで穏やかな静謐さを纏うエドゥアルドに主人公は惹かれていき、エドゥアルドもまた、つまらない人間だと自覚する自分に優しく寄り添ってくれる主人公に惹かれていく展開になる。


(夜会なぁ……お父様は今回の家庭教師の件もすんなり呑んで早速呼んでくれたから許してくれそうだけど、お姉様はなぁ……黒の件で完全にキレてるもんなぁ)


 はぁ、とアンナはまた溜息を吐いた。どのキャラにおいてもトゥルーを狙う以上夜会に出向かないわけにはいかない。もう出会いは大方済ませているので、初回の様な大失敗はまずないと言えるし、全部に出る必要は本来であればないが、出遅れて無駄にした分を取り戻すには残りは全て参加するのが理想だった。


 だが、姉の幸せの為の行動なのに、当の本人が障害として立ちはだかるのだから、なんともし難いジレンマを抱えてアンナはまた難しい顔をして頬杖を付いた。


(お姉様が誰か一人に絞って下されば全部参加なんて事しなくてもキャラによってはいけるわ。明日で全キャラ出会い終わる予定だし、そこで決めてくれれば後は一点集中で全力バックアップに入ればいいだけで……)


 そう考えてアンナは、ふと後ろを振り返った。


(ところでこいつはいつまで黙ってんのよ。もしかして自分の世界に入っちゃってる? それとも何か怒ってんの? たまにいる静かになるまで一言も発さない教師みたいな)


 先程から手にした本をじっと見つめて緘黙したままエドゥアルドは微動だにしない。アンナは彼の心中を探ろうと前髪に隠れた藍色を覗き込むが、静かな夜の湖の様に波立つ物一つなく、その底で何を思っているのかは一切読み取れなかった。


 ただ何の音もしない湖が、覗く者の脳裏に響く記憶の喧騒をも静めてくれる気がして、不思議と落ち着いた心待ちになった。


 双子はSNSのコメント欄やリプが荒れた時にこの静かな男を選んでいたが、そこに求めた癒しが何なのかなんとなく分かった時、不意に、藍色の水面が揺れて、ボーッと見つめてしまっていたアンナを映した。


「……何か?」

「……な、何かって、せんせぇが黙って何にも言わないから、こっちも黙って待ってるんですけど」


 なんだかんだはあるが、ビジュアルだけで言えば1番美形だと思っている相手と急に目が合ってアンナは動揺した。エドゥアルドはイケメンというよりは美人なのだ。


「あぁ、そうですね、すみません」

「……何か、怒ってるの? ずっと黙ってるから」

 アンナの問い掛けにエドゥアルドは目を逸らして答えた。


「いえ、私は考え込むと黙ってしまう癖があるようで……すみません」

「……なんで急に考え込むのよ。直前まで話してたじゃない」

「その……貴女の答えが、全く想定外だったもので……」


 聞いていなかった事がバレたと思い、アンナはまずいという顔をした。こうも長い間黙る程考え込ませたのだから、恐らく相当的外れな事を言ってしまったのだろう。それを自分で判じられないくらいに聞いていなかったのだし。


 他意があるとはいえ、自ら家庭教師を望んでおいて全く聞いていないのは、流石に失礼だと思うくらいの良心は持ち合わせているので、取り敢えず苦笑いで逃げようとするとエドゥアルドが思いがけない事を言った。


「感心してしまって」


「………………え?」


 感心している様には見えない、今までと何ら変わらない表情と喋り方でエドゥアルドは続けた。


「この三大国の睨み合いを終結させるまでの長い史実を、王様すごいの一言に集約してしまうなんて、なるほど、と思いまして」


(……馬鹿にされている?)


 アンナは我ながらアホっぽさ丸出しの回答を恥ずかしく思いながら、嘘でなければそれに感心すると言ったエドゥアルドに怪訝な目を向ける。


「至極単純ながら言い得て妙でもありますし、子供向けの教材などではそういう切り口から歴史を教えた方が親しみやすそうですね。因みにそのすごいはどの王に掛かるのでしょう。やはり停戦の為に数名の共を連れただけで、装備の全てを置いて敵地へと自ら赴いたアルディス皇帝でしょうか」


 そう聞かれたところで、そもそも質問のベースになる史実も聞いていなかったし、薄っすらメレディアーナの記憶に残った偉大な王様がいる、という事しか分かっていないアンナは狼狽する。


「あ、あー、えっと、ぜ、全員じゃない? だって、ほら、今は何処も平和なんだし、それは一人ではなし得ないじゃない? だから、その皇帝? もエバーライン王も、もう一つの……」

「パロッツェーリ」


「パ……? それ、その王様も皆すごいと思うわ! だって敵地にノーガードで乗り込む度胸も、その意を汲んで丸腰の敵の大将を倒しちゃわなかった他の王様も、すごいじゃない!」


 内心ではメレディアーナにもっと勉強しておけと悪態を吐きながら、今し方齎された情報を必死に繋ぎ合わせたそれっぽい答えを口にして、アンナは作り笑いを浮かべた。エドゥアルドはやはり感情の読めない目でそんなアンナを見て、なるほどとまた言った。


「そう捉えますか。確かに三国の王が同時に停戦を宣言しなければ大陸の火は鎮火を見なかったでしょう。アルディス皇帝の偉業として語られる事が多いこの停戦協定ですが、騎士の国としての矜持を持った三国であったからこそ実現した協定でもあったという事ですね。私には無かった捉え方で、新たな切り口を教えて頂けてとても勉強になります。正に王様すごい、ですね」


 そう言ってエドゥアルドはまた本に目を落としてぶつぶつと何かを呟き続けた。その様子にアンナは誤魔化せたようだと胸を撫で下ろした。


(なんか納得してくれた? キレたら怖そうなタイプだから聞いて無かったなんて言って怒らせなくて良かった。それにしてもあんなアホっぽい答えを受け入れてくれるなんて……なんていうか……)


「……意外」

敬語キャラがもう一人増えて、今誰が喋ってるん?ってなる事案発生の危機


お読みいただきありがとうございました。

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