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十五話 何かおかしい ②

後半部分です。変な所から始まってしまってすみません。


前回のあらすじ——


コルのお陰でなんだかやる気が漲りムンムン!

やれる! 私ならやれるわ!

ってわけでねぇねを連れてライオット狩りにしゅっぱーつ!

急に現代感のある通り、しょうがないわ想像力と語彙力に限界のある凡人なのだから(しかも相当早い段階で)

因みに服装とかにもあまり触れないのはセンスも皆無だからよ。色合わせとか鬼門中の鬼門だから!

脱線したわね、狙うわ36歳おっさん騎士のライオット!

さ、ねぇね

奴はこのアイスを釣り糸の先にぶら下げておけば勝手に食いついてくれるから、まずはアイスを手に入れましょ


(双子は追いかけてたアイドルとかが熱愛発覚した傷心時に、大人の包容力を求めておっさんを選んでたけど、今のお姉様はどうかしら……ある意味傷心よね、主に私関係で。ということは案外と嵌るかも。早めにターゲットを決めてくれれば動きやすいけど……お姉様の結婚相手がおっさん? 複雑……)


 アンナは姉と並んで行列に加わり、静かに視線を周りに走らせる。周囲は女子好きのする品を扱った店が多く、男性、特に屈強な体躯を持った男が居れば目立ちそうだが見当たらない。


(まだいないのか……それとも私のせいで現れないのか……今日はお姉様から離れるのをやめてみようと思ったけど……どう出るか。私、結局この世界に来てから賭けしかしてない気がする。前世の記憶意味ないじゃない)


 アンナは楽しそうに話かけるリーナに適度に相槌を打ちながら考える。


(……ここらで出てこないと私達の会計の順番が来ちゃう。甘党だけどゆめかわな店に買いに行くのが恥ずかしくて、代わりに買って来てくれってお姉様に頼む事でルートが拓く予定なんだけど……一度離れてみるか? でも今までそのパターンでドツボに嵌った感があるから……)


 去るべきか否か、悩んでいるうちに行列はどんどんと消化されていき、いつの間にやらアンナ達の番になってしまい……


「買い終わっちゃったじゃない……馬鹿……」


 アンナは購入したばかりのドロドロブヨブヨな物質に包まれたアイス(バニラ味ワッフルコーンタイプ)を片手に、また失敗したと項垂れた。


(何がいけないの? やっぱり側にいたから? でも出現条件は満たしてるはずでしょ。この通りに3時に居るだけでいつでも出会えるイージーなキャラなんだから。それとも何か他に条件が……)


「……あ?」

 アンナは何かに気付いて顔をあげた。そして色味だけは女子ウケするドロブヨな物体を嬉しそうに眺める姉に尋ねた。


「お姉様時計持ってらして? 今何時かしら、3時回ってる?」

「ごめんなさい、持ってないわ。でもまだ3時前じゃないかしら? だって時計塔の鐘が鳴ってないでしょ?」


 それだ、とアンナは顔を顰めた。一移動一時間で進むゲームとは違い、リアルの移動には当たり前だがリアルな時間がかかる。その誤差により出会えなかった可能性に気付いて、アンナは周囲の店に目を走らせる。


(たかだか数分で現れないなんて随分シビアじゃない。でも3時きっかりの仮定が正しかったら、今頃此処へ向かってるはず。あいつは周辺の店を梯子してスイーツ買い込んでる設定だから、どこかの店に……この辺りは並んでる時に見た感じ居なかった。だとしたら別の通りの店か)


 アンナはいくつもある路地の一つに飛び込んで、一つ裏の土産物店の多い通りを確認する為に走り出す。座れる場所を探していたリーナが駆けていく妹に驚いて声をかけたがアンナは返事もしなかった。


(アイスは買い終わっちゃったけど、やりようはいくらでもある。出会えさえすればこっちのものだもの。居るのか居ないのかだけはっきりさせなくちゃ)


 アンナは狭い路地をアイス片手に駆けていく。薄紅色のスライム状の物体が、風と重力に負けてコーンから溢れかけて持つ手に付きそうで、思わずキモっと呟いた時、ゴーンと鐘が鳴った。


「あ! 3時になっちゃっ……」


 音の主は壁と壁の間にいるアンナには当然見えないと分かっていたが、音のした方へつい顔を向けてしまい、直後ドシッと身体の正面から何かにぶつかられて跳ね飛ばされた。

 

 既視感と言うよりも、午前中の出来事との完全一致に地面に叩きつけられる覚悟をしたアンナだったが、身体に土が付くことは無かった。



「悪い、お嬢ちゃん。余所見しちまった。大丈夫か」



 後ろに倒れかけたアンナの身体は、そう声をかけて来た大男の片腕で軽々と抱き止められていた。屈強な体躯を持ち、無精髭を生やして、黄味がかった長めの赤毛が鬣のようなこの男こそ、目当ての男ライオットだった。


(いた! 間違ってなかった!)


 アンナは心中で歓喜した。仮説の正しさの証明と連敗阻止が出来てにやける。


「怪我ないか? 悪かったな」


 アンナを立たせてライオットは再度謝罪した。アンナはにやつきと興奮を抑えて同じように謝罪する。


「こちらこそ、前を見てなくてごめんなさい。寧ろありがとう本当に。貴方が居てくれたおかげで連敗しなくて済み……あ!」


 アンナは突然言葉を切った。ぶつかった時にライオットの上着を持っていたアイスで汚してしまった事に気付いたからだった。


 上着には売りの粘性の高いスライム状の部分がべっとりと張り付き、広範囲を汚してジワジワと垂れ下がり、ぬばぁーっと伸びて破れた部分から溶けたアイスが涎のようにぼたぼたと溢れてズボンに靴まで汚している。


 ファンタジーゲームに出てくるスライムの攻撃をリアルに表現したらこうなるのだろうかと思って、アンナは思わず顔を痙攣らせた。


「……ぅわぁ……」


 ライオットはアンナのその様子に、自分の状態を確認する。


「おっと、こりゃぁ……。すまんな、せっかくのアイスを駄目にして」

「や、アイスは全然どうでも……それより服がすごい事に……ごめんなさい。どうしよう……」


 流石に慌てるアンナに、ライオットはその体躯から想像させる通りに豪快に笑い飛ばしてみせた。


「いいんだ、いいんだ、服なんて。洗えば済む話だからな、気にするな」


 ハッハッハッと大きな声で笑う太陽のように明るいこの姿に、傷心な双子は癒しを見たのかもしれない、と大男を見上げてアンナは思った。


「ところでそいつはもう食わんよな? うら若いお嬢ちゃんが、おっさんにぶつけた物なんてもう口には出来ないだろ」

「え? あ、これ? うん、もう食べないと思う……グチャグチャだし……」


 それを聞いてライオットはにんまりと嬉しそうに笑った。アンナからすれば20も年上のおっさんだが、その顔にはどこか少年っぽさを感じた。


「じゃぁ、それは俺が処分してやろう。代わりにこっちをやるからな、交換だ」


 ライオットはアンナの手からヒョイっとアイスを取り上げると、空になった手に可愛いリボンでラッピングされた小さな箱を乗せた。透明な上蓋から中が見え、ふりふりしたマカロンのようなスイーツが数個入っていた。


「え? こんな可愛いラッピング、誰かに贈る用なんじゃ……それに交換って、そんなグチャグチャなのと」


 貰えない、と返そうとするアンナに、ライオットは身を屈めてこそっと耳打ちした。

「……そう装ってあるが自分用だったんだ。気にするな」


 そして身を起こすとニカッと笑った。


「こっちには自分で並ぶ勇気が流石になかったんだ。プレゼント用で誤魔化すには無理があるからな。だがお嬢ちゃんのおかげで手に入った、ありがとな。それはお礼だから貰っときなさい」


 そう言ってアイスを示してから、大きくて分厚い手でアンナの頭をぽんぽんと軽く叩いた。


 粗暴そうな見た目とは違い頭に優しく置かれた手に、相手がおっさんとはいえリアルでの恋愛経験の乏しいアンナは、世の女子の憧れるシチュエーションの一つに不覚にもドキッとした。


「じゃあな、次はアイスを持ってる時は走るなよ」


 そう言ってすれ違って路地を行こうとするライオットに、目的を忘れかけていたアンナはハッとして声をあげた。


「ちょ、と待って! それ食べるなら新しいアイス買ってくるから、ふ、服も拭いたりしなきゃ、ねぇ! 待って! ライオ……」


「アンナどこなの?」


 ライオットを止めようと振り返ったアンナの耳に、大男の向こう側からリーナの声が聞こえた。アンナは、しめた! と路地の向こうに呼びかけた。


「ここよお姉様! 大変なの! 今この方にぶつかって服を汚してしまったの」

「……お姉様?」

「ぶつかって……? まぁ!」


 駆け寄って来たリーナが恐らくライオットの服を見て声をあげた。アンナの視界は大きな背に占められて向こう側が見えない。


「妹が大変な失礼を……お詫びを——」

「いやいや、いいんだ、ぶつかったのは俺の方だからな。小さいんで視界に入って来なかった」


 ハッハッハッとまたライオットが豪快に笑った。アンナは小柄な事を笑われた様でちょっぴりカチンときたが、何はともあれ姉と出会わせる事が出来たので溜飲を下げた。


「しかし、そうか、サーヴィニー公爵家のご令嬢だったか……なるほど、妖精の意味が分かった」


 ライオットは2人には聞き取れない声でそう低く呟くと、また元の調子でリーナに言った。


「だが、フェアリーナ嬢、妹さんには目を配った方が良い。こうも身軽に飛び回る質では、次は本当に危ない目に遭いかねないからな」


「仰る通りですね、気をつけますわ。失礼致しましたライオット卿。お許し頂ける寛大なお心に感謝致します」

「こっちこそすまなかった。それじゃあな、自由の妖精」


 ライオットはそう快活に言うと路地を向こうへ去って行った。アンナの視界を塞いでいた背が遠ざかり、代わりにリーナの姿が近づいてくる。


「アンナ! 何故こんな路地に——」

「お姉様、あの方とお知り合いだったの?」


 アンナは正直驚いていた。この場で初邂逅を果たすはずの2人が既に面識のある様な会話をしていたからだ。


「あの人、姉様の名前知ってたし、お姉様だって」

「あぁ、何度かパーティーでお見かけして……話したことは無いけれど、とても有名な方よ。槍の赤獅子って呼ばれてらして、次期騎士団長とも目される程お強いって。聞いた事ない? オラジェ侯爵家のライオット卿って」


「あぁ……ある、かな」

(……夜会で既に会ったことがある? このイベントをこなさない限りあいつは夜会には現れないのに? ……なんだろう……何かおかしい。そりゃぁずっとおかしいけど、なんだろう……)


 アンナの心に元々巣食っていた違和感が急に広がり始めた。


 失敗しかけたのでイベントの成否に関してはこの際無視していたが、出会いは成功したのだから喜んでも良いはずなのに、何処か手放しで喜べない不安感が背筋を伝う。


 自分が熟知しているはずの物が、急に良く似た紛い物にすり替えられた気分がしていた。


「あの方がどうかしたの?」


 不思議そうに尋ねてくるリーナに、アンナは困惑を隠して笑顔を作る。


「いいえ、なんでも……」

「そう? なら、行きましょう」


 そう言って促すリーナに従いながら、アンナは右手に握らされた小さな箱に目をやる。中には女子ウケのする可愛らしい小さな焼菓子が、1番可愛く見える角度で礼儀正しく並び、じわりと広がる違和感を塗り潰す様なパステルカラーに身を染めてこちらを見ていた。

何故この人達はフラフラと出掛けられるのか



お読みいただきありがとうございました

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