一話 そうだ転生したんだったわ
初めて投稿します。一つ書き上げられれば自分の中で何か変わるかもしれないと思って書きました。不備誤字脱字等心配ですが読んでくださる方がいらしたら嬉しいです。
一話5000字位の目安ですが、目安なので3000ちょっとの時もあれば7000近い時もあります。すみません。
中盤から貧乏性ゆえか詰め込め詰め込めとばかりに話を載せてしまっているので一話が長くなってます。気付いてるなら端から分割しろよと思われるかもしれませんがご容赦頂けたらと思います。
主役になれる人っていうのはどんな人なんだろう。ざわざわと若者で溢れる某都会の繁華街の真ん中で、前を歩く二人のサラサラの髪を見ながら思った。
「ねぇ、あそこの二人ってさ」
きっと生まれた瞬間から神様に決められている。流行り廃りのサイクルが恐ろしいほど早いこの世界の波を、乗りこなせる人もそうじゃない人も全部そのように決められているのだろうから。
「やっぱりそうじゃない? リナリナだよ! 声かけてみよう!」
自分は、きっとも何もその他の群衆の一人と決められて生まれて来たのだ。話題の店に行列を作る流行り廃りの波打ち際にいて、乗りこなすというよりは波に飲まれている群衆の。ただ、話題のスポットや流行りのアイテムを廃れて数年後に、流行ってましたね、と懐かしむ人の言葉によって初めて流行を認識する自分は、モブどころかオーパーツ寄りの隠遁者かもしれない。
「リナリナさんですよね? ウィンスタ見てます! ファンです」
「わぁ! 嬉しい! ありがとう」
そして波を乗りこなす主役というのはこういう人達なんだ、と杏奈は前を歩いていてたった今SNSのファンに呼び止められた双子の背を見て思う。
「写真良かったりしますか?」
「もちろんだよ!」
乗りこなすどころかこの二人は作り出す側に既に回っているのだろう。一言何かを呟けば瞬く間に万単位でイイねがついて、それが例えば商品についてなら、同じ物を求めてお店にファンが殺到する程影響力がある。そんな二人の姿は正に主役だ。
「ありがとうございました! ところで……後ろの方お知り合いですか? ずっと後ろにいらっしゃるんで……」
たまにこういった鋭い人がいて困る、と杏奈は思う。影として息を殺して生きるのが自分の在り方なのに、誰かに存在を気付かれてしまうとチクッと何かが刺さる気がする。
「後ろ? あぁ」
そう言って双子は同時に振り返る。色素の薄い茶色の髪がさらっと靡いて、肌あれ一つない美しい肌をした整った顔が杏奈に向けられた。長い睫毛に縁取られたこれまた色素の薄い瞳で一時見つめ、双子はまたファンに向き直って天使の様な笑顔で言った。
「妹なの」
「お前暗いんだよ、写真撮りましょうかくらい言えんだろ」
「せっかく連れてきてやってんのにずっと下向いてて、何? 迷惑なの?」
「……違うけど」
違わない、と杏奈は心の中で口汚く罵る双子に口答えする。流行り出すらしい物の為に毎度否応なしに連れ出されるが、隠遁者の杏奈には微塵も興味がないことだし、何よりこの二人とは外出したくないのだ。
杏奈の姉は双子で絵里奈と亜里奈と言い、幼少期より巷で話題になる程の美少女だった。それは高校生になった今も変わらず、どころか妖精か天使かと錯覚するほどの美貌の持ち主に育った。リナリナ名義の共同アカウントを開設しSNSで発信を始めると、瞬く間にファンが付き芸能関係者から声がかかる程になっている。
そんな二人の妹である杏奈はというと、素地に関しては姉妹なので大きくかけ離れているということはない。はずだが、外見に対して手間をかける事を杏奈はもうずっと怠っている。
梳かしもしない髪はボサボサで、服装も全身黒のデニムにパーカーなど地味で代わり映えのしないものばかり。当然化粧はしないし手入れも適当なのでところどころ肌荒れが目立つ。そこへきて今時珍しいくらいの分厚い眼鏡をかけている。
華やかな双子の側でただでさえ翳っているのに、さらに自ら黒子にでもなるかのような影に徹する出で立ちである。
だがそれで杏奈は良かった。存在に気付かれないくらいの方がよっぽど良いのだ。この輝く双子の隣では、何をしても霞むのだから。
幼少の頃からずっと杏奈はこの美しい姉二人と比べられ続けて来た。不幸にも一つ違いのため三人一括りで常に行動を共にして、両親も三つ子の様に同じ服を着せたりしていた。
杏奈も最初は嬉しかった。目の前でキラキラと輝く存在に憧れないわけがない。ましてやそれが身近に居て常に先を行き示してくれる、血の繋がった姉なのだから。明るくて眩しくて、誇らしくて大好きで憧れた。一緒でいられる事が嬉しかった。
ただそれが、物心つく頃には双子と杏奈で受ける評価やニュアンスが何処か違うと感じ始めたことで変わる。
『お姉ちゃんとは……』と。
『お姉ちゃんの方が』と。
言葉の端々に感じる自分と双子を比べる目と、突きつけられる姉に劣るという評価に、杏奈は憧れる光に手が届かない事を知ると同時に、いつしか眩しすぎて隣に居るのが辛くなった。
明るすぎる光の側では足下の影は黒く濃くなるものだ。双子が美しいと称賛を受けるほど、隣に立つ杏奈は双子に似ているが劣っている存在になっていくのだ。
逃げても逃げても光は何処までも杏奈を照らして影であるのだと突きつける。それならばと、杏奈は憧れも興味も一切を放棄して双子の妹だと気付かれないように、気付かれても比べるまでもない存在になるように、と今日まで影に徹して生きてきた。
「チッ」
双子の片割れが俯く杏奈に舌打ちした。
「もういいから早く本屋行って受け取ってこいよ。地味眼鏡が」
「ウチらその間買い物して来るから。先に読んだらその眼鏡また歪ませてやっからな」
そう言って口が激烈に悪い天使達はビルの中に消えて行った。
「……天使の皮を被った悪魔め」
杏奈は唇を噛んで本屋に向かった。双子は外見通り外面も非常に良く世渡り上手だが、こと杏奈に対しては奴隷の様な扱いをする。乱暴を通り越した物言いで時には手を出し眼鏡を壊す。あちこち連れ回しては小間使いの様に従わせる。得手して姉とはそういうものなのかもしれないが。今日も予約購入した本を受け取りに行かされている。
「ありがとうございました」
極厚の本を受け取り杏奈は中身を確認する。
「おんなじ本二冊とか……無駄」
杏奈はずっしり重い本のパンダの様な色調の表紙を眺める。受け取った本は、ある女性向けシミュレーションゲーム通称乙女ゲームのファンブックだった。
数年前に発売された「ラブ・バースト 〜白黒の騎士〜」というタイトルのゲームで、主人公の令嬢フェアリーナが双子に似ていると言う事でコスプレしてみたところ話題になり、そこからゲーム自体もやってみようという流れになって双子がどハマりしたのだった。
ファンブックまで初日に手に入れる程ハマっているのに自身で受け取りに行かないのは、自分達の行動や言動がどれだけ影響力があるか正しく測れているかららしい。
ゲームを心底愛しているからこそ、自分達が発信したり愛好者とバレてしまえば自分達のファンが騒ぎ立て俄かゲームファンが増える。交流サイト等が悪戯に荒らされ不当な評価を受ける懸念があり、ゲームを熱く静かに応援してきた古参ファンの心を乱す事が起きかねない。よって心苦しいが公には出来ないのだそうだ。
おためごかしを並べてはいるが、要はお洒落で可愛い天使の様な双子が、実は廃課金者レベルで乙女ゲーのグッズや関連商品を買い漁るコアファンであるとバレたくないということだ。一度動画にグッズが映り込んでイメージと違うとプチ炎上しかかった事があるので、以来一切を隠している。
杏奈としてはガンガン布教してゲームを売ってあげた方が製作者は喜ぶと思うのだが、コアファンを自称する双子はそんな杏奈を拝金主義者と罵る。
これまたおためごかしか、心からゲームを愛し生み出した者への感謝と崇敬がなければファンとは言えないのだそうだ。故にゲームに関する労力や出費に関しては奉納に近い感覚らしく惜しまない。三分の一は杏奈の懐からも有無を言わさずもぎ取られていくのだが。
そんなコアファンと成り果てた二人は出会いから二年経った今も周回プレイし続けている。とはいっても二人は会話やイベントシーンをじっくり鑑賞しているだけで、操作や攻略は全て杏奈にやらせていたりする。
主要攻略キャラに白い騎士と黒い騎士がおり、片方が白、もう片方が黒を推しているので、片方の攻略を進める度にもう片方から罵詈雑言が飛んでくるカオスな状況でゲームを進めなければならない。
そんな状況で連日ゲームをプレイさせられ続け、杏奈はついに双子の精神状態を読みながら降り掛かる雑言と拳を最小限に抑えた上で、要望通り狙った獲物を的確に攻略することに快感を覚える攻略マニアになっていた。
「ああぁぁあ、読みたい……今すぐ読みたい……」
双子とは違った方向にコアなファンになっている杏奈にとっても、このファンブックは待ち望んだ物だった。
発売から数年間、続編やシリーズ化など様々話はあったようだが制作側の都合かどれも実現していなかったこのゲーム。しかしここに来てファンブックの発売、さらにはシリーズ続編やオリジナルのアナザーストーリー版についての情報も載っているというのだから今すぐにでも読みたいに決まっている。
「二冊あるんだから一冊開けたっていいじゃんかぁ」
殴られたくないので表裏を眺めるだけで我慢する。が、煽るように並ぶ文字列がもどかしさを加速させる。
「続編には白黒も引き続き登場か……アナザーストーリーは設定は同じで……くそっ変なとこにシール貼んな。は⁈ 憎いけど皆が大好きなアイツってアイツの事だよね⁈ それが何なの⁈」
往来で独り言を炸裂させてしまう程、杏奈は読みたい欲求に駆られている。
「読みたいぃぃっ。大体三人でワリカンして買ったんだし、いつ読んだって良いと思うんだよね。情報逐一チェックさせられてたの私だし、予約したの私だし、振り込みに行ったの私だし、受け取りに行ったの私だし」
言っていて段々イライラとしてきた。地味で面倒な事はすべて押し付ける姉達に、全部投げ出して影のように振る舞い続ける自分に、なのに影に徹せないどこか諦めの悪い自分に。
「そもそも三人で二冊って何なの? あいつら完全に一冊ずつ所持する気じゃん⁈ 私が半額ずつ負担してあげたようなもんじゃん! 一冊4980円が二冊と消費税で三人でワリカンしても3652円はまだバイトもしてない身には痛手なんだよぉぉっ!」
その時、興奮して振り回した手から極厚本がスポンと抜けて、およそ本が立てたとは思えない重い音が街灯のポールにぶつかって鈍く響いた。本ってこんなに跳ね返る事あるんだ、と思う間に一直線に戻ってきた極厚本に額をカチ割られ、杏奈はそのまま後ろに昏倒した。
耳に届いた時点でヤバイと感じる音が都会の喧騒を割って響き渡り、コンクリートの地面に全力で打ち付けた後頭部と割れた額からドクドクと血が流れている。これだけの惨事に痛みのない不思議が、うっすら残った意識の中で杏奈に死を感じとらせた。
(こんな……情けない死に方ってある? 神様っていないの……同じ頭割れて死ぬなら、せめて読んでから殴られて死にたかった)
指先から力が抜けて冷たくなる。辛うじて見えていたものも視界が狭まり見えなくなって来る。
(私死ぬんだ……神様って本当にいないね……でももし、いるなら、次は私らしく自由に生きても良い世界に生まれ、させて、下、さ……)
プツンとそこで意識が途切れて杏奈は都会の往来で自身の放った本によって脳挫滅で死んだ。
ことをアンナはたった今思い出した。
「そうだ。転生したんだったわ」
お目汚し失礼致しました。
最後まで書けてから投稿と思っていましたが、夜中のテンションで数話を仕上げる事なく試しに投稿してしまいました。
こうなるんだ。なるほどね!
読んでくださってありがとうございました。




