敵陣殴り込み2
吸い込まれるような瞳の美女に魅了されたのか、バンパイア忍者は瞬きもせず、魂を奪われたように硬直した。
「私好みのイケてる男……綺麗な髪した凛々しいお方……」
「お、おい.…よせ、ちょっと待て……」
踊り子の娘は、細く白い指先でカゲマルの頬に触れながら、残念そうに呟いた。
「あら、一緒に楽しもうと思ったのに……私に恥をかかせるつもりなの……?」
「いや、そんな事は……ないのだが……」
「そ・れ・じゃ・あ…………」
「…………?」
「私を! 抱いて下さいイイイイイイィィィ!!」
突如、絶叫して自らの襟元を引き裂いた踊り子は、重い乳袋を露わにすると、三日三晩歯磨きを忘れたような生臭い息を吐き散らしながら白目で天を仰いだ。すると、みるみるうちに鼻先が伸び、全身の毛穴という毛穴から針金みたいな黒い剛毛を生やし始めたのだ。
バオオオオオオォォォォォォ――ッ!!!
気付いた頃には、ドレスを弾けさせるほどの筋肉をバルーン状に膨らませており、その涎にまみれた褐色の牙を眼前の男に深々と突き立て、骨まで軋ませていた。
「うわぁあああああああああ! ゲェええええええ!」
首筋に加え上腕二頭筋を鋭利な爪と牙で、ごっそりと食い千切られたカゲマルは、返り血に染まる元踊り子を何とか引き剥がし、力尽くで突き飛ばしたのだ。
「ば、化け物め……! ……ライカンスロープだったのか!」
「ほほほ! 私はマンナーロよ!」
カゲマルの惨事に血の気が引いたダケヤマとアビシャグは、天井にいる騎士達に叫ぶ。
「えらいこっちゃ、オイ! 早う助けに行かな、殺られるで!」
「……いや、まだ大丈夫だ。バンパイアの力を、ここで見てな……」
すっかり変身を遂げ、見上げるほどの狼女となった元踊り子は、鮮血に染まる鼻先を舌で綺麗に舐め取った。
「むっ! ……この肉の味……。お前、人間じゃないな?」
「てめえこそ、人間じゃねーだろが!」
怒りに震えたバンパイア忍者のカゲマルは跳躍すると、両手のクナイを電光石火で狼女の両眼窩に突き立てた。
「ぎゃあああッ!」
「狼とヤル気なんざ、ねぇんだよ! 喰らえ、東洋魔法!」
「か、回復が早い⁉︎」
「忍法火炎柱!」
カゲマルの一撃で、狼女の周囲が地獄のような猛火に包まれた。攻撃をほぼ受け付けないタフな肉体も高温で焼却されては、ひとたまりもない。耳を塞ぎたくなるような獣じみた叫び声が、断末魔の女の声に変わってゆく。
「ふう! 満月でもないのに狼に変身するとは、なんて非常識な奴だ……」
「……お前かて、吸血鬼のくせに昼間っから暴れとるやん」
「それもそうかー」
「はははははは……」
不死身のカゲマルにツッコむダケヤマ。呆れたアビシャグは思わず言った。
「まだ落ち着いてる場合じゃないんですが……」




