王国の危機3
王国の空には色とりどりの小鳥が飛び交い、まだ平和だった。丘の上から眺める街並みには緊張感もなく、人々は日常を満喫しているように思えた。
カヤタニは暫く考えた後、頭を抱えるダケヤマの背中を刺激しないように押した。
「ダケヤマ……、お前の気持ちは、よう分かるが……」
「ああ……、分かるが、何やねん?」
「やっぱり私らは、あっちの世界の人間やん。戦争を知らない日本で生まれ育った、ただのお笑い芸人やん。つまり、ただの足手纏いにしかならへんちゅーこっちゃ。お前、今までに何か格闘技やら武術とか習った事あるか?」
「いや、何も習ってへんし、ケンカも弱いで」
「だったら分かるやろ? お言葉に甘えて日本に帰ろう! 今がチャンスやん、元に戻れるで! 私らの、スカンピンの夢はどうなったんや? お笑い芸人で一発当てて、天下を獲るんやろ?」
「そ、そうや。その通りやで」
「だったら迷わず、日本へ戻るんや! まだ間に合う。あっちゃんの気が変わらん内に、異世界からオサラバや!」
「……あっちゃんは……?」
魔法少女アビシャグの方を見ると、マントの下から手招きをしていた。
おそらくこれから、押し寄せてくるゾンビの大軍勢を相手に、王国の存亡を賭けた一大決戦が始まるのだろう。
もちろん彼女は、いつまでも待ってはいられない。
よく知らないが、魔法使いは先陣を切って、最前線で戦いを繰り広げるはずだ。
カヤタニの両眼には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「アホ! いつまでグズグズしてんねん! 日本に帰るで! 戦争なんてまっぴらや! こんな所で死にたくないやろ?」
「カヤタニ……」
「迷うな! 私らの夢はどうなるねん? 夢の実現まで、あと一歩やったやろ? こんなとこで、道半ばで諦めるつもりか? お前の決心は、その程度のモノやったんかい~?」
「ち、ちが……」
「目を覚まして現実を見ろ~! ココは異世界やけど!」
カヤタニは泣きながら拳を握ると、本気のパンチを相方の頬に繰り出した。コンビ結成以来、一番重いツッコミだ。
「ぐはぁ! ……効いたぜ!」
地面に叩き付けられたダケヤマに、驚いたアビシャグが駆け寄ってきた。
「ちょっ?! 何やってんですか二人とも! 今は仲間割れを起こしている場合じゃないのですよ!」
アビシャグがヒーリングと思われる魔法の呪文を唱えると、柔らかなラベンダー色した癒やしの光にダケヤマは包まれた。
「やっぱ優しいな、あっちゃんは……」
「はい?」
「目が覚めたぜ、カヤタニ!」
カヤタニは、とうとう堪えきれなくなり、その場に泣き崩れてしまった。顔を覆った両手の間からは、大粒の涙がこぼれ落ち、相方のズボンに染み込んでゆく。
「カヤタニ! 後ろめたさを残して帰っても、面白いコントが披露できると思うか? 心に暗い影を背負ったままで、これからも人を笑わせる事ができるっちゅーか無理やろホンマ!」
「あ、アホ――――――――――――ッ!!」




