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おわコン!~お笑い芸人は異世界で最高のコンビ!~  作者: 印朱 凜
第2章 魔女の卓球部員
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異世界デビュー2


 ステージから一番前のダフニーは気を遣ってくれているのだろうか、左右に視線を泳がせると複雑な表情で思わず苦笑い。他の人々も、どう反応していいのか分からないのであろう。ルーブル美術館に訪れた団体客のように黙ったまま、ドギマギとしていた。


「……おい、ダケヤマ。異世界の人達は、オーストラリアを知らんやろうし、コアラやカンガルーも見た事はおろか、聞いた事もないんとちゃうか?」


「それ以前に有袋類という言葉自体が、初めてかもしれへんなぁ~」


「集まってる人の顔を見る限り、そうなんやろうな……」


 聴衆の後ろの方で、ヒソヒソ話から波が立ち、それはやがて怒号とも野次ともつかないシュプレヒコールへと発展してきた。


「どうした~!? ねえちゃん~!?」


「意味分かんねーぞ!」


「引っ込めや、コラ!」 


 ここに来て進退窮まり、焦り始めたスカンピンにダフニーから、ささやかな援護射撃が届いた。


「お、面白いよ! もっと続けて〜!」


 ダフニーの一声を皮切りに子供達からの声援が、ぽつぽつと湧き起こった。 


「二人とも、がんばれー!」


 それらが耳に届いたのか、壇上にあるスカンピンの二人は吹っ切れたような笑顔に戻ったのだ。


「カヤタニ〜。ええアイデアが浮かんだわ!」


「な、何やねん?」


「子供からお年寄りまで分かりやすい、簡単で便利なネタがあるやないか」


「あの封印したリズムネタか!?」


「ようやく今こそ、引っ張り出す瞬間が訪れたんやないかい~」 


「えぇい! やるしかないわ。もう、どうなっても知らんぞ!」


 ダケヤマは水揚げされた伊勢海老のように、突如として腰の入ったリズミカルなダンスで手拍子を誘った。


「へい! えぶりばでぃ! かもーん!」   


『やー!?』


「ふぁみちき・えるちき・ななちき! ちきんにゃ色々あるけれどー! やっぱり強いよ、けんたっきー!」


『け、けんたっきー!?』


 最前列で困惑気味の子供達が、釣られたように復唱してフォローしまくった。

 リズムと声を合わせるカヤタニは、何とか必死で盛り上げる。


「乗ってきた! パッサパサ〜、パッサパサ〜、ゆで卵の黄身パッサパサー!」


『パッサパサ〜、パッサパサ〜、ゆで卵の黄身パッサパサー! ハハッ!』


「やった通じたで! は~! パッサパサ〜、パッサパサ〜、鶏のササミもパッサパサー!」


『パッサパサ〜、パッサパサ〜、鶏のササミもパッサパサー!』


 ぐりんぐりん踊るダケヤマを見て、聴衆は魔法がかかったように大合唱を始めた。


「ほれ! パッサパサ〜、パッサパサ〜、ジャガイモ煮たやつパッサパサー!」


『パッサパサ〜、パッサパサ〜、ジャガイモ煮たやつパッサパサー!!』


 元ダンサーだった婆さんが、水を得た魚のごとく情熱的に踊りまくり、衛兵までもが我を忘れたようにコーラスに加わる。


「さぁ! パッサパサ〜、パッサパサ〜、ゆで卵の黄身パッサパサー!」


『パッサパサ〜、パッサパサ〜、ゆで卵の黄身パッサパサー!』


「はー! パッサパサ〜、パッサパサ〜、鶏のササミもパッサパサー!」


『パッサパサ〜、パッサパサ〜、鶏のササミもパッサパサー!』


「わんもあ! パッサパサ〜、パッサパサ〜、ジャガイモ煮たやつパッサパサー!」


『パッサパサ〜、パッサパサ〜、ジャガイモ煮たやつパッサパサー!』


「喉につ、ま、る、よおおおおおおおおお~っ!」


『THU・MA・RU……YOOOOOOOOOOOOH!! ハハハハハハハハハハハハッ!!』


 広場にいた誰もが笑い、笑顔が伝染して大爆笑を誘った。そこには年齢の垣根も男女の区切りも身分差もなかった。

 金持ちも難民も衛兵も商人も通りがかった旅人に至るまで、腹を抱えて笑い続けた。

 曇り空のような世の中が、嘘のように一瞬にして明るくなった。


「どうや! これがスカンピンの実力やで!」


『いよおおおおおお~っ! やるじゃねえかあああ!』





 大勢に囲まれたステージ上にて、千切れんばかりに手を振るダケヤマとカヤタニ。それを遠くから眺める美しい女性が一人いた。


「……さすがですね。ダケヤマさん……」










 



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