異世界の朝2
荘厳な石造りの城は、日本ではまず見かけないエキゾチックな空気を醸し出していた。城塞の所々に王国の象徴を染め抜いた、旗のようなのぼりが新鮮な風に揺らめいている。
高台から眺める城下の風景は正に異世界である。色とりどりの屋根が所狭しとひしめき合う街並みは、どこかのテーマパークで見た事があるように思えた。中世風でファンタジックな、絵本から飛び出してきたような世界。
身なりを整えたダケヤマとカヤタニの二人が、所在なげに城のテラスで待っていると、魔法使いアビシャグがようやく姿を見せた。
昨日と同じスタイル……、とんがり帽子に紺のセーラー服、眼鏡を掛けていた。手には魔女のイメージ通りの長い杖が。先端にはめ込まれた宝玉が朝日を反射すると、覆い隠すように黒いマントを翻した。
「これはこれは、ダケヤマ殿。ようやくお目覚めですか? もうシンニフォン王国には慣れてきた頃ですかね?」
おそらく今回の騒動を引き起こしたであろう張本人、迷惑な呼び出しを食らわせた魔法使いは、悪びれる様子もなく、屈託のない笑顔をコンビに投げかけてくる。
ダケヤマがグッと睨み付けても、幼さが残る表情に曇りは見られなかった。それどころか、思わず見惚れてしまうレベルの鋭い美少女ぶりに、怒りを忘れてしまうほどだ。
今時の服装にして眼鏡を外し、三つ編みを解いたらもっといいのに、と思った事は秘密にしておこう。
「あっちゃん……、やったっけ? 昨日、俺達を酷い目に会わせた事をどない思うてんねん?」
「あっちゃん? 私の名前はアビシャグですよ!」
「そんな事、どうでもええやんか。アビシャグなんて日本人には発音しにくいし、語呂が悪いわ」
「どうでもいい事ありません。あっちゃんなんてイヤです。アビシャグと呼んで下さい」
「何やねん、あっちゃんは~」
「もう! あなたこそ、何なんですか~」
子供のようなやり取りに、カヤタニは呆れて言った。
「ええ加減にせんか、ダケヤマ。もっと大人にならんかい。女の子相手にデリカシーが足りひんで」
「カヤタニ~、何でお前は冷静やねん。あれだけの事をされても、腹立たへんのかいな?」
カヤタニはダケヤマの言葉を聞いて、少し困った顔をした。そして気を落ち着かせるためか、テラスから爽やかな朝の街並みを眺めたのだ。
「そりゃあ……、私もムカついたで、当然やな。その場の勢いで、酔っ払ってもないのに裸にまでなったしな」
「カヤタニさん……」
さすがのアビシャグも乙女心を傷付けた事実を反省したのか、悲しげな表情へと一変したように見えた。




