絶体絶命のピンチ
カヤタニは迫り来る命の危機を前にして、やけに冷静となってしまった。
「私……、こんな所で刀に斬られて人生終わっちゃうの……? しかも裸のまま、半ケツの男と一緒に……! 何てマヌケな最後なの……」
「わわわ! またパンツの中で猛烈に暴れ始めたでえええっ!」
「やかましい! 全部お前のせいじゃ!」
騎士団長無頼庵の本気の一撃がくることは、剣の大きな振りかぶりで見えてしまった。
「やかましいのは、おまえら二人だ! さあ! 覚悟せいいいいいい~っ!」
カヤタニは思わず両目を固く結び、ヒップホップしているるダケヤマの背中に子供のようにしがみついてしまったのだ。
「――くっ! もう駄目なの!? いやだ! まだ死にたくない! もう奇跡は起きないのか……」
「――あはははははははははははは!! うふふふふふふふふふふふふ!! ああ、死ぬほど可笑しいいっ! あ~はははははははははははは!! 誰か助けて!? 笑いすぎて苦しい! うふふふふふふふふふふふふ!! 何なの!? あの人!? あの見た事もない変な動きは何? ひ~ははははははははは! ……待って! 涙も出て息もできないし~!」
正に抱腹絶倒という言葉がふさわしい程に、あのゼノビア姫がお腹を抱えて大爆笑を始めた。
あまりに笑いすぎたためか、立派な装飾が施された玉座から転げ落ちそうになっている。
まるで底の抜けたバスタブのごとく、溜めに溜めた鬱憤やら何やらを全て吐き出すかのように、全身全霊による怒濤の笑いっぷりである。
そのクシャクシャの笑顔の中には、かつて見せていた陰鬱極まりない仮面めいた土気色が、完全に吹き飛んでいた。
「ひ、姫様……! 何という事だ!」
「おお! 姫様!」
「ゼノビア姫~!!」
その場に居合わせた、あらゆる人達が、目の前で起こった奇跡に心を奪い去られる。
団長の無頼庵とルンバ・ラル、それにトムヤム君は、固まってしまった。
痛々しいミジンコのような動きをしているダケヤマとカヤタニに斬りかかる寸前で……。
呆気に取られた七騎士、特に振り上げた剣の行き場を失った団長は、姫君の笑い転げる姿にただただ愕然とするばかりだった。だらりと両腕を落としたまま、重い剣を落とさぬよう、辛うじて繋ぎ止めるのが精一杯のようである。
魔法使いアビシャグは、ほっと胸をなで下ろすが早いか、自信を取り戻した声で呟いた。
「さすがは、私の見込んだ現実世界の道化師達。見事、姫様を笑わせる事に成功しちゃったわね!」
ダケヤマは尻に挟んだゴキブリに屁をこいて気絶させると、大臀筋に力を込めて絞め殺した。
すると微細なポリゴン片となって煌めきながら消え失せたのだ。