のるかそるか
信じられない事に、ダケヤマはジャケットを脱ぐと、シャツのボタンを引き千切らんばかりに引っ張り、一瞬のうちに上半身裸となった。
「アホ~!! 裸芸は反則やから封印するって言うたんは、お前やろが~!! ダケヤマ~! 自ら禁じ手を……、タブーを破ってどないするねん!?」
カヤタニの叫びも耳に届かないのか、ダケヤマはベルトを外すとズボンをストンと卓上に落とした。
「きゃっ♥」
色っぽいダイナゴンが両目を両手で覆った……が、指の隙間からダケヤマの肉体をじろじろと観察している。そんな状況にカヤタニは、プルプルと小刻みに震え始めた。
「コラ、ダケヤマ! 今時、白いブリーフかよ!? キモイねん! アンタ、『脱ぐのはお客さんを笑わせているんやない、お客さんから笑われているんや』って自分のお笑い論を偉そうに講釈たれとったのを、もう忘れたんか?! ポリシーってもんを持ち合わせてないんかい、おのれは~?! ええい、恥を知れ! 恥を~!!」
「甘いで、カヤタニ! ここは日本やのうて、異世界なんやろ?! つまりここでは、裸芸禁止の縛りは全く関係ないのです~!」
あきれ顔の魔法使いアビシャグは、『あちゃ~』という溜め息にも似た言葉を発すると、とんがり帽子のつばで顔を隠すしかなかったのだ。
あまりの事に、一瞬呆気に取られていた団長とルンバ・ラルは、急に椅子から立ち上がった。そしてついに腰に吊った長剣の柄に手を伸ばし、スラリと抜いたのだ。
入念に手入れがされ、油が引かれた鋼特有の鈍い光に目がくらみ、思わずカヤタニは片目を細めた。2本の切っ先が今、自分の体を切り裂かんばかりに迫り来る。
「貴様ら~!! もう許さん! 姫君の御前なるぞ! 無礼を働く者は問答無用で、この場において手打ちに致す!」
「ひえぇぇぇ~っ! 早よ服着んかい、ダケヤマぁぁぁ!」
カヤタニは死の恐怖に取り憑かれて、騎士の円卓上から転げ落ちそうになっている。一方、漏らしそうになったダケヤマは、なぜか強がりを言う余裕があった。
「裸に言葉などいらない。万国共通のギャグやで~♬」
謎の愛らしいステップを踏む軽やかな創作ダンスを披露していたが、当然のごとく火に油を注ぐ結果となったのは、言うまでもない。
「うぬう、よくも! 御前を血で汚すは本望ではないが、もはや黙って見過ごす訳にもいかぬ!」
激怒の青筋を立てた団長とルンバ・ラルの抜刀に続き、鼻血を袖で拭ったトムヤム君も長身に見合ったロングソードを鞘からズリズリと解き放った。
さすがに進退窮まり、3本の剣先に追い詰められたダケヤマは、信じられない言葉を相方に発した。
「おい、カヤタニ……」
「何やねん! いい打開策でも思いついたんか?」
「お前も脱げ……」
「何やて!? アンタ正気か?」




