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おわコン!~お笑い芸人は異世界で最高のコンビ!~  作者: 印朱 凜
第5章 倦怠期フライドチキン
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魔法使いティケ


 かつての威勢を失い、身構えるネクロマンサー・ヘカテだが、自分と全く同じ顔と姿を持つ魔法少女ティケを前にすると、戦うどころか固まってしまった。正に蛇に睨まれた蛙状態である。

 その場から撤退してゆくダケヤマには、双子の姉妹の喧嘩のようにも思えた。


「あいつらは……?」


 絶好調のティケは、ヘカテのヘアスタイルから足元まで……ボディラインを強調する際どいコスチュームをも含め、さらっと観察した後、こんな言葉を投げかける。


「ふ〜ン、なかなか上手に私をマネしてるじゃないの。でも……やっぱりニセモノだね!」


「……何だと?!」


 ネクロマンサー・ヘカテは、怒りと恐怖に任せて両掌から黒い稲妻を発する球電を発生させた。対するティケは、軽やかな詩吟のように古代語の呪文(スペル)を詠じ始めたのだ。


「私はね…………! もっとカワイイもん! 極大爆裂魔法…………Царь-бомба(ツァーリ・ボンバ)!!」


「何ィィィ!? いきなり呪禁(じゅごん)系……だと?」


 攻撃に転じていたヘカテの結界は間に合わない。


 閃光と振動が全てを包み込み、ティケ中心にスローモーションのようにあらゆる物が吸い込まれてゆく……かと思えば、一気に膨張して吹き飛ばされてゆく。

 その凄まじいエネルギーの解放に、ディアブルーン・ワールドを構成するVR空間の処理速度が追い付かず、見えている世界の所々が白黒反転を繰り返す。


 ――ダケヤマは両腕の隙間から確かに見た。


 ……研究施設(ラボ)の人間3Dプリンターを擁するプラントが、次々とひしゃげて重なるようにスクラップと化してゆく所を。

 ……ひび割れたカプセルが破裂し、中にいたヘカテ・クローンの全てが、魂を得ないまま……燃え上がった瞬間、キラキラと砂金のように煌めきながら分解してゆく悲劇を。

 ……部屋を覆い尽くした死せる白骨軍団が、叫ぶ事もままならず虚しく灰燼に帰す結末を。それは重装備のスケルトン、斧と盾だけの古代戦士、チェーンメイルに槍の元勇者……戦いに明け暮れた日々の残滓が、荼毘に付されてゆく。




「ヤマナン……さ……ま…………」


 ネクロマンサー・ヘカテの一部であった黒手袋をした腕が、親を捜す子供のように光の中をかき分けて進んだ。だが……思う人の所へ、もう少しで辿り着く前に消え失せてしまった。


 そんな中、ダケヤマと同じ結界防御魔法陣の中にいたアスカロンは、徐々に蒸発して粒子化する白い悪魔ヤマナンと目が合った。爆音の中で肉声は届かなかったが、水を打ったように静かになった心に直接響いてきたのだ。


「――最後となるが……君らに教えておきたい事がある。……行きすぎたモラルと正義の実現は、人類を緩やかな衰退と滅亡に導くだろう……!」


「ぬかせ! 悪魔め」


「……なぜならば、人間の本質は……“獣”なのだから……」


「戯れ言を……!」


 ……世界が浄化されたように白一色となった。

 デスモスチルス城は周囲を巻き込むほどの大爆発を引き起こすと、石造りの城壁は木っ端微塵に崩れ去り、跡には月面のような巨大クレーターだけが残されたのだ……。

 






 

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