お笑い芸人ダケヤマ2
ダケヤマは1ミリも動揺せず、白いスーツ姿の悪魔の前で変なポーズをした。こんな事は前座において慣れっこで、当然の反応なのである。
ヤマナンは青白く気品に満ちた顔を崩さず、やけに生々しい口元をCGのように動かしながら言った。
「…………運送屋? ――運送屋とは、旅客や貨物の輸送に携る運輸業を営む者の事を言っているのか? それに答えて『うん、そうや』とは……肯定の意味? だが少し日本の西域における言葉の訛り……つまり方言が含まれているように思う……」
「うん、そうや! トム・ソーヤ!」
「トム・ソーヤだと? 確か私の記憶によれば、アメリカの作家・マーク・トウェインが1876年に書いた小説『トム・ソーヤーの冒険』の主人公の名だったはず……。韻を踏んでいるのか? いや、これは連想ゲーム?」
ダケヤマと白い悪魔のやり取りを見て、アスカロンは拳を握り締めた。
「やった! 思ったよりヤマナンが食い付いているぞ。今のうちにティケを捜すんだ」
ヴァンパイア忍者カゲマルは静かに頷くと、さっそく大量にあるカプセルの中に眠るヘカテのクローン人間を、猛スピードで一体ずつ確認し始めた。
一方……ダケヤマの登場に調子を崩したネクロマンサー・ヘカテは、虫ケラを追い払うような仕草でローブ下に隠す形のよい胸を揺らせた。
「ヤマナン様、かような道化の言葉に、耳を傾ける必要はありませぬ!」
「トム・ソーヤ! 寒そうや!」
「ええい! 貴様は黙れ!」
固唾を呑んで見守っていたアビシャグも、ネクロマンサー・ヘカテのただならぬ様子の変化に思わず唸るのだ。
「う~ん……す、すごいよ、ダケヤマさん。氷山のごとく冷酷かつ冷徹で名高いヘカテを、ここまで動揺させるとは……。やっぱり、彼は本物……!」
円卓の騎士・アスカロンとのべ太、そして穴金までもが、ダケヤマの一歩も引かない華麗な戦いに見入ってしまった。
「おおう! あなたはヘカテ様! ご無沙汰してます~、相変わらずのべっぴんさんやな~。スタイル抜群やん!」
「黙れと言うのが分からんのか!」
「女の子のアンタには分からんやろうけど、最近なあ~……金玉が痒くて痒くて仕方ないねん!」
「……くっ……!」
「そんでな、蒸れるのを防ぐため、チン毛にライターで火ィ着けて燃やしたんや……。そしたらなぁ~、アロマの香りに包まれたのはええんやけど、畳に引火してエラい事になったんやで。部屋が火事になってしもうたんや!」
「………………っ」
「ほんで、駆け付けてきた消防隊員に変なあだ名を付けられました。……陰毛放火魔やって! これでやっと俺も、悪魔の一員なんやろか? 知らんけど」
命懸けのコントにダケヤマは、おかしなテンションになってしまったのだろうか。
あろう事か、ネクロマンサー・ヘカテのふくよかな胸に手を伸ばすと……谷間をなす、スベスベで綺麗すぎる柔肌を指先で突っついた。
――セクハラしてしまった!




